第27話 妹と、どんな関係を続けていけば?

 街中にあるファミレス。

 あまり外食はしないものの、大体一年ぶりくらいに入店したような気がする。

 最後に利用したのは、中学三年生の終わり頃だったはずだ。


 高校生になり、周りの人が恋人を作る中。高校生カップルの定番のデート場所である、ファミレスから距離をとって生活するようになっていた。

 やはり、付き合ってすらいない状態で、入店するのは勇気がいるのだ。


 高校に入学した頃は、まったく彼女なんてできなくて、寂しい学園生活を過ごしたものだと、ファミレスの窓から見える外の景色を見つめながら、ふと思う。

 でも、去年よりかはマシになっているはずだ。

 ただ、女の子関係で色々な悩みを抱えることが増えた気がする。

 それが良いか悪いかわからないが。


 琴吹はテーブルに広げられたメニューを見つめる。

 何を注文しようか。

 そう考えてると、対面上に座っていた大人びた服装をする女の子――詩乃がコップに入っている水を飲んでいた。


「琴吹さんは、何がいい?」

「まだ、決めてる最中なので」

「そう? 私はもう決まったけど。ね、悩みっていうのは、何かな? 神楽さんとはうまくいってるの?」

「どちらでもないですね。平行線的な感じで、特に何も」


 琴吹は表情を変えずに、淡々と話した。


「そう? じゃあ、神楽さんじゃない子の相談?」

「え、まあ、そうですね……」


 琴吹の歯切れが悪くなる。


「だれ? うちの学園の子?」


「まあ、そうですね」

 こんなこと口にしてもいいのか?

 琴吹は口ごもってしまい、発言が遅れる。


「えっと、その……引かないでくれますか?」

「何を改まって。いいよ。どんなことでも私、引かないから」

「そうですか。だったら」


 一応確認はとった。

 多分、話しても大丈夫だと思い、口を開く。

 多少の心の不安を抱えつつも、詩乃の瞳を見て、真剣に今、思っている事、そして悩んでいることを素直に口にしたのだ。


 けど、内面にある感情を外に出せば出すほど、対面上に座っている詩乃の表情が歪んでいくのが分かった。


「……」


 詩乃からの返事はない。

 やはり、言わない方が良かったのかもしれないという、罪悪案に駆られてしまった。

 心が痛む。


 詩乃から、なんて返答がくるか、考えるだけでもゾッとする。

 視線をそらし、気分を紛らわすために、メニュー表を見つめていた。

 緊張したまま食べたいものを選ぶのは、落ち着かない。


「ねえ、琴吹さんは、妹さんのことが……好きなの?」


 確認するように聞いてくる。

 詩乃へ、無言で頷く。


「そう……まあ、えっとね。私はね、あなたがそれでいいのなら別に何も言わないけど。実の妹なんでしょ?」

「……違います」

「違うの?」


 詩乃は驚く顔を見せる。


「はい。心菜とは、血が繋がっていないみたいです」

「そうなの? 義妹ってことなの?」

「はい。そうみたいですね」

「ということは、親が再婚したってこと? いつ頃か、聞いてもいいかな?」


 詩乃は伺うような姿勢だ。


「すいません。俺もわからないんです」

「え? 知らないの?」

「はい……」


 琴吹は申し訳なさそうに言った。


「じゃあ、確認の取りようがないじゃない。でも、本当に再婚したのなら、なんで両親があなたにだけ言わなかったのかしらね?」

「え、ああ、そうですね。おかしいですね」


 琴吹も今、その怪しさに気づく。


「もしかして、妹さん。嘘をついているんじゃない?」


 琴吹は詩乃の今の発言に、ドキッとし、心臓が抉られるように胸辺りが熱くなった。


「嘘を? いや、そんなはずは……でも、それもありえるんですかね?」


 曖昧な表情でしか返答できなかった。

 確かに、おかしいところも多い。


 再婚しているのなら、父親か母親のどちらから言われてもおかしくないのだ。

 なのに、どうして、自分には言ったてくれなかったのだろうか?

 言えない何かがあったのか?

 実際、両親に聞いてみないとわからないことだらけだ。


 再婚するにしても、いつしたんだろうか?

 ということは、父親か母親のどちらかが再婚相手ってことになるのか?

 冷静になって考えれば怖い。


 今になって、謎めいた疑問に悩まされる。

 心菜との関係だけでも大変なのに、脳内が混乱しそうだった。


「あ、っと、ごめんね。なんか、変なことまで聞いて。琴吹さんは、妹さんと付き合いたいの?」

「わからないです」

「じゃあ、質問の仕方を変えるけど。好きなの?」

「……もしかしたら、そうかもしれないです」

「そう、なのね。まあ、妹さんが義妹なのかどうかを含めて調べないと、正式に付き合うためのアドバイスなんてできないよ」

「ですよね」


 琴吹は小さく言う。


「あれ? ということは。妹さんが好きな人って、あなたの事なの?」

「はい」


 ただ、頷いた。


「……だから、いくら告白されても付き合わなかったわけね」


 詩乃も納得がいったらしい。


「でも、それが困りものなのよね。んん、じゃあ、いっその事、付き合うっていうのは?」

「え?」

「いや、だからね。恋人してではなく、普通に付き合うだけって事。それなら別に義妹かどうかの確認が取れなくても付き合えるでしょ?」

「そうですね」

「まあ、神楽さんとの関係もあるし、二股を強要させてるみたいになってるけど。妹さんとは恋人にならない程度に付き合ってくれない? 私の恋協部にも色々と影響が出てるの。お願いッ」


 詩乃から真面目にお願いされてしまった。

 そんな彼女の表情を見てしまうと断りづらい。


「だったら、今回のファミレス代。私が支払うから、それで手を打ってくれない?」

「……わかりました。では、一応それで、妹とは付き合ってみます」


 琴吹は詩乃を助けるためだと思って、受け入れることにした。


 今は妹と付き合ってみる。

 恋人としてではない。

 兄妹としてでもない、曖昧な関係として関わっていこうと思った。


 でも、詩乃に話して少し気が楽になったような気がする。


「琴吹さん? それで、何にするの?」

「あ、まだでしたね、注文」


 琴吹はメニュー表を見て、今食べたいものを探す。

 けど、そこまで食欲が湧いてくることはなかった。

 簡単に口にできる飲み物だけを選ぶことにし、詩乃の分を含め、スタッフへと注文し終える。


 琴吹は窓から外を眺めた。


 そこには、カップル同士で街中を歩く男女が多く目に入る。

 もしかしたら、その中にも兄妹同士が付き合っている人が数組ほどいるかもしれない。


 そう思うと、兄妹同士で付き合うのも悪くないと思い始めるのだった。

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