第2話 プロローグ②

月が満ち、月明かりが二人の少年少女を照らす。


「はぁっ、、はぁっ、、」


 赤髪の少女マリアは脚を怪我して気絶していた。

 そんなマリアをおぶっている少年は、片腕に痛々しい生傷をつけ、オオカミの耳と尻尾を生やし、早足で聖なる川を目指す。

 さっきより獣らしい姿が見えず、半分獣で半分人間状態という曖昧な姿になっている。


 獣道を通り川へと急ぐウルフ少年は、マリアの身体に負担がかからないよう細心の注意を払って進んでいた。


 聖なる川に着くとマリアをそっと下ろし、少年はマリアの脚の怪我を川の水で清め始める。

 少し沁みたのか、マリアが目を覚まし、少年の姿を目にする。


「、、ッ痛った、、え、、オオ、カミ、 、?」


 マリアは覚醒したばかりで、朧気ながら口を動かした。


「、、ああ、起きたか。俺がいなかったらもう少しでサラマンダーに飲み込まれるところだったぞ」


 少年は落ち着いた口調でマリアに忠告をした。しかし、その忠告よりもマリアは魔法使いという言葉と少年が気になってしょうがない。


「魔法、、使い、、? あたし、が、、? あたし、、普通の人間だけど?」


「いいや、お前の父親は魔法使いだから、お前も魔法使いのはずだ」


 父親? 今まで気にもしていなかった存在だ。

 マリアは訳あって、今まで普通の人間として、町はずれの森で母であるルルアと二人っきりで生活をしていた。

 ルルアからはあなたと私は人間なんだから魔法なんて使えないと教えられている。自分が魔法使いだなんて気づくはずもない上に、魔法を使った覚えなんてない。


 気を失っていたせいか、記憶がうろ覚えだ。


「、、、、あのさ、、本物のオオカミ人間?」


「見れば分かるだろ、あとオオカミ人間って、、」


 本来なら『ウルフ』と呼ばれるはずが、マリアからまた別の名で呼ばれたことに対して少年はおかしく思えた。


「本物なんだ、、」


「怖いか?」


「怖くはない、、怖くはないけど、、、」


 魔獣なのか人間なのかハッキリしない曖昧な姿のオオカミ人間の姿をマリアは脳に焼き付けた。

 まるで童話に出てくるオオカミ人間のようだと。


 ルルアに聞いたことがある。

 魔獣は人間同様の理性と言語を持ち、さらに魔法使い以上の魔力を持ち合わせている凶暴な生き物だと。ほとんどが獣の姿をしているが、一部は魔獣でありながら人間の姿をしている者もいるらしい。

 じゃあ、この少年はどっちの類だろうか?

 完全に獣の姿はしておらず、人間と獣の中央に位置するかのような容貌をしている。

 マリアはぼうっと少年を見た。

 それ以外の話はルルアから聞かされたことは無い。


 自分が魔法使いだったという事と初めて魔獣に出会った事、さらに、自分の実父の存在を知ったマリアは混乱する。

 まずはどれから整理すればいいのだろうか。


 それと同時に母であるルルアから隠し事をされていたことにも強い不快感を抱いた。


「、、ルルア、、から何も聞かされてないし、あたし、、お父さんのこと、なにも知らない、、、」


 少年は余計なことを言ってしまったかと、少しばつが悪そうな顔をした。


「なんで、オオカミ人間、、さんは、知ってるの?」


「、、、、知りたいか? あまり詳しく話してはやれないけど」


 そう言うと少年は、このくらい大丈夫かと開き直った顔で話を続けた。


「お前の父親に会ったことがある。お前の話を聞いているし、お前のことも一目でわかった」


「どうして、、?」


「娘は綺麗な赤髪をしてるって自慢してたからな」


「そっか、、そう、、だったんだ、、、、お父さんが、、い、、痛っ、、」


「あ、すまん。少し力を入れすぎた」


 少年は傷を手当てする手を止めず自分の腕に巻いていたスカーフをマリアの怪我した脚に巻き付けた。


「ううん、、大丈夫」


 ふと少年の腕を見るマリア。痛々しい腕の傷に罪悪感を抱く。


「オオカミ人間さんも腕怪我してる、、あたしのせいじゃ、、、」


「いい、気にするな。罪悪感を抱かれるのは苦手だ」


「あ、、ごめんなさい」


「謝られるのも苦手だ」


「、、、、じゃあ、ありが、、、」


 お礼の言葉を言おうとその時、自分の名前を呼ぶ母の声が聞こえる。


「マリアーー! どこにいるのー! いたら返事をしてちょうだーーーい!!」


 切羽詰まった声がだんだんと近づいてくる。


「あ、いた! 、、、、え、、?」


 二人の姿を見つけた母ルルアは怪訝そうな顔でオオカミ人間の少年を睨んだ。


「、、っ!!! ウルフ、マリアに何をしたの、、!」


 脚を怪我したマリアを見たルルアは我を失い、杖を取り出してしまった。

 そのままウルフ少年に向けて攻撃魔法を仕掛けるが最も容易く避けられてしまう。

 それよりもマリアには魔法使いであることは隠すべきであるのにも関わらず彼女の目の前で魔法を使ってしまった。自分も魔法が使えないと言っていたはずなのに。


 それほど気が動転していたのだろう。

 少年はウルフ自慢の脚力を生かし、森の方へと一目散に逃げて行った。


「はあ、、はあ、、」

「ルルア、、、、それ、、」


 らしくもなく、ルルアはマリアの目の前で取り乱してしまい魔法を使ってしまったことにハッと気づく。


「あ、、、えっと、、その、、マリア、これはね、、!」


 マリアはぼろぼろの体を起こし、ルルアの前まで足を引きずりながら向かった。

 ルルアは一気に罪悪感が込みあがり、杖を両手で握りながら後ずさりをする。


 オオカミ人間さんの言う通りだ、、、、と隠し事をされていたことにショックを受けたマリアはルルアに悲しげな顔で呟いた。



「あたしに隠してること、、本当のことを教えて」

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不死鳥の禁断魔女 @elise7

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