第17話 合格発表

ふぅ、なんとかカレーを食べ切った..緊張で全然入っていかねぇ。

アリサもなんとかパスタを口に運び終えていた。苦しそうだ。


なんでミゲルはカツ丼2杯に春巻き3つも食べてんだ。デザートのジェラートまでいきやがった。


「よくそんなに食えるな。」


「見てるこっちまでお腹いっぱいになるわ..」


アリサと2人でジッとミゲルを見る。


「筋肉の維持には、食べ物が欠かせないからな!」


ミゲルが得意げに答える。

なんでそんなに嬉しそうなんだ。


「2人は出身どこなん?ルデビト?」


唐突にミゲルが聞いた。

この質問はまずい..


「私は北のシロドウから来たの。」


「えぇあの寒いとこから!俺はキオサ村から!こっからずっと西だな!」


いやわからんわからん。北海道とか大阪しか知らんぞ。


「魁斗は?」


悪気なく、ミゲルがこちらに話を振る。

どう答えるべきか。


「あーっと、ち、千葉っていう国ってか県ってか..」


「チバ?聞いたことないなぁ。どのへん?」


ミゲルの真っ直ぐな目が眩しい。

アリサ助けてぇぇ


「まぁ、なんていうか、その..」


なんて言えばいい。

異世界の日本から来ましたなんて、初対面の人間が言い出したら俺はドン引きだ。


「言いたくなけりゃ、いいんだぜ。」


「人生色々あるもんね。」


訳ありだと気がついたミゲルとアリサが言う。

ほんとに優しいやつらだ。


なんか、隠しごとするのも嫌だな。

今日会ったばっかだけど、俺を受け入れてくれる気がした。


「実はさ」


2人がこちらに視線を向ける。

やばい緊張してきた。変なやつと思われて距離置かれたら、結構きついな。


「異世界から来たっていうかさ。その、俺もよくわからないんだけど、日本っていう違う世界にいて、気づいたらここに..」


言葉がうまく紡げない。

反応が怖くて、2人の顔を見ることができない。どう伝えれば..


「なんだそれ。」


ドキッとした。


初めて聞くミゲルの低い声。

言葉が胸に刺さる。サーっと血の気が引いた。


初対面のやつが、突然こんなこと言って受け入れてもらえるわけがないだろ。

俺は何を舞い上がっていたんだか。


表情が怖くて、うつむいた顔を上げることができない。


アリサの声は一切聞こえなかった。


「めっっちゃすごいなぁそれ!魁斗はすごいやつだと思ったよ!はは、まじかよ!」


ガバッと顔を上げる。

満面の笑みでミゲルがこちらを見ている。いかにもワクワクしている輝いた目で。


チラリとアリサを見る。

口元に手を当て、こちらを期待ギンギンの目で見ながら、コクコク頷いている。

正直、ミゲルよりもワクワクしているように見えた。


なんでこんなにいい人達を、少しでも疑ってしまったんだろうな。


「え、魁斗?なんで泣いてんの?」


「食べ過ぎて苦しくなっちゃった?」


2人に言われるまで気が付かなかった。

俺はなんで泣いているんだろうか。

恥ずかしい、人前なのに抑えることが出来ない。


「いや、なんでもない!向こうの世界の話、聞いてくれるか?」


俺の面白くもない現実世界の話を、2人はうんうんと楽しそうに聴いてくれた。

一切疑っていないのが、痛いほど伝わってきた。

こっちの世界で素敵な仲間ができたことが、何よりも嬉しかった。


『試験の合否を張り出します。志願者はお集まりください。』


楽しい時間はあっという間で、緊張も薄れながら合否の時間を迎えた。


アナウンスで再び現実に引き戻される。


「行くか。」


2人に声をかける。同時に頷いた2人と共に大広間へ向かった。


すでに大勢が集まっていた。みんな表情が強張っているのがわかる。


「まずは、魔法使いから発表する。」


王家の者だろうか。50歳ほどの男が大きな紙を持ってきて、壁に張り出した。

なんだか日本の受験のようで、妙に親近感がある。


魔法使いの合格者は、4名だった。


歓声とため息が一気に溢れ出す。300人ほどいて、4人しか受からないのか。


しかし、一向に戦士の発表がない。

会場もざわめき始めた。大広間の大きな扉の向こうからは、揉めている声すら聞こえてくる。


「どうしたんだろうな。」


ミゲルが声をかけてきた。さすがに緊張の面持ちをしている。


魔法使いの合否が発表されてから、10分ほど経っただろうか。

ようやく先ほどと同じ男が、大きな紙を持って張り始めた。


ついにか。

鼓動が速くなる。何もできなかったとは言え、やはり期待してしまう。


頼む頼む頼む。


戦士の合格者は7名だった。



その中に【449】はなかった。

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