第14話 お兄ちゃんは、私のこと、どう思ってるの? ねえ、知りたいな♡

「お兄ちゃん? どうするの?」


 背後から抱きしめている心菜が、甘えた声色で問いかけてくる。

 温もりを感じながらも、妹に対する返答はすでに決まっていた。


「まだ、一緒に入れないけど、付き合うくらいなら」

「付き合うだけ?」


 心菜はさらにぎゅっと抱きしめてくる。妹はそんな返事では、到底受け入れられないようだった。


「だってさ。俺らって兄妹だろ。そんなのできないって」

「……誰が、そんなの決めたの?」

「決めたって。昔からそうなんだよ……それに、兄妹同士だったら、世間の目とかさ、生まれてくる子供とかにも影響出るんだろ?」

「子供って、お兄ちゃん、そんなこと考えてるの?」

「うッ……ち、違うさ。そういうことじゃなくてさ。ただ、忠告的な感じに言っただけだよ。変な意味じゃないから」


 琴吹は瞼を閉じながら言う。

 こんなの冷静さを保てるかよ。


「へえ、そう?」


 心菜は普段通りにからかうような口調になっていた。


 しかしながら、妹はどこまでが本気なのかわからず、言葉選びに困る。

 というか、いつまで背後から抱きしめているつもりなのだろうか?


「俺、少し離れたいんだけど」

「どうして? 私じゃダメなの?」

「そうじゃないって」


 背後から聞こえる妹ではない、一人の女の子としての甘い問いかけ。

 女の子として意識してしまうと、精神がどうにかなってしまいそうだ。

 今知ったことだが、実の妹がここまで誘惑的な子だとは思っていなかった。


 琴吹は、余計に心拍数が高まり、下半身にも影響が出始めていることに気づく。

 両親は仕事の都合で今は不在だが、いつまでもこんな態勢では身が持たない。


 明日も普段通りに学校があるのだ。

 そろそろ、離れたいというのが本音だった。


「お兄ちゃんさ。お風呂に一緒に入る話から、そらそうとしてない?」

「……」


 若干していた。

 だから、反応に困るのだ。


 今の状態だと、下半身が反応したままであり、あんな密室な空間で、衣服を纏わない姿でいるのは耐え難い。

 理性が吹っ飛んでしまいそうだ。


「ねえ、お兄ちゃん?」

「な、なに?」

「やっぱり、緊張してる?」

「し、してない」


 心菜に対し、強がってみせた。

 下手に出てしまったら、確実に舐められるに決まっている。


「へえ、そうなの?」


 現状になじみ始めてきたのか、次第に普段通りの口調へと戻っていくのが分かった。


「お兄ちゃん、おっきしてるでしょ?」

「は、そ、そんなことないよ。女の子がそういうこというなよ」


 妹の視点からは絶対に、前の方なんて見えていないはずだ。

 気が付かれるわけがない。


「別にいいじゃん。エッチな事いっても」

「……」

「それで、おっきしてるの? お兄ちゃん」

「だから、し、してない」


 今度は強めの口調で、ハッキリと口にした。


「本当?」

「ああ、本当さ」


 琴吹は言い切った。


「じゃ、確認してもいい?」


 急に予想だにしない展開になる。


「そういうのはやめてくれ。そもそも、それ見てもグロいだけだと思うけど」

「それって、お兄ちゃんの感想でしょ?」


 そうこうしている間に、心菜の指先が、琴吹の胸元からゆっくりと下へと移動しているのが分かった。


 こ、これってヤバいって。

 ハッと気づき、妹の手首を抑えた。


「これ以上はさ……兄妹でやってはいけないんだって」

「恥ずかしいだけなんでしょ」


 心菜はリラックスするように息を吐き、さらに控えめな胸を背中に押し付けてくる。

 さっきまでは普通に消極的な対応しかしてこなかったのに、大胆だと思った。


「恥ずかしいとか、そんなんじゃないし」

「嘘だあ、絶対嘘。隠してるって、わかるよ」

「なんでだよ」

「だって、私、お兄ちゃんのこと、ずっーと見てたんだから」

「見てたって……」


 妹から、恋愛的な目で見られていたと思うと、頬が紅葉し始める。

 そういうのは、俺ではない男性に言ってほしい。


 好きになってくれるのは嬉しいが、付き合ったとしても結婚ができない関係。

 余計に好きになってしまったら、取り返しがつかない。


「お兄ちゃんはどうなの?」

「どうって」

「私は好きだよ♡」


 愛する人に言うような話し方。


「そういうのは……」


 今、友達として付き合っている女の子がいる中、心菜を好きになってもいいのだろうか?

 好きになった方が、恋協部の詩乃も、他の生徒らも、大いに救われるだろう。

 ただ、そうなった場合、優奈のことはどうなるんだろうか。


 自分から好きになって、自分勝手に振るのか?

 そんなことなんてできない。

 優奈には下に、弟や妹がいて日々苦労しているのだ。

 手伝うという約束もしたのに、これではあまりにも雑だと思った。


 優奈が苦しむ顔は見たくない。

 けど、今後も一緒に生活を共にしていく心菜の関係も崩したくないのだ。

 一体、どうすりゃいいんだ?

 二種類の事情に板挟みにされ、心苦しくなった。


「私、お兄ちゃんと一緒にいれば、それでいいの♡」

「……」

「お兄ちゃん……」


 心菜が小さくそう呟くと、背中から離れてくれる。

 そして、正面の方へと回ってきたのだ。


 妹の笑顔は愛らしい。

 しかしながら、大人びた顔つきに加え、実の妹とは思えないほど、琴吹の瞳には魅力的に映っていた。


「私、好きなのに、どうしてお兄ちゃんは、私の想いに応えてくれないの?」


 心菜は首を傾げ、一人の女の子のとして、内側に眠っていた想いを伝えてきている。


「けど」

「お兄ちゃん、さっきからそればっかりだよ。はっきりとして」

「うッ」


 心を読まれているようで、反論できやしない。


「あれ? お兄ちゃん、下の方は良いって言ってるよ♡」


 制服のズボンからでもわかるほどに突起した、それを見、心菜は悪戯っぽい笑みをみせてくる。

 下半身の反応は、琴吹の上の口よりも素直なようだ。


 今更隠しようがなく、後ずさってしまう。

 ただ、片手で突起したそれを隠そうとするが、妹から手首を掴まれてしまった。


「いや、そういうのは」

「お兄ちゃん、やっぱ、恥ずかしいだけじゃん」

「……そ、そういうことになるな」


 琴吹は素直に頷いた。


「でも、嬉しい♡」

「なんで?」

「だって、私に興奮してくれたんでしょ?」

「興奮とか……そうかもしれないな」


 琴吹は素直に口にし、気まずげに視線をそらす。


「なんか、お兄ちゃんよりも素直だよね♡」

「そういうこというなよ」


 意識してしまうだろ。


「でも、本当のことじゃない」

「だろうけど……」


 心菜の顔を正面から見れない。

 見てしまったら、心が靡いてしまう。

 それだけは避けたいのだ。


「苦しそうだよ」

「や、やめてくれ」

「慰めてあげよっか♡」

「勘弁してくれ」

「じゃあ、夜、こっそりやる感じ?」

「……」


 妹の口からは、突拍子のない台詞ばかりが飛び交う。

 本音を曝け出した妹には隠すものが、もうないのかもしれない。

 だからこそ、暴走した言動が多くなったと思われる。


「お風呂は? 色々してあげるけど?」

「いいよ、一人で入るし。というか、俺は自室に行きたいんだ」


 赤面する感情を思いっきり抑え、妹の横を通り、階段を上ろうとする。が、下を見ると、床には紙が散らばっていたことに気づく。


「なんだ、これ」


 気になってしまい、少しだけしゃがみ、拾い上げた。


「……お兄ちゃんと一緒にやりたいこと……百選⁉」


 その用紙には、兄に対する、心菜の願望や欲望がダダ洩れのように書き綴られていたのだ。

 なんだ、これ。心菜って、いつもこんなことばかり考えていたのか?


 書き出された文章の数々。

 読めば読むほど、琴吹自身も赤面してくるものばかりだ。


「あ、ちょっと、お兄ちゃん、ダメだって、それは見ちゃダメッ」


 強気で誘惑するかのような心菜の姿は、そこにはなかった。

 頬を赤らめ、慌てふためく愛くるしい妹。


 心菜は琴吹が手に持っている用紙を取ろうと必死になっている。

 そんな妹も可愛らしく思えてしまった。


「ちょっと、お兄ちゃん、最低ッ、本当に返してよ。それは大事なものなの、お兄ちゃんのバカ、アホ」


 罵声の数々。


「でも、そんなに大事なら、返せないな」


 一気に立場が入れ替わった瞬間だった。

 弄られ発言ばかり受けていたが、ここからが反撃だと思わんばかりに、琴吹は内心ではにかんでいたのだ。


 妹の瞳が潤んでいる。

 あッ、少しやりすぎかなと思い、ちょっとだけ反省し、手に持っている用紙を返そうとした。

 が、床に散らばっていた用紙は他にもあり、それらを足で踏んでしまい、態勢を崩してしまう。


「あッ」

「お、お兄ちゃんッ」


 二人の声が家に響く。


 そして、床に倒れる音も響き渡ったのだ。


「イテテ……」

「もう、お兄ちゃんが変なことするか……んんッ」


 心菜の様子がおかしい。

 手の平には柔らかい感触が伝わってくる。


 まさかと思い、瞼を見開くと、琴吹は仰向けになり、兄に覆いかぶさるように、妹は頬を赤らめているのだ。


 琴吹の左手は、心菜の小さな胸を触っている。

 意外と程よい大きさであり良さげな感じだ。


 そんな感想を心で抱いていると、右の方から強い衝撃が頬に直撃したのだった。

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