第4話 赤い砂

わたしの思いとは裏腹に

異星の文化を讃えるブームは加速しながら

私たちの生活に根付いていき、3年が過ぎた。


その間に違法な取引はどんどん増えた。

最近では、まだ20代半ばくらいの妊婦が、

重体に陥ったニュースが流れた。

すでに妊った胎児を変えようとして。


劣勢を取り除き、

体かたちを

自在にデザインできるとうたった

あるカプセルを飲んだのだった。

人々の歪んだ欲求が、

生死に関わる問題を通じて

世間に露出してゆく。

私たちはあれから毎日

そんなニュースを見るようになっていた。


自分たちの遺伝子

たいせつな命を尊重しなくなっている問題、

違法な斡旋業者によるトラブル、etc、


化学の発展や経済成長どころではなくなり、

政府は取り締まりをはじめることに決めた。

ちょうどその頃、

近隣の星々と政治的な雲行きが悪く、

緊張状態に向かっていた背景もあった。

人々の関心と政治というものは別物だった。


いつ考えたのかも分からない法律は、

一夜にして翌朝のメニューのように作成され、

朝、人々が目覚める頃、

ニュースを通じて一斉に国民に配られた。


その取り締まりは

とてもきびしいものだった。

罰則を緩く設定すれば、

それをくぐり抜けるものたちが

必ず出てくるという考えのもと

すべてが始まったのだ。




閣議決定の直後、軍を総動員して

大気圏の封鎖が一夜にして行われ、

他の惑星との交流はすべて断たれた。

他星へ出張している同胞たちは

帰国を余儀なくされた。


父はこの国に20年近く住んで、

家族もいて、

ずっと真面目に働いてきた人なのに、

現在の状況を生み出すきっかけ、

人々へよからぬ影響を与えた可能性のある

人物として疑いがかけられ、

その日の午後、会社から連行された。

ジャーナリストなどの

メディアに携わる人たち、

教師などがその対象になった。


また、旅行のように短期滞在で

異星からやってきたものたちも

ひととおり取り調べを受け、

尋問の後に全員強制送還された。



父たちは取り調べの後、

理由もなくすぐに収監され、

家族は面会することを禁じられた。


だから、だからなのか、

父は投獄されて間もなく、

檻の中で冷たくなっているところを

発見された。

新聞社の同僚が

面会を申し出にいった日のことで、

私たちの家まで走って知らせに来てくれた。


わたしは、父の死因は、

母と離れたからだと思った。

彼の命の炎が消えてしまったんだ、と。

母はその知らせを受けて、

嵐のごとく泣き喚き、

悲しみと怒りの炎は

音を立てて燃え盛った。

そして自らを焼き尽くした。


わたしは、

母の火を消すことが出来なかった。

なぜなら、

わたしは火の国の人間だから。

わたしが消せば、

母のいのちを奪うことになる。

それを認められているのは、

医者のように

生死に関わることが認められている

一部の人たちだけだった。

彼らは特殊な液体を噴射して、

鎮火することができる。

でも、この緊迫した事態で、

お医者さん達の数が

圧倒的に足りなかったのは

いうまでもない。

街のあちこちで、家族や大切な人を思い、

怒りと悲しみで体が燃えていた。


わたしは燃えていく母のそばにずっと居た。

彼女のおなかを突き破るような叫びは

わたしの背骨と心を打ち砕いた。

耳の奥で、

あの塔のてっぺんで聴いていた音と

重なる。


ドクターたちが駆けつけた時には、

すでに、彼女は焼失していた。


赤い砂漠の砂みたいになった母のとなりで、

わたしはさっき

産み落とされた赤ん坊のように、

何も持っていない、なすすべの無い、

裸の子供だった。

2人が突如世界から消えて、

私は名前を無くしたみたいに途方に暮れた。



そしてわたしはひとりぼっちになった。


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