第1話 Cパート
クラスメイト達が談笑するのを横目に、美波は再び視線を外に向けていた。相変わらず校庭には薫風が吹き荒んでおり、安全圏からそれを眺める美波の心情は実に穏やかだ。だから、不意の声に隙を突かれ、美波は肩を揺らす。
「これ、……あなたのですか?」それは聞き覚えのある声だった。
頬杖を突いたまま、ゆっくりと振り向く美波。そこに立っていたのは、記憶に新しい人物だった。
動揺を隠せないまま美波は、短く「うん」とだけ答える。
「よかった。踏むところでした」単調で抑揚のない声音の主は風間だ。
いつの間にか落ちていた新聞記事を、そっと机の上に置いた。
「スクラップにするつもりなんですか? それにしては随分昔の記事ですね」
「そのつもりなら、持ち歩いたりしないよ」
「それもそうですね。ならどうして? ……あっ、すみません。性分なもので。気になったら追求してしまう質なんですよ」
頭に手をやり、申し訳なさそうに頭を下げる風間であるが、表情は変わらない。至って真顔だった。そんな彼であるから下手に冷やかしたり、吹聴したりしないと判断した美波は真実を話すのだった。
「そこに載ってるの私の姉なの」
「へー、そうなんですか」風間は言いつつ、今一度記事に顔を近づける。
「二年前のあの事件ですね。僕も覚えていますよ。長閑な場所で死人が出たんで、当時は騒がれてましたよね。それにしても、お姉さん思いですね。今でも当時の新聞記事を持ち歩いてるなんて」
「どうなんだろ。姉思いとは少し違うかな。あまり姉とは上手くいってなかったし」
「なら、どうして?」
「強いていうなら、後悔かな。姉も私に見せない一面が有ったみたいだし、それに姉が自殺するなんて思えないんだよね。美人で勉強も出来て、友達も多かったし」
「そうなんですか――」
一瞬の暇ののち、風間は口火を切った。
「なら、調べてみますか?」
思いがけない言葉に、美波は風間を見た。新聞記事を見つめる風間は、やはり無表情だった。
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