第47話 絶望

「なんで太陽が2つも..」


片方が太陽ではないと気付いたのは、それから間もなくのことだった。

動いている。というより、どんどん近づいてきている?


「待って、あれってもしかして..」


突然ヘラが青ざめ、怯えた声を出した。

徐々に接近する太陽に翼のようなものが見える。冗談だろ。


ものすごい爆音が周囲に響き渡る。

太陽だと思っていたそれが、地上に着陸しこちらを睨んだ。


「なんなの..こいつ。」


全身が炎に包まれている翼を持ったドラゴン。体長は20メートルほどある。アレクが以前倒した奴ほどではないが、ものすごい大きさだ。おそらく..


「こいつ、上位魔獣、かな。魁斗。」


声が震えているのがすぐにわかった。青ざめた顔のままヘラは立ち尽くしている。

守りたい。ヘラを守ってあげたい。でもそんな力がないことは自分が一番わかっている。2軍の時点で勝負は決まっているのだ。


逃げよう。ヘラを連れて今すぐここから。走るくらいなら俺にもできる。


「へ、ネル!逃げよう!早く!」


そういった自分の足が全く動かない。ひたすらその場で震えるばかりだ。

くっそ!なんで足すら動かない!


「ビーテさん!ビーテさん!」


すがる思いでビーテを探す。3人で助からなければ意味がない。


「多分、逃げたよあいつ。」


「え?」


逃げた?俺らを置いて真っ先にか?なんて人だほんとに。


「ごめん魁斗。私ビビっちゃって足動かないや。先、逃げて。」


引きつった笑顔でヘラがこちらを見る。弱いからだ。俺が弱いからヘラが助けを求めることすらできない。


「うおらあぁぁ!」


太ももをバシバシと叩き、なんとか一歩踏み出す。なんとかヘラの下へ行くんだ。


「ネル!おぶされ!」


「え、でも。」


「いいから早く!」


ヘラを背負い、立ち上がる。一刻も早く立ち去るんだ!

幸いにもビーテはすでに逃げている。背負って逃げるだけだ!


不思議と炎のドラゴンはこちらを睨むだけで攻撃はしてこない。逃げられるんじゃないか?


ドラゴンに背を向け全力で走る。速く。遠くへ遠くへ。


もしかして敵意なんてなかったんじゃないか?たまたま通りかかっただけなんてこともあるよなきっと。


「魁斗..もう私たち、無理だよ。」


ヘラが泣いている。


「どうしたんだよネル!攻撃してこないし絶対逃げられるさ!」


「上..」


泣きながら空を指さすヘラ。

直後に響く爆音。まさか。


逃げる先に降りてきたのは、全身が凍った同じシルエットのドラゴン。


上位魔獣2体に囲まれたのか。

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