第11話 これって…優奈さんの…
「お姉ちゃん、本当にただのお友達なの?」
家の岐路についている際、無邪気な口ぶりで七海は姉の優奈に質問でいている。
「そうよ。ね、琴吹君」
「あ、うん。そうそう」
高校生でもあろう二人が、一回りも年下の子を前に慌てていた。焦る気持ちを抑えようとすると、余計に緊張し、次の言葉が出づらくなる。
ああ、何してんだよ、俺は。
状況を見て、うまいことフォローしてあげようと思っても、琴吹にはそんなスキルはなかった。
子供の扱いにあまり慣れていないこともあり、なんて話せばいいのだろうかと、考えてばかりだ。
「ねえ、七海? 今日の晩御飯、何がいい? どこかで買って行こっか?」
話の方向性を変えた。
「だったら、あのお菓子欲しい」
「お菓子? それはダメ。というか、まだお家にあるでしょ?」
優奈はお姉ちゃんらしく、妹に注意している。
しかし、妹と言えども、まだ保育園に通っている年頃なのだ。
夕食よりも、新しいお菓子の方が欲しいに決まっている。
優奈はしゃがみ、妹と同じ目線になっていた。
「でも、お菓子ばかりだと、体に悪いの。それに、お菓子ばかり食べてるとね、夜に野菜を食べない子のところにお化けがやってくるんだよ」
お化けって。そんな大げさな。
「ううう」
七海は瞳を潤ませている。
相当怖かったようだ。
でも、言い過ぎのような気はするが、そこまで言わないとダメなのだろうか?
「だからね、お菓子以外の、ね」
「う、うん……わかった」
七海は素直に頷いている。
「お菓子とか買ってあげたら?」
「え? いいの」
七海は琴吹の方をキラキラした目で見詰めてくる。
「まあ、まだ子供なんだし、いいと思うんだけど」
「もう、そういうところが甘いの」
優奈は頬を膨らませ、ちょっとばかし睨んでくる。
怖い。
普段は温厚な女の子だが、時たま裏の心境が垣間見れた瞬間だった。
そんなに厳しくしなくてもいいのにと思う。
「でも、子供のうちからさ、下手に規制かけてもよくないし」
「私の妹なんです。私の家にはルールってものがありますから」
意外と頑固なのだろうか?
「それに、お菓子ばかりだと栄養が偏っちゃうでしょ。私は、妹とかを面倒見ないといけないの。下手に病気にさせても悪し。姉であったとしても、この子の保護者なの」
「そうか。だよな」
厳しいな。
と、内面で思っても、それを口にはしなかった。
七海の表情を見ると、買ってあげないという選択肢を選ぶことはできなかったのだ。
「俺が、あっちにあるコンビニで買ってあげるよ」
「本当、やったー」
七海は琴吹の足元に抱き着きながら喜んでいる。
なんか、可愛らしいと思う。
昔の頃の心菜と重なって見え、頭を撫でてあげた。
心菜も小さい頃は普通に可愛らしかったのだ。
けど、時が立つにつれて、心に距離感を感じてしまうようになっていた。
琴吹は昔の心菜と接するように、七海の頭を軽く撫でてあげる。
髪の質感など、まだ若々しさがあった。
そんなことを高校生の自分が考えている時点でどうかと思うが、それが率直な感想なのだ。
「もう、しょうがないんだから。いいよ、今回だけね」
「うん」
七海は幼い足取りで、姉の優奈の元へと向かっていくのだ。
「琴吹君? あまり甘やかさないでね」
「うん。ごめん、でも、なんかさ、お菓子を欲しがっているのに、それを取り上げるのは嫌だったんだ」
「まあ、いいわ。日が暮れる前に、行きましょ、コンビニに」
「そうだね」
琴吹は頷き、今後は気を付けるように、心に誓うことにした。
優奈は妹の手を握って歩く。
一緒に歩いていると、どこか家族のような気がして胸が熱くなった。
付き合っているわけじゃないのに、一緒にいるだけで満たされていく気がする。
夕焼けの道を歩き、優奈の家近くにあるコンビニたどり着く。
入店すると、小学中学年くらいの男子児童が、漫画や雑誌コーナーで立ち読みしている姿があった。
「ん?」
男子児童が琴吹のことに気づいたらしく、漫画から視線を離し、まじまじと見てくるのだ。
「……」
なんて反応すればいいのかわからず、口ごもってしまう。
そんな時、その男子児童は琴吹の横へと目線を移し、そして、逸らすように再び漫画を読み始めていた。
なんだったんだ?
そう思っている頃合い、隣にいた優奈から怖いオーラを感じた。
「ど、どうしたの? 優奈さん?」
「ごめんね、琴吹君。少し、あの子と会話してくるから」
え?
動揺を隠せずにいると、優奈は漫画と睨めっこしている男子児童の元へ行きついでいたのだ。
「ねえ、どうしてここにいるのかなあ?」
「え? いや、俺はしっかりと言われたことやってさ、こうして漫画を読んでるんだよ」
男子児童は何かを隠すように、優奈と視線をかたくなに合わせない。
「へえ、そうなの? 本当?」
「ああ、本当さ」
一体、誰なのだろうか?
「ねえ、どうしたの? そんなに怒って」
琴吹は様子を見守りながらも、二人の反応を伺うように距離を詰めていくのだ。
どういった関係かはわからないが、漫画を読んでいる子に、いきなり注意するのはどうかと思う。
「琴吹君、いいから黙ってて。私たち、家族の問題だから」
「家族の問題?」
男子児童と優奈を見ると、雰囲気が大体似ている。もしやと思うが、姉と弟の関係なのだろうか?
「この子はね、私の弟なの。本当に調子のいいことばかり言って。どうせ、いつも通り、家の片付けもしてないんでしょ?」
「いや、今回は普通にしたさ」
「本当?」
疑いの眼差しを弟に向けている。
「なんだよ、姉ちゃんはさ。そんなに睨むなって。俺を信じろって」
「まあ、いいわ。本当に片付けしたのよね?」
「信じてくれた? 姉ちゃん?」
「一応ね、本当かどうかは見てからだけどね」
「じゃ、頑張ったご褒美に何か買ってよ」
「もう、今から夕食なのに。ダメよ。今日は何も買わないから」
「えー、ケチだな」
「ケチって。この陸翔ッ」
怖い。
学園内では、あまり見ない乱暴な口使いに、困惑する。
「あッ、ご、ごめんなさい。ちょっと、ね」
優奈は誤魔化すように笑う。
琴吹も愛想的な感じに、苦笑いをしてみせた。
なんか、思っていたのとだいぶ違うと思ったのだ。
けど、いつも弟や妹と関わっていると、母性に目覚めてもおかしくないだろう。
そういうところを多めに見ることにした。
琴吹はコンビニで、陸翔と七海のお菓子を買ってあげ、優奈の家の玄関に上がっていた。
優奈の家は普通の一軒家だが、建てられてから四十年以上ほど経過した感じの古さがある。
「ねえ、これ、どういうこと?」
「え、いや、まあ、そういうことさ」
陸翔は買ってもらったお菓子を口にして適当に言っている。
家の中は確かに片付いてはいるが、洗濯の仕方は雑で、干してあった衣服も乱雑に畳まれ、リビングに置かれている感じだ。
「もう、すべて適当じゃない、陸翔ッ」
「一応片付いてるだろ」
「はああ、もう疲れる。また、今日も色々と徹夜しないといけないじゃない……」
優奈は肩を落とし、悲惨な状況を見て、ドッと疲れを見せている。
「ねえ、琴吹お兄さん、これあげるよ」
「え? なに?」
布のようなモノ。何かと思い、広げてみると、それは女の子が身に着ける下着――パンツだった。
「あああ、陸翔ッ、もう、そんなの渡さないでッ」
優奈の悲鳴が家中に響き渡った瞬間だった。
騒がしい家庭だなあと思い、手にしていたパンツを咄嗟に折り畳んだ。
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