第20話 ばあちゃん...

そわそわしながら料理を待つ。

食べきれなかった時のことは考えない。どっちかはお金持ってるだろ。多分。


しかし、ルールがこっちに有利すぎないか?

3人で一皿なんてかなりぬるいぞ。

腹ペコに加え、こっちには暴走列車のミゲルがいるしな。


かかってこいよ、ばあちゃん。


「あいよ、おまちどう!」


料理の山で、持ってきたばあちゃんの顔が見えない。


驚きで3人とも目を丸くする。

直径60センチほどのどんぶりには、ハンバーグにエビフライ、ステーキに唐揚げととんでもないことになっている。


どうなってやがる、完食させる気ないだろ。


早くも後悔を始めた心を、なんとか押さえつけながら箸を持った。


「いただきます!!」


3人の目は血走っている。

空腹と後悔と不安で、頭がおかしくなりそうだ。


上に乗っているハンバーグを掴み取り、本能のままにかぶりつく。


う、うまい。

うますぎる。


噛んだ瞬間に溢れる熱々の肉汁。ジューシーで歯応えのある肉。コクがありながらもくどくなく、なめらかな舌触りのデミグラスソース。パーフェクトだ。


「美味いだろう?」


ばあちゃんが問いかける。


「最高です..」


悔しいくらいに美味い。

アジフライもオムレツもウインナーも格別に美味い。

もといた世界と食べ物が似ていることが本当にありがたい。


これならいくらでも食べられる。

完食できるぞ!


-絶望は突然訪れた。


半分ほど食べただろうか。正直もうしんどい。

どんぶりに箸を突っ込むと、明らかに違う感触を感じた。


これは、米か?


でかいどんぶりを覗き込む。

紛れもなく、チーズリゾットだった。


待て待て待て

この満腹にチーズリゾットだと?


とんでもないものを隠してやがった、あのばあちゃん。


ふと目をやると、ばあちゃんがニヤリと笑う。余裕をかましてくるわけだ。


武器を箸からスプーンに持ち替え、リゾットをすくう。


口に入れた瞬間、クリーミーなチーズの味と香ばしいベーコンが広がる。

うますぎる。


黒胡椒もアクセントになり、飽きさせない味だ。


しかし..


あまりにも暴力的な量だ。いまだに底が見えない。


アリサは先ほどから箸を持ったまま微動だにしない。おそらく限界だろう。


ミゲルはまだバクバク食べているが、余裕はなさそうだ。


俺の腹の容量も、残り10パーセントといったところか。


ぶっちゃけもう、ミゲルに頼むしかない。


だが、突然ミゲルの顔が曇った。


「これ、餅だ..」


なん、だと?チーズリゾットに餅だと?

とことん潰しにきてやがる..


さすがのミゲルも苦しそうになってきた。

俺は餅で完全にギブアップだ。

アリサは相変わらず微動だにしない。


「ミゲル頼む!!もうミゲルしかいねぇ!!」


「お願いミゲル!」


2人の想いを一身に背負ったミゲルはペースを上げる。


「うおおおお!」


店内がざわつき始め、ギャラリーが出来始めた。

周りからも応援が飛び交う。


しかしどうしても餅が進まない。


俺が、やるしかないのか。


再びスプーンを手に取り、リゾットを口に運ぶ。


「やめとけ魁斗!それ以上は..」


「いいんだミゲル。やらせてくれ。」


2人で食べ進める。そこにもう1つのスプーンがやってきた。


「私も、やるわ。」


「アリサ..」


さぁ、ラストスパートといこうか。


後悔する暇もないスピードで、米を書き込む。


3人が無言で、目を血走らせリゾットを食べる様は異様な空気を醸し出していた。


店内は見守り続けている。


そこからは、覚えていない。記憶があるのはミゲルが最後の一口を天に掲げた時だった。


「ラストひと口行くぜ!!」


スプーンを口に運ぶ。


周りから、歓声が上がった。


ばあちゃんがこちらに近づき、一言放った。


「32分だね!」


...

まじか。


「俺、金ないわ。」


「俺もない。」


「え、嘘でしょ!私が払うの!」


予想はしてたが、アリサしか金持ってないわ。

ごめん、アリサ。


「なんてね!お代はいらないよ。3人とも、これからの国を頼むよ。」


ば、ばあちゃん!

成功してもしなくても、タダで食べさせてくれるつもりだったのか..


俺はばあちゃんへの感謝と重いお腹を抱えながら、2人と別れミーサのもとへ歩き始めた。

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