第46話 異変

「あの、よろしくお願いします。」


落ち込んでいるヘラに声をかける。俺も落ち込んでいるわけだが。


「え、あぁ。ヘラ・アークネルよ。同じ2軍のよしみでネルでいいわ。敬語もいらない。魁斗だっけ。」


「あ、はい。いや、そう、魁斗。改めてよろしく。」


いきなりため口にするというのは、なぜこんなにも難しいのか。


「あんたは1回戦突破してたのにね。残念。」


「そのアルフレッドが選ばれてるから、何とも言えないな。」


哀愁漂う2人。しばらく無言の空間が続いた。


「おい、行くぞ~」


遠くから声が聞こえた。

そこまで年上ではなさそうだが、ヒョロヒョロで頼りなさそうな男が鎧を着て現れた。


「俺ビーテ・ゲル。お前らの指導係なー。」


この人が指導?

少し不安だな。態度も高圧的に見える。


「秋宮魁斗です。」


「ヘラ・アークネル。」


ネルがすでにイラついているのがなんとなくわかった。


「ビーテさんって呼べな。じゃ、行くぞー。」


うーん、うまくやっていけるだろうか。


「どこに行くんです?」


「その辺の雑魚魔獣討伐だよ。2軍の仕事はそんなもんよ。」


いちいち言い方にとげがあるな。多分ヘラは今舌打ちした。


「まぁ成果上げれば1軍に上がれるって言ってたし、せいぜい頑張んなー。」


そうか、もう一生2軍の仕事しか任されないわけじゃないんだ。頑張ろう。


3人はルデビトを出て、魔獣の住むエリアへ歩き出した。


「ビーテさん、ワープする魔法使えないんっすかー?」


今日はなんだか熱い。汗だくのヘラが聞いた。


「ばっかお前、あんな貴重な呪文2軍が使えるかよ。」


あんまり2軍2軍言わないでほしいんだが。

ヘラも同じ気持ちなのか、さらにイラついているように感じる。


どれくらい歩いただろうか。

なんだか空気が重たくなった気がした。見渡すとちらほら魔獣がいる。


「出てきたぞー。ほら、討伐してくれ。」


「え、ビーテさんは?」


「は?俺兵士じゃねぇから。ただの事務員。」


え!?じゃあこの人、ほんとただ俺たちを送り届けただけってこと?

事務員って。


戸惑いといら立ちを何とか隠しながら、下位魔獣の討伐を続けるヘラと俺。

ビーテ座っているだけなのが、さらに腹立ってくるな。


それにしても。

一体何体いるんだ?俺は1体倒すのがやっとだが、ヘラはものすごい速さで魔獣を倒している。トーナメントでは意地を張って負けたが、やはり実力は本物だ。それでも次から次に湧き出てくる。


「なかなか減らねーなー。」


このやろビーテ。手伝えってんだ。

気温はどんどん上がっていく。暑さもあり、さすがのヘラにも疲れが見え始めた。


「も~いつまでやるのよ!疲れた!」


おかしいな。ある程度倒せば弱い魔獣は退いていくって教わったんだけどな。

減らないどころか増えていく一方だ。


ヘラの魔法力が尽きれば、少々危険な状況になる。


「ビーテさん!これは1度引いたほうがいいんじゃ。」


「いやぁ、でもなぁ。負けるとは思えないし。」


くそっ、兵士じゃないビーテでは戦況がいまいち掴めないか。

ヘラの強さを見て安心しきっているのだろう。


「え!?」


異変に気が付いたのは、ヘラの叫び声を聞いた瞬間だった。


空を見上げるヘラ。


空には太陽が2つあった。

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