第24話 心菜、そういうのは口にしないでくれ…

 今日は金曜日の夜。

 一週間の中で、一番解放された気分になれる日でもある。


 明日、登校しなくてもいいと思うだけでもテンションが上がるというものだ。

 ただ、今は別の意味で、気分が高揚していた。

 テンションが上がるとか、そういうのとも少し違うかもしれない。

 下半身がどうにかなってしまいそうで、琴吹は冷静さを失いつつあったのだ。


「心菜? い、いつまで、この態勢でいればいいんだ?」

「あと、もう少しだから」

「あと少しって?」

「あと少しって、言ったら、あと少しなのッ」


 妹は子供っぽい口調で、駄々をこねるような言い分である。

 琴吹からしたら、その少しでさえ長く感じてしまう。

 ああ、どうすれば……。


 琴吹は今、心菜を背後から抱きかかえているのだ。

 ただ、抱きかかえているというわけではない。


 お風呂場の湯船でかつ、全裸で、という意味だ。

 ほぼ肌と肌が重なっている状態であり、心菜の後ろ姿が瞳に映っている。黒髪ショートヘアがお湯に濡れていて、余計に性的に見えてしまう。

 琴吹は風呂場の壁や床を見て、気分を紛らわしていた。


「お兄ちゃん?」


 妹は少しだけ振り向いてくる。


「な、なに?」


 たったそれだけの仕草だけでも、ドキッとしてしまうほど、琴吹は平常心を保てなくなっていた。


「当たってるよ」

「え?」


 何がと思う。


「お●んちん」

「お、おい。そういうのは直接言わないでくれ」

「えへへ、だって事実じゃない。おっきくなって、私の腰の部分に当たってるんだもん♡」

「そうだけど……そうかもしれないけどさ」

「……」

「……」


 な、なんだ、この妙な間は。

 余計に変に考えてしまうだろ。

 というか、急に静かにならないでほしい。


 琴吹の心臓が活性化している。


「お兄ちゃんの心臓、ちゃんと動いてるね」

「あ、当たり前だろ……そんなの」

「けど、こうして、お兄ちゃんの心臓の鼓動を聞くのは初めてかも」

「だろうな。子供の頃だって、ここまで密着して、お風呂……って」


 いや、そういうのを思い出しちゃダメだ。

 と、琴吹はすべてを言い切る前に思い、急に無言になった。


 風呂場の熱も相まって、余計に頬が赤く染まってしまう。

 考えれば考えるほど、緊張が収まらない。

 下半身の方も抑制が効かなくなってきたのだ。


「もしかして、恥ずかしくなっちゃった?」

「そんなわけ」


 否定的な反応を見せた。


「でも、さっきより、心臓の鼓動が早いよ」

「……」


 本当のことであり、言い返せなかった。


「お兄ちゃん、と一緒にお話ししてるの、楽しい♡」

「いや……俺は別に……」


 琴吹は別の方を向き、つれない台詞を口にした。


「そんなこと言って、嬉しいくせにー」

「勝手にき、決めつけんなよ」

「もう、お兄ちゃんはそういうところ、素直にならないとねえ」

「十分、す、素直さ」

「へええ、お兄ちゃんさ、さっきから声が震えてるよ」

「それは、その、色々な事情があるんだよ」


 何とか言い切った。


「そう? 色々な事情って、お●んちんの事情?」

「んッ、だから、ちょっとやめろって」


 心菜はいきなり、琴吹のそれを触ろうと、後ろに手を回してきたのだ。

 琴吹は両手で妹の両腕を抑え、落ち着かせた。


「いいじゃんー、なんでダメなの?」

「それは、心菜が触るようなものじゃないだろ」

「それ、決めつけじゃん」

「……」

「だって、お兄ちゃんと結婚したら、いつも見たり、触ったりするんだよ」

「だ、だから、早いんだって」

「何が、早いの? なに?」

「んッ、あっと、違うからな。そういう風な意味での早いとかじゃないから」

「あはは、反応が面白いよね、お兄ちゃん」


 妹は笑顔を見せながら笑っている。自然な感じだった。


「……」


 そんな心菜の姿を見ていると変に意識してしまう。


 こんなんじゃないのに。

 いや、好きになるわけないじゃないか。


 琴吹は妹の腕から手を放す。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない。そろそろさ、上がろうと思って」

「ダメだよ。もっと一緒に居てよ、お兄ちゃん。今日、私との約束を破ったでしょ?」

「けど、もう、いいだろ」


 琴吹はぶっきら棒な言い方しかできなかった。

 妹の顔や体を見、直接言えるほどの冷静さを保てないと思ったからだ。


「今上がったら、お兄ちゃんのお●んちんが見えちゃうよ」

「んッ」


 琴吹は咄嗟に湯船に浸かり直したのだ。


「えへへ、やっぱ、恥ずかしいんでしょ」

「そういう風に言うなよ。余計、変な気分になるだろ」


 調子が狂う。

 どうしたんだろと、自分でも思ってしまうほどだ。


「でも、ごめんね」


 心菜の声が小さくなる。謝罪のようなセリフ。


「ん? なんのこと?」

「お兄ちゃんがブラジャーとか、パンツが好きな事気づかなくて」

「んッ、いや、俺は別にそう性癖とかないから」

「だからね。お兄ちゃんのために、毎日脱ぎたての下着を一日だけ貸してあげるから♡」

「い、いいよ。それは」

「OKってこと?」

「だから、ち、違うから。って、こんなやり取り、どっかで」


 以前も妹と、こんなやり取りをしたことを振り返る。

 デジャヴなだけなのだろうか?


「ねえ、お兄ちゃんは? どんな色の下着が好きなの?」

「勘弁してくれ。全裸で風呂に入ってるだけでも大変なのに。そういう話題は……」

「だって、お兄ちゃんが、先輩の下着を持っていたことが、そもそもの原因なんだからね」

「だからって、ここまで話を伸ばさないでくれ」

「私は伸ばしたいけど、色々とね」


 意味深な言い方。

 変に想像してしまい、琴吹は頬を赤らめる。


「あれー、どうしたの、お兄ちゃん? また、エッチなこと?」

「違うから」


 ああ、本当にどうにかなってしまいそうだ。


「あと、お●んちんの方もさっきよりおっきくなってきてるよ♡」

「本当にさ。ダメだ、このままだと、心菜を襲って……い、いや、なんでもない」


 琴吹は余計な発言だと気づき、おとなしくなった。


 義妹だったとしても、一緒に生活してきた妹である。

 変な気分にはなってはいけないと強く思うたびに、心菜のことが気になってしょうがなかった。


「ねえ、素直になってもいいのに♡」

「お、俺は素直さ、十分にな」

「嘘。私、わかるもん。ずーっと一緒に生活してきたんだよ。お兄ちゃんの事、わかるに決まってるじゃん」

「……」


 琴吹は何も言い返せなくなった。


「お兄ちゃん?」

「……」


 湯船と風呂場の温度により、体が火照ってきていた。

 そろそろ、本当に上がりたい。


「私ね、あのね、お兄ちゃんの……指で感じたいの」


 ついには、心菜の口からありえないセリフが聞こえ、耳を疑ってしまう。


 けど、妹のことだ。

 さっきから性器の名前も口にするほどであり、いずれ、そんな発言もするだろうと、納得してしまう琴吹がいた。


「血の繋がってない兄妹だとしても、そういう関係には……」

「だって、結婚したら、みんなやるでしょ?」

「だろうけど……」


 琴吹の歯切れが次第に悪くなっていく。

 裸の妹の背中を胸に感じつつも、これ以上の関係にはなりたくないと強く思ってしまう。


「じゃないと、お風呂から上がらせないから」

「え? それだと、具合悪くなるだろ。というか、心菜も顔が赤いけど」

「い、いいの。お兄ちゃんが早く指で、マ●コを触ってくれればいいでしょ」

「性器の名前を直接いうなって……」

「でも、嬉しいでしょ♡ 女の子からマ●コって言葉を聞けて♡」

「女の子って……」

「あー、もしかして、貧乳だから? 私が貧乳だから、そんな事言うんでしょ?」

「違うって」


 琴吹は焦る。

 さっきから如何わしい会話ばかりで、脳内が混乱し始めているのかもしれない。


「じゃあ、なに? どういうこと?」

「俺は心菜のことを、妹としてしか見れないんだ……」


 素直に思っていることを言葉にした。


「じゃあ、今から私を女の子として見てよ。私だって、成長してるんだからね♡」


 妹は悪戯っぽく言い、愛らしく笑みを見せている。

 そんな顔、見せるなって。


「ねえ、お兄ちゃん。早く、私のマ●コ、触って」

「……本当にやるのか?」

「……うん」

「恥ずかしくないのか?」

「は、恥ずかしいに決まってるじゃん。お兄ちゃんのバカ」


 心菜は縮こまるような姿勢になった。


「……」


 今のままだと、どう考えても体が火照ってきて、体によくない。


 琴吹は深呼吸をしてから、妹の下半身の方に手を向けるのだった。

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