第8話 付き合ってくれる女の子はできたけど…妹との関係が…

「琴吹さん。今日のお昼休みはどうだった? どこまでいけたの?」

「まあ、それなりに。でも、恋人のような関係にはなっていないですけど。一応、食べさせてもらったくらいですかね」


 琴吹は照れながら、口元を緩ませていた。


「へえ、そういうことをしてもらったんだね。それはいいことじゃない」


 恋愛をサポートしてくれている詩乃は、喜んでくれているみたいだ。

 順調に関係が築かれていたことで、彼女は満足するかのように相槌を打っていた。指導する者としての達成を感じていたに違いない。


 今、二人は恋協部内にいる。対面するように、テーブルを真ん中にやり取りを行っている。

 放課後。琴吹は今日あった出来事を順序よく口にしていた。


「あとはどうすればいいですかね?」

「それは、まあ、状況にもよるけどね。神楽さんとどういう話になったの? デートとかの予定とかは決まったの?」

「デートって……まだ正式に付き合っていないですし。気が早いですよ。ただ、友人という関係で、付き合うことになったくらいで」

「そうなの? でも、友人だからって、気を抜いちゃうと、すぐに関係が崩れちゃうからね」

「はい」


 指摘を受け、琴吹はなんとなく頷く程度。


 一応は友人らしいところまでは到達したかもしれない。

 ただ、そこから恋人に至るまで、どういう道のりを辿ればいいのか、未確定なのだ。


「でもね、意外だったわ」

「え? 何がですか?」

「だって、あなたって、ここに来るくらいだから、もっと消極的だと思っていたのに。意外とやればできるんじゃない?」

「そうですかね?」


 琴吹はそこまで女の子慣れしているわけではない。

 一応、妹と一緒に住んではいる。けど、女の子という枠としてはカウントしていないのだ。


 心菜は普段からバカにしてくるし、あんな妹は女の子じゃないと思っている。


 それはそうと、今振り返ってみると、意外と自分から行動すれば、好意を抱いている子と本当に恋人関係になれるかもしれない。

 少しだけ、希望が持て、心が高鳴った。






「まあ、あとは帰宅するだけでしょ? 今日は用事があるなら、私はここで」

「え? 他の指導は?」

「それは今のところ大丈夫そうだからよ。神楽さんと特に問題はないでしょ?」


 詩乃は軽くウインクしてくれる。


「え、まあ、そうですね」

「じゃあ、いいの。最初っから余計に口出ししてたら、あなたの考えが引き立たなくなるでしょ?」

「そんなものですかね?」

「ええ。恋愛は、決まりきったことだけをやっているだけじゃ意味ないの。私は何たるサポートなの。二人の恋愛に細かく指導するわけじゃないのよ。そこんところ、わかってね」


 先輩は席から立ち上がる。


「はい……大丈夫かな、俺?」


 首を傾げてしまう。


「もっと自信を持ったら?」


 詩乃から肩を軽く触られた。


「……」

「そんなに心配なことってある?」


 先輩から問われる。

 不安に感じていることは多々あるのだ。


「えっと、何を話せばいいのか」

「それって、自分で考えるものじゃない?」


 詩乃からジト目を向けられる。


「ですよね?」

「……というか、妹さんいるんでしょ? 何話しているの?」

「そこまで多くは話してないです」

「兄妹なのに?」

「はい」

「妹と会話しているなら、普通に女の子との会話も大丈夫だと思ったんだけど。というか、まだ関係が悪い感じ?」

「そうですね。さすがに一日ちょっとじゃ、さすがに」


 琴吹は言葉に詰まってしまう。

 色々と悩んでしまうところが多い。


 妹との関係性を改善したいというか、あまり関わりたくないという気持ちもあった。

 しかし、今後のことを考えたら、関係性の修復をしておいた方がいいのかもしれない。


「まあ、いいわ。あなた一人で無理なら、私も妹さんとの関係を取り繕ってあげるから」


 詩乃は大きなため息を吐いている。

 面倒だと思っているに違いない。

 琴吹は彼女の表情を見る限り、そう感じてしまった。


「それと、少し話が変わるけど。神楽さんとは放課後どこで待ち合わせしているの?」

「校門近くです」

「そう、まあ、そういうことならいいわ」


 詩乃は背を向け、部室の窓から外を見、校庭にいる生徒らを眺めていた。

 外にはカップルとして下校している男女が多くいる。


 楽し気に会話している男女を見ると、羨ましく思うものの、今日から一応、友人として付き合う女の子ができたのだ。

 自分も一歩だけ前身できたような気がした。


「では帰ります」


 琴吹は立ち上がる。


「わかったわ。あとは頑張ってね。また、進展があったら教えてね」

「はい」


 琴吹は頷いたのち、リュックを背負う。

 恋協部を後にするなり、廊下を歩き、階段を下って昇降口へと向かう。


 下駄箱にある上履きに変え、校舎の外に出た。

 少しだけ、外の空気を吸い、深呼吸をする。


「お、お兄ちゃん?」


 え?

 この声って。

 校舎の校門まで歩き出そうとしたところで、不意に話しかけれられる。


「心菜か。どうしたんだ?」


 意外にも妹から話しかけてくれた。

 昨日は話しかけても、ガン無視していたのに物凄い変化だと感じる。


「お兄ちゃん、また一人なんでしょ? 私が一緒に帰ってあげよっか」


 心菜はニヤニヤしている。

 バカにしているような顔を見せ、いつも通りの妹だと思う。


「どうせ、お兄ちゃんのことだし、告白してもフラれたんでしょ? だから、今一人なんでしょ?」


 心菜は琴吹の正面に回り込み、とおせんぼするかのような立ち姿を見せる。


 そういや、妹が友人と一緒にいるところを見たことないなと思う。

 もしや、男子生徒からラブレターを貰ったり、告白されてばかりだから距離を置かれているのだろうか?


 同姓の上級生からも目をつけられているのだ。

 色々な諸事情が、妹にもあるのだろう。

 余計に聞かないことにした。


「ねえー、お兄ちゃんッ、聞いてる?」

「あ、ああ。聞いてるさ」


 少しだけ、妹の友人関係のことを考え込んでしまっていた。


「そんなモテないお兄ちゃんのために、私がデートを」

「ごめん」

「え?」


 琴吹は素直に話すことにした。

 兄の発言に、心菜は何かを察した感じに表情が暗くなる。


「え、そんなことないでしょ、まさか、ね」


 妹は笑って、現実を見ないようにしていた。


「……そのまさかなんだけど」

「……」


 心菜から物凄く睨まれてしまう。


「なに、それ……なんで?」

「なんでって言われてもさ。その。そういうことになったんだよ」

「んん……お兄ちゃんと関わってくれる人がいるとか……その女、見る目無いね」

「それ、言いすぎだろ」

「ふんッ、どうせ、ろくな女じゃないんでしょ」


 心菜は不満そうに一蹴し、蔑む視線を見せてくる。

 いくら妹といえども、そこまで好き勝手は言われたくない。

 琴吹は妹のことが本当に嫌いになりそうになった。


 でも、今は冷静になった方がいい。

 いきなり怒ったとしても、さらに関係がこじれてしまうからだ。

 琴吹は年上なのである。


 落ち着かせるように、心菜の頭を撫でてあげた。

 妹をとにかく、宥めようとしたのだ。


「んんッ、そういうのやめてよ……お、お兄ちゃん」


 心菜からしたら、逆効果だったらしい。

 妹から強く睨まれる。


「な、なに、い、嫌なんだけど。お兄ちゃんから、そういうのやられるの」

「ご、ごめん」

「ううう……」


 心菜は唸る。


「どうしたの? 琴吹君?」


 あまりにも待ち合わせ場所に遅かったようで、優奈が歩み寄ってくるのだ。


「あれ、その子って、お昼頃言っていた琴吹君の妹かな?」

「はい」


 優奈の問いに素直に答える。心菜は不機嫌そうに視線をそらし、兄の足を強く踏む。


 いたッ


「でも、お昼頃、購買部に来てくれた子だよね?」

「そ、そうですね」


 琴吹は足の痛みを堪えていた。


「お兄ちゃん、この人って?」

「この人じゃなくて、優奈さんだよ」

「ふーん、この人が、お兄ちゃんと付き合っている人ってこと?」


 妹は、琴吹の耳元でボソッと呟く。


「……どうせ、おっぱいが大きいから好きになったんでしょ?」

「は、な、なんでこというんだよ」

「ふん、私、一人で帰るから。お兄ちゃんの変態」


 心菜はそっぽを向き、走って二人から離れていく。


「どうしたの? 私、来ない方がよかったのかな?」

「いいや、なんでもないから。そんなに気にしないで」

「でも、ごめんね」

「本当に気にしなくてもいいから」


 優奈は立ち去っていく心菜の後姿を見ていた。


「……追いかけなくてもいいの? 妹でしょ?」

「いいよ。妹はさ、少し一人になりたいとかって」

「そんな感じではなかったような気がするけど」


 ああ、こんな状況で、彼女と街中に行くとか気まずい。


「そろそろ、街中に行く?」

「うん。俺はそうしたいんだけど」


 琴吹は強く頷いた。


「ねえ、私ね。今まで異性と手を繋いだことがないの。だからね、試しに繋いでみたいなって。ダメかな?」

「いや、優奈さんが良ければ、俺も繋ぎたいというか。繋ぎたいです」

「良かった。そういってもらえて」


 優奈は微笑んでくれる。

 本当にこんな感じの彼女と一緒に付き合えるのか?

 今までモテなかったが、人生が大きく変わってきそうな楽しさを今、ひしひしと感じていた。


 一緒に自宅で過ごしている妹との関係性はいつでも修復できる。そう思い、友人として付き合うことになった優奈と学園を後にするのだった。

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