第9話 悔しい悔しい悔しい

ぶんぶんと無我夢中で剣を振り回す。


「..さん、か..とさん、魁斗さん!」


ハッとするとアレクが名前を呼んでいた。

どれくらい剣を振っていたのか、記憶がない。


「あれ、俺は..」


「魁斗さん、勝負はもうおしまいです。」


よく見ると自分の剣だけが、ボロボロに刃こぼれしていた。


残念そうに、ミーサとアレクが顔を見合わせる。


「ごめんね魁斗。言いにくいんだけど、魁斗には剣の才能も魔法の才能もあまりないみたい。」


「えっ、ど、どういうこと?」


「魁斗が今使った剣はね、魔法力に応じて強化できる剣なの。でも見てわかるとおり、魁斗の剣はボロボロで、アレクのただの剣に傷ひとつ付けられていないの。」


そう..か。

経験がないとはいえ、俺にはかけらも才能がなかったわけか。

ミーサにここまで付き合ってもらったのに悪いな。

剣闘士になれないことがわかった以上、どう生きていくべきか改めて考えないと。



手の甲に、涙が落ちた。

泣いてるのか?俺。


剣闘士になれると思っていた。自分は特別なのだとどこかで信じていた。

それなのに..


情けない情けない情けない

悔しい悔しい悔しい悔しい


涙が止まらなくなった。そんな自分すら情けない。


「うっくっ、あ、あぁ..」


「魁斗、大丈夫?」


ミーサが肩に手を置く。その優しさすら辛かった。


「ミーサ、俺は..」


「うん、そうだね。さらに厳しい特訓をしないとだね。」


そうだ。今よりもっと厳しい特訓に..ん?


「今、なんて?」


「だーかーら、才能ないからもっと厳しい特訓しないと剣闘士になれないよって。」


「えと俺は、まだ剣闘士になれるのか..?」


「まだも何も、才能ないだけでなんでもうなれないって決めつけちゃうのよ。」


ミーサが真っ直ぐに、それでいて不思議そうに尋ねる。

その正論に言葉がつまる。


たしかにそうかもしれない。消防士の件もそうだ。運動経験がないってだけで諦めようとしてた。


「俺ってほんと、ダメなやつだな。」


笑えてくる。

本当に情けなくなった。しかし今度は涙は出なかった。


「ごめんミーサ。もう大丈夫!なんでもするからトレーニングを続けてくれ!」


「そうこなくっちゃ!もっと厳しくなるわよ!」


ミーサが嬉しそうに答える。


もう絶対に諦めないと誓った。

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