第15話 お兄ちゃん? 大事な話があるの…聞いてくれる?
密室空間。
所謂、脱衣所であり、互いに上着だけ軽く脱いでいた。
そんな場所に二人はいる。
しかし、それだけならいい。
今、下着姿であり、その二人は背中を向け合ったままだ。
「心菜、本当に入るのか?」
「うん……お兄ちゃん、私のアレ見たでしょ。だから、お、お兄ちゃんのモノもみないと、納得がいかないというか、その……」
「いや、変な言い方をするなよ。誰かに聞かれていたら誤解されるだろ」
「だって、見たのは事実でしょ……私が秘密にしていた願望……」
確かに見た。
琴吹の視界に入ったのは複数枚の用紙。
それは、妹の心菜が、兄に対してやってみたいこと百選と示された欲望丸出しの内容である。
心菜が俺に対して、あんなことや、そんなことを考えていたと、今、何度思い出しても、逆にこちらの方が気恥ずかしくなるくらいだ。
よく恥ずかしげもなく、書き出せたと感心してしまうほどだった。
「お兄ちゃんも見せてよね。アレを」
「アレってなんだ?」
やっぱり、下半身の突起的なものなのだろうか?
まあ、話の流れ的にそうなのだろうと思う。
だがしかし、妹に見せてもいいのか?
いや、ダメだ。
妹とは彼氏彼女の関係じゃない。
見せたとしても、互いにとって何もいいことなんてないと思う。
「やっぱりさ、やめとかないか?」
琴吹は、上の制服を脱ぎ、Tシャツのまま。それ以上は脱いでいない。
「嫌だ。だって、それに、私のおっぱいも触ったでしょ」
「まあ、それは……そうだな」
いまだに頬の赤みが消えていなかった。
痛い。
琴吹は叩かれたところを摩りながら振り向こうとする。
「きゃあ、お兄ちゃん、ダメッ」
「なんで?」
互いに背中を向け合っている。
妹も下着姿になっているだけだと思っていた。
だが、それは大きな間違いだったのだ。
「わ、私、全裸になってるからッ」
「え……は、ちょっと、どういうこと? もうそこまで脱いでいるの⁉」
琴吹は振り返るのをやめ、必死に目を瞑った。
今、妹の肌を見てしまったら、色々な意味で終わってしまう。
お風呂に入るといっても、どうせ、途中で全裸になることに抵抗が出て、恥ずかしさのあまり入らないという結論を望んでいた。
そんな琴吹の予想をはるかに超えていたのだ。
俺は、どうしたら……。
刹那、心菜の背中が琴吹の背中に接触する。
Tシャツ越しでもわかるほど、妹の肌を感じることができた。
改めて思う。
本当に全裸なのだと。
これって、まずいだろ。
どう考えても、危ない状態だ。
ちょっとした手違いで、見てしまったりとかしたら、今後の人生を生きてく自信がなくなる。
「お兄ちゃん?」
ふいに問うてくる。
背中同士が重なり合う中、ドキドキが止まらなかった。
妹なんだ。
どうして、妹に恋愛感情なんか。
何度も言い聞かせる。
妹に対して、そんな思いを抱いてはいけないのだと。
冷静になりつつ、深呼吸を一つする。
「見たいでしょ?」
「なにを?」
すっとぼけるように言う。
「もう、わかってるくせに……」
「でもさ。さっき、触った時、叩いてきたじゃん」
「まあ、それは、その、急だったから。私にだって、心の準備が必要なんです」
「そうかよ……」
琴吹は次の言葉が浮かばなかった。
浮かばないというよりも、心菜の裸体を想像するだけで脳内がショート寸前であり、理性を保ったまま思考できていないのだ。
「見たいですか? 見たいのなら、素直に言っても」
「どうせ、重要なところは見せないだろ……どうせさ」
「そういう発言をするってことは、見たいんですよね?」
「んッ、違うから……」
「照れなくても」
「照れてない……」
調子が狂う。
普段通りの妹の話し方に戻っており、安心する気持ちもあるが、少々不安なところが多い。
素直に見ようとしたら、以前のように、バカにされ、ネタにされるような気がする。
どうせ、心菜も見せるといいつつも、恥ずかしがって見せないと思う。
そこまではテンプレだ。
「お兄ちゃん……私、本当に見せてもいいよ」
「……」
「恥ずかしいけど……好きな……んんッ、大好きなお兄ちゃんになら、全部を見せてもいいよ」
小さくも、ハッキリとした口調で、言い切ってくる。
心菜なりの精一杯の発言だろう。
勇気をもって、声を出しているのはわかっている。が、振り向く勇気など出せず、琴吹の体が次第に火照ってくるのだ。
「そんなに簡単に見せようとするなって」
「私、本気なんだけど」
「……やめてくれ」
琴吹は心苦しくなった。
実の妹から、恋愛対象として見られるのは辛い。
無下にもしたくないし、扱いに困るというものだ。
そもそも、優奈という女の子のこともあり、どうにかして別の好きになってほしいとさえ思ってしまう。
けど、その前に確認したいことがあるのだ。
「えっとさ、心菜って、なんで俺のことが好きなんだ? 今までだってさ、多くの男子と関わる機会があっただろ?」
「うん、あったよ」
「じゃあ、なんで? 他の男子は好きにならなかったの? あんだけ、告白されてさ。選べる範囲が広いじゃないか」
思ったことを口にする。
逆に多くの女の子から告白されたら、琴吹であれば、その中にいる子を好きになってしまうかもしれない。
ただ、そういうハーレム展開になることなんて、一〇〇%現実的にありえないのだ。
羨ましいと思う反面。考えるほど、自分の存在が惨めに思えてならなかった。
「選べる範囲は広いですけど、そういう問題じゃないです。本当に好きな人じゃないと、嫌なの」
全裸になっている心菜の真剣な想い。それはわかるのだが、妹の影響で学園全体に被害が広がっているのだ。
そういうところも気にかけてほしい。
「それとさ、どうして、俺のことが好きなの?」
率直に聞いてみる。
真実を知るのは正直怖く、気恥ずかしい。
けど、どういう心理で好きなのか、確かめたかったのだ。
「私……どうしてって、それは私のためになんでもしてくれるからです」
「俺が? そんなに心菜のためにやった覚えはないけど」
「もうー、なんでわからないんですか? お兄ちゃんは」
心菜から重い溜息を吐かれてしまう。
「だってお兄ちゃん。小学生の頃、私が勉強で悩んでいる時、解き方を教えてくれたじゃない」
「え、あ……ああ、確か、そんなことがあったな」
小学生の頃……七年も前の話かもしれない。
よく覚えているなと思う。
「それ普通じゃないか? 兄妹なら尚更。でも、それだけで好きになるって」
「他にもあります。両親が仕事の都合で家に帰ってこない時、私の分のご飯も作ってくれましたよね?」
「それは俺が兄だから。当然じゃないか?」
「当然じゃないです。だって、私なんかのために、作ってくれること自体、凄いことなんですから」
「そうかな……?」
自分では普通だと感じていた事。それは心菜からしたら、特別なことだったのかもしれない。
「私、お兄ちゃんがいてくれたから、ここまで生きてこれたんです。私の人生はお兄ちゃんがいないとダメなんですから」
「大げさな」
「大げさなんかじゃないです。真剣なのに……」
背後にいる妹の声のトーンがか細くなるのが分かった。
「けど、ずっと一緒に入れないと思うけど? 高校を卒業したら、別々の道を歩むかもしれないしさ」
「そんなこと絶対にないです」
「なんでそんなことが言い切れるんだよ」
「どこに行こうと、私、ついていきますから」
「ストーカーだろ。それ」
琴吹はため息を吐きつつ、苦笑いをする。
「あと、ですね……お兄ちゃんに言っておきたいことがあるの」
「どんな事?」
「あのね、私が高校生になった時ね。お母さんと一緒に食事に行ったんだけど。お母さんから言われたの」
「何を?」
「血が繋がってないって」
「え?」
何を言ってるんだ。という、そんな思いが、琴吹の内面を駆け巡っていた。
本当かどうかはわからないが、そんな言葉。心菜の口から聞きたくなかった。
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