第25話 優奈さんとのデートプラン、どうしようかな…
「なにしよっか?」
「別になんだっていいよ」
「なんでもいいの? 本当に?」
「だからって、なんでもいいわけじゃないからな」
自宅のリビング。琴吹は妹の心菜と対面していた。今、テーブル前の椅子に座り、妹はニヤニヤとした笑みを浮かべ、何かを企んでいるような顔つき。
変なことが生じないように、念を押しておいたものの、少々不安が残る。
「ねえ、朝食も取り終わったことだし、何かしようよ。今日は土曜日でしょ? どこかに出かけようよー」
心菜は誘ってくる。
多分、街中に行ってデートをしたいのだろう。
だがしかし、それは無理。
今日は優奈のために、昨日購入したデートプランを組み立てる本を読む予定にしているからだ。
「いや、俺には予定があるんだ。それに心菜も何か別にやることがあるんじゃないのか?」
「えー、特に何もないよ?」
「なんで?」
「だって、お兄ちゃんと一緒に過ごすことにしてたもん」
「……友達は?」
「……約束してないし。だから、お兄ちゃんから拒否されたら私、どこにも行くところないよ?」
「そうかよ。だったら、今日一日、自室で何かをすればいいじゃんか。俺だって、色々とやる事あるだよ」
琴吹は食事を終えたことで、テーブルに置かれた食器を片付けようと、立ち上がることにした。
「ちょっと待って。そんなツレナイこと言わないでよー」
妹は甘々な声で誘惑してくるのだ。
一瞬、琴吹の動きが鈍くなる。
「それに、お兄ちゃん。私のマ●コ、弄ってたじゃん♡」
「んッ」
そんなことを言われると、反応に困るといった感じだ。
確かに昨日、お風呂場で心菜の大事なところを触ったのは事実。
けどそれは、お風呂から上がるための手段であって、好きで触ったわけじゃない。
指に残っている、妹のアレの感触を思い出してしまい、脳内がどうにかなってしまいそうになるのだ。
あああ、なんていう呪縛なんだよ。
昨日の感触が脳内を駆け巡り、妹と目線を合わせるだけで、心臓の高鳴りを感じてしまう。
なんでだよ……心菜、そんな顔するなよ。
普段は幼い風を装ってるのに、誘惑する時だけ、大人びた表情を見せてくるのだ。
……好きじゃない。
心菜のことなんて、意識もしてないし、好意を抱くつもりなんて一ミリもないのだ。
ああ、俺はどうすれば。
「お兄ちゃんッ、どうしたの? 昨日の私の体が忘れられないって感じ、かな?」
「……」
ダメだ……心菜の方を見るな、俺。
自分に何度も言い聞かせた。
瞳を合わせてしまったら、終わりだ。
今日は……いや、優奈に告白するまでは、心菜と関わりたくない。
どうして……どうして、心菜は義妹なんだよ。
知りたくもなかった義妹という言葉。
単なる兄と妹という間柄であれば、どんな環境になっても、自分の心を抑えられたかもしれない。
それができたら苦労しないのだが、今の琴吹には無理そうだった。
「俺、絶対に今日は一人でいるから」
そういうと、琴吹は食器を手に持ち、洗い場に持っていく。
「あ、ちょっと待って、お兄ちゃんッ」
妹から話しかけられても、振り返ることはしない。
サッと水で洗う程度で、心菜と極力関わらないように、二階の自室へと階段を駆け上がるのだった。
一人、自室の椅子に座っていた。
目の前の机には昨日購入した、『デートプランって、どういう風に決めればいいんですか? Q&A』の本がある。
ページをめくり、優奈のことを考えながら、本の目次。そして、冒頭文へと視線を移しながら読み始めていた。
【本書では、どのように異性にアプローチしていけばいいのかの手順や手法。それと考え方などを重視して書かれています。この本を読んでおられるということは少なからず、プランの立て方などでお困りということになります】
この本って、付き合ってる前提なのか?
と、琴吹は思った。
デートプランの立て方が基本となり、異性にどのように話しかけるとか、そういう情報は一切記されていない模様。
この本は恋愛中級者向けといった内容になっているようだ。
琴吹と優奈は付き合っていなくとも、一応友達として普通に会話できる間柄。ほぼ初対面とかだったら、プランを決めただけでは意味がなかった。
後で購入予定の本二冊がある。自宅近くの本屋に残っていたのが、デートプランの立て方の本でよかったと、今になって思う。
「えっと、手始めに……」
【好きな異性は誰ですか? どんな人はどんな人ですか? デートプランを立てる前に、どんな人か、どんな趣味か、どんな考え方の人なのかをある程度、知っておく必要性があります】
「好きな人は……まあ、そりゃ、優奈さんに決まってるさ……」
一瞬、脳裏を妹の姿がよぎってしまったが、全力でかき消した。
ありえない。
心菜を好きになるなんて。
琴吹は気分を紛らわし、本を読み進めた。
「えっと、優奈さんは優しい女の子で、思いやりがあって、弟や妹の面倒見が良くて。それに料理もできる子で……探せば他にも色々ありそうな気がするな」
琴吹は思いつく限りのことを近くにあった白紙のノートを手に取り、めくる。
パッと見て、わかりやすいように箇条書きで書き始めた。
優奈は家庭的な女の子であり、怒ると少々怖いが、将来結婚しても問題のない生活力を持っていると思う。
成就祭が始まる前に、ある程度良い関係になっておきたい。成就祭週間の際には、互いにサポートし合える間柄になりたいのだ。
優奈が得意なのが料理だとしたら、自分には何ができるんだろう。と、ふと考えてしまった。
以前、恋協部のアンケートにも記されていたことだ。
ハッキリとはわからない。
今はこの本を一通り読んでから、それについてはもう一度考えようと思った。
【次に、世間の流行を意識して、雑誌やテレビ、ネットには毎日、目を通すようにしていますか?】
雑誌とかか……、漫画しか、というか、エロ漫画ばっかりだな。
エロ本なんて、優奈に見られてしまったら確実に引かれてしまうだろう。
もう少し女の子を意識した雑誌を見ないといけないよな。
これは後でネットとかを見て、世間の恋愛情勢を確認しておいた方がいいと思う。
【人気スポットは、熟知していますか?】
人気な、場所か……。
全然把握してないな。
琴吹は女の子とデートできればどこでもいいとばかり考えていた。
実際、そういうことでは済まされない。
デートと言えば、街中とか、そんな場所だろうが、女の子を意識したデートの場合、人気スポットを把握しておいた方がポイントが高いのだろう。
簡単なことではあるが難しいと思ってしまうのだ。
【マンネリ化しない戦略はありますか? いざという時に備えて、色々なことを考えておきましょう】
戦略は、まだ無いな。
童貞である自分には恋愛のテクニックすらないのだ。そもそも戦略とか、大層な手法なんてまだ扱えそうな気がしない。
【あとは長々書くのもよくないので、本題のQ&Aに入らせてもらいます】
ようやく求めていたところまで到達できた感じだ。
琴吹は切りのいいところで席から立ち上がり、飲み物を冷蔵庫から取ってこようと思った。
部屋の扉を開けた瞬間、誰かとぶつかってしまう。
「きゃああ」
「んッ、ご、ごめん……」
誰かというのは、すでにわかりきっている。
心菜のことだ。
「なんで、ここにいるんだ?」
「お兄ちゃん、私の相手をしてくれないんだもん。ずっと、部屋の前で待ってたんだよ」
「……本当に他にやることないのか?」
「うん」
「はああ……」
困ったものだと思う。
琴吹は自分の髪を弄りながら、面倒くさそうにため息を吐くのだった。
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