第3話 変貌の種子

時代とともに、火の国の人々は、

他星の文化にますます興味を持っていった。


当初は、

異国情緒を含んだ新鮮な空気に魅せられ、

わたしたちの心は、

はずむようにワクワクした。


新しい商品が街中に出回り、

リリースのスパンが1週間ごとになった頃、

かつて見たことのない

エキセントリックな商品が

店頭にならぶようになり、

人々の外見にも変化が訪れた。


この前モールへ行ったときのこと。


そこにいたほとんどの人たちが

夕焼け色のからだを脱色し、

皮膚も瞳もそこもかしこも

自由自在にペイントして

人が立体的な絵になって歩いているみたいだった。

身体そのものが

人の考えや気持ちを映す道具になって、

今までの肉体の役割を越えたような、

いや、肉体が肉体だけでなくなっているようにも思えた。


人気の花屋には奇妙な花が集められて、

そのなかに「暗花」という品種があった。

花は太陽を必要としていないんですって。

そして自ら周囲に闇をつくりだしていたの。

まるで銀河の奥地で咲いているみたいに

ひっそりと佇んでいた。

その闇のなかでは、

どんな音も飲み込まれてしまいそうな

底の見えない穴のような暗さで、

その花だけ、どこか違う次元に

存在しているようだった。


それから

となりのペットショップには、

発光する幾何学模様の小動物たちがいて、

ウィンドウの前には結構な人だかりができていたの。

みんな興味津々で、写真を撮ったり、

店員にお手入れ方法とか飼い方とか

熱心に質問していた。


こんなふうに身近な場所で、

新たに生み出される品々や生き物を

たくさん見かけるようになってから、

時々、悪いことをしているような、

居心地の悪さを覚えるようになった。

だって、動物も花も自分たちで望んで

そうなったわけじゃないもの。

遺伝子を操作してまで新しい商品を作り続けるなんて、

わたしたちは、ずいぶん

勝手なことをし始めてしまったんだ、と。


でも、この勢いは止まらなかった。

空から舞い降りてきた異星の文化たちは、

風にのって街を越え、どこまでも広がり、

人々の熱気によって、

より奇抜に、より過激になっていった。

きっとその風には、

人の意識を変えてしまう

変貌の種子が含まれていたにちがいないわ。

誰かの髪やくちびるから体内へ侵入し、

うまく根付いたら

その人は魔法がかかったみたいに

変貌という花を咲かせていくんだって、

わたしはそう思っていた。


その当時、わたしは14歳。

変わらず、

あの公園の塔のてっぺんに、

よくひとりで居たわ。

こどもの頃より

流れ星が見えなくなった気がする空の下、

この街を、人を、眺めて過ごした。

どんどん様変わりしてゆく世界が、

なぜか空よりも遠くに感じていた。


このころ何度か、

あの頃の友だちを思い出したことがある。

みんなはこの星がこんなにも変わったこと、

知っているのかなって。


「経済はすこぶる良くなり、

化学の分野においても

我々は飛躍的に発展している」


さまざまな機関から

発表されたデータを用いながら

学者さんたちが

力説しているテレビの映像がよぎった。


でも、ここから街全体を眺めていると、

独自のうつくしい音色を響かせていた

あの頃と違って、

この星の調べにひずみがでてきたような、

ねえ、そんな音が聴こえない?

と、みんなに訊いてみたかった。


ひとつ、気がかりなことがあったの。


この星の人々の魂に宿る熱は

非常にあつくて、

もし、

我を忘れるほど何かに熱狂しすぎたり、

凄まじい怒りや悲しみを覚えると、

おなかの底から

ふつふつとマグマが湧きあがってくるの。

それは、わたしたちの奥底に潜む

燃え盛る炎であり生命の源。


普段は穏やかにしているマグマが

ひとたび暴れだしてしまうと、

熱はたちまち全身の血流を焚き付けて、

最悪、自分では

手に追えなくなってしまうのよ。

自分が自分に燃やされてしまうの。


わたしはこの塔の上から、

どこからともなく、

誰かの内側がチリチリと燃えていくような

そんな音が聴こえはじめている気がしていた。


・・・
(つづく)

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