第20話 コラボ企画と動画投稿予定(2)
「お花見、ですか?」
次の動画に対するカザリちゃんの反応は、ピンときていないみたいだった。
外出する動画を俺達のチャンネルはあまり出していないから、ファンだからこそ疑問が出てくるのだろう。
「動画で季節感は大事にしたいんだよね」
「私達の動画で一番伸びるのって、家の動画だけどね」
「それは、そうだけど、ずっとそれも飽きると思うんだよね。……主に俺がだけど」
「……自分がお花見行きたいだけじゃない……」
俺達のチャンネルの再生数を稼ぐのは、家でまったりしている姿の動画だ。
同じソファで膝を付き合わせていたり、まったりトークをする動画が伸びたりする。
視聴者的には小細工なしにイチャイチャしている姿を観たいらしいけど、そんなんじゃ、すぐにネタ切れになる。
できれば、企画も絡めて新しい動画も上げていきたい所だ。
それに、まだ栞と話していて違和感がある。
視聴者の求めているイチャイチャ動画を出すのは、精神的にきつい。
演技が上手い方じゃないから、動画でもぎこちない自分が映るだろう。
モチベーションがないと、いい動画が出ないと思っている。
完璧に視聴者寄りの動画制作ができれば最高だけど、たまには自分のニーズ寄りの動画を出さないとモチベーションが低下する。
「花見しながら、食べ物を食べる動画が撮りたいよね。手作りでも、この前言っていたカフェの人気トップ10の動画を上げてないから、持ち帰りして紹介するとかもいいんじゃないかな?」
「花見といえば、お酒もじゃない? お酒に合うおつまみTOP3とかの動画はどう?」
「TOP3とかランキング形式にするのは賛成だね。分かりやすいし、一番好きなおつまみが何なのか気になる動画の引きをすれば、みんな観てくれるだろうし」
動画をどれだけ長く観てくれたかで、広告収入や動画の評価がShowTubeのAIでなされる。
同じ動画再生数でも、視聴者の観てくれた時間で広告収入は変動するのだ。
だから、最後まで観てくれるような動画内容は心がけなければならない。
「ただ、おつまみはなあ。女性の視聴者がそういうの観たいかな」
「別に枝豆とかたこわさじゃなくても、サラダとか和え物のおつまみだってあるんだし、一概には女性向きじゃないって言えないでしょ。それに、そもそも家でお花見すればいいんじゃない?」
「家で? 窓から桜見えるは見えるけど、あれじゃ、小さくない?」
俺が窓を指差す。
道端に桜は咲いているけど、あれ見ながらって無理がある。
俺らを映しながらバックに桜を見せるなんて無理じゃないか?
カメラ2台持ち寄ってから、俺達と、桜どっちも映すシュールな動画になると思うんだけど。
「私の好きなShowTuberの人、みんな家でお花見しているからアリだと思うのよね。グリーンバックを使って、背景を花見用に変えている人もいたし」
「それって、有名過ぎて花見に行ったらファンに囲まれるからじゃないのか」
俺達にはあんまり関係ないな。
ファンの人に話しかけられても、その後、え? 誰あの人? とかファン以外の周囲の人にヒソヒソ言われて、惨めな気分になるからな。
「何か、2人やっぱり仲いいですね」
カザリちゃんがどこか寂しそうに呟く。
「え?」
「ちょっと間に入れなくて寂しかったです」
「え? ああ、ごめん、ごめん。そんな仲いいわけじゃないけど」
そういえば、カザリちゃんのことを忘れていた。
喋ることもなくて、ずっとご飯を食べていたらしい。
もう食べ終わっている。
俺と栞はずっと喋っていたせいで、ご飯の半分も食べ終わっていない。
一人にさせてしまった。
「ぐっ……」
栞に肘鉄を食らわされる。
「仲はいいでしょ、仲は」
「そ、そうだな」
仲がいい演技をしろってことね。
ビジネス彼氏として、それぐらいはやらないとね。
「ごめん、ちょっとカザリちゃんを置いてけぼりにして話過ぎたね。やっぱり動画を上げる為には毎日話し合いしないといけなくて」
「その割には最近、企画の為の雑談配信してないですね」
「ああ、あれね。意外に人気だけどね」
動画のネタが思いつかない時は、質問コーナーを実施している。
テレビの人気バラエティで芸人同士が立って喋りながらコーナーを企画する番組から着想を得たパロディ的な質問コーナーだ。
2人だけだと話のネタも切れてしまうので、配信形式にして、流れて来たコメントに反応する。
事前に他の動画やSNSで質問や企画を募り、それについての意見も答えていく。
自分達でネタを考えずとも視聴者が考えたネタを動画にできる企画だ。
しかも、結構再生数が伸びるし、投げ銭も解禁しているので投げてくれる人がいる。
視聴者の意見が反映された動画が投稿されることもあるので、多くの人が集まって意見を出してくれる。
まさにWIN―WINの関係だ。
「そろそろ、雑談配信やってもいいかな?」
「まあ、そうね」
栞がそう言ってくれるのは、少しでも関係が修復されたからだろう。
ファンであるカザリちゃんが提案するってことは、他のファンも久しぶりの配信を求めているかも知れない。
提案者であるカザリちゃんは、両手を重ねる。
「ご馳走様でした!!」
「ああ、うん」
「この食器、どうすればいいですか?」
「ああ、洗っておくから、置いといていいよ」
「分かりました」
バタバタと足音を立てながら、カザリちゃんが素早く帰り支度を始める。
何か用事でもあるんだろうか。
「大学もあるので、そろそろ退散します!!」
青髪のカツラを被り、栞にレプリカの刀を持った拳を向ける。
「シオさん。私、負けませんから」
よく分からないことを言いながら、そのまま出て行く。
帰り際は嵐のようだった。
どうでもいいけど、私服のままカツラと、刀を持って出て行ったけど職質されないだろうか。
不安だ。
「『呪物大戦』でああいう台詞あったのかな?」
「……そういうことじゃないでしょ」
「え?」
聞き返したけど、何も返してくれなかった。
その後は何故か妙な緊張感があって、全然喋れなかった。
カザリちゃんがいた時の方がよっぽど話していた。
やっぱり、仲立ちしてくれる人いないと、まだ話せないな。
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