第10話 覚醒の片鱗

「もう1度お願いします、アレクさん。」


その後も幾度となく剣をふるい続けた。しかし、やはりアレクの剣には傷1つもつかない。

ふらりと飛びそうになる意識を繋ぎとめ、なんとか前を向く。


朦朧とする中でなんとなく、隙のようなものが見えた気がした。


あ、切れる。


無意識に、アレクめがけて真一文字に剣を振り切る。


「うわ!」


アレクが初めて声を出した。その瞬間にアレクの剣は炎をまとった。

ガキィンという鋭い音がグラウンドに響く。自分の剣がアレクの炎で焼き切れるのが見えた。

焼き切れた剣の先端が、かなりのスピードでミーサの顔をめがけて飛んでいった。


「ミーサさん!危ない!」


アレクが叫んでいた。

そう認知した瞬間には、俺の拳は飛んでいる空中の剣先をとらえていた。


自分の手に穴が開いてもミーサを助ける。頭にはそれしかなかった。

時間が遅くなったように感じる。ゆっくりとミーサの方へ飛んでいく剣先に狙いをすまし、拳を振りぬいた。


グラウンドは激しい光に包まれた。



「魁斗さん、ミーサさん、大丈夫ですか!」


慌てているアレクの声が遠くから聞こえてきた。


「私は何ともないわ。魁斗平気?」


「あぁ、大丈夫だ。ミーサが無事で良かった。あれ、剣先は?」


見渡すがそれらしきものはない。自分の手も無傷だ。どこかに逸れたのか。


「魁斗が殴った瞬間に、消滅したわ。」


「え、俺が?」


空中の剣がスローになったところまでは覚えているが、そのあとはよく覚えていない。

俺が破壊したのか?素手で?


「アレクの炎で燃え尽きたのかもしれないわね。ものすごい光が出てたし。そんな魔法見たことないもの。」


そうか、俺が殴った瞬間に運よく燃え尽きて、手も無事だったわけか。こりゃラッキーだったな。


「でも吹っ飛んだ剣先に追いつくなんて、とんでもないわ!魁斗、こんな力を持っていたのね!」


嬉しそうにミーサがピョンピョンと跳ねる。

正直、無意識すぎてすごいのかどうかもわからないんだが。


「それはそうと、アレク。」


「は、はい..」


声から、アレクが怯えていることがすぐにわかった。


「素人相手に、あなた魔法を使ったわね?」


「す、すみません。想像以上の太刀筋とスピードで、つい本気で防御してしまいました..」


俺としてはこれ以上ない誉め言葉だ。口に出せる雰囲気じゃないけど。


「言い訳をするのかしら?アレク。」


「い、いえ!決してそんなつもりでは!」


すんませんアレクさん。なんか悪いことしたかも。


「まぁ、幸い誰にもケガがなかったから良かったわ。とりあえず、グラウンド100周行ってきなさい。」


ひゃ、ひゃくしゅう!?お嬢さん、そりゃちょっと言いすぎじゃ..


「かしこまりました。150周行ってまいります。」


いや、行けんのかい!てかなぜ増やす!


「いい心掛けね。じゃあ早速、200周スタート!」


なんでさらに増えるんだよ!結局倍じゃん!


心の中でツッコミを入れながら、80キロに及ぶアレクの長い長いマラソンが始まった。

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