第11話 もう一度
「嘉河 優季さん」
私の名前を呼ぶ声がし、振り返る。
「矢木さん」
「退院おめでとう」
「ありがとうございます」
「まあ、本当なら俺よりも、二人からのおめでとうが良かったかな?」
「それは…でも大丈夫です」
「そう?優季…ちゃんには…で、呼び方で良いかな?それとも呼び捨てが良いかな?」
「どちらでも」
「そう?ちなみに俺の事は下の名前で秀一で良いから」
「はい」
「優季ちゃんには、これから俺に付き合ってもらおうかな?」
「えっ?」
「日本には送るから安心して」
「はい。分かりました」
私は秀一さんに付き合う事にした。
良く考えてみると私は日本人で英語も話せない事に気付いた。
勿論、秀一さんも日本人だけど、何ケ国語も話せるご身分のようで、違う意味でカッコイイ。
私は秀一さんに甘え、色々と手続きなどをしてもらった。と、言うよりしてくれた。
「すみません。色々とお世話になって」
「いいえ。はい、チケット」
「あ、ありがとうございます。あれ?2枚?」
スッ
2枚のうち、一枚をもらわれる。
「一枚は俺の」
「えっ?あー、そうだったんですね!」
「まだまだ、これからだよ。優季ちゃん。日本に到着しても色々やる事あるから」
「そうですよね」
私よりも秀一さんが楽しんでいるように見える。
「クスクス…」
その姿が可愛くて、つい笑ってしまった。
「何?」
「秀一さんが日本に行ける事を楽しみにしているみたい」
「そう?」
私は日本に発った。
「うわー、久しぶりだーー」と、私。
「そうだろうね」
「あっ!」
「どうしたの?」
「私…部屋探しから始めないといけないんだ…」
「大丈夫ですよ」
「えっ?」
「既に手配してあります」
「えっ!?手配…?」
「そう。だから大丈夫ですよ。しばらくは、そこを利用してもらうよ」
「何から何まで色々とお世話になりっぱなしですみません」
「違う意味で家族みたいなものだから世話やいちゃうんだよね」
私は部屋も働く所もバイトだけど用意してくれた。
「はい、部屋の鍵。後、これは俺の連絡先。何か他に必要な物とか、聞きたい事あったりしたら気軽に連絡しておいで。それじゃ、また」
「はい、ありがとうございます。あの!」
「何?」
「隆樹と冬流に宜しくお伝え下さい」
「分かった」
秀一さんは日本を発った。
その日の夜。
日本に帰宅して初めてのメールが届く。
「…………………」
そこには隆樹と冬流の写真と共に
『退院おめでとう』
そういうメールが届いた。
それから一ヶ月が過ぎ―――
「優季ちゃーーん、表に出てくれる?」
「はーーーい」
秀一さんは私に花屋さんのバイトを紹介してくれた。
時々、連絡を取り合い、二人の情報を聞くも、元気にしている事だけは聞いていたものの、詳しい事は何も聞かなかった。
元気で無事なら。
そう思っていた。
「いらっしゃいませーー」
「すみません。これと、これと…それと…」
サングラスを掛けた男性の、お客様が次々に花を注文していく。
次々に言われる為、置くタイミングがない。
気付けば両手いっぱいの花束が出来上がった。
「あの…これ誰かにプレゼントですか?凄いですね。両手いっぱいなので前が見えないです。こんなに沢山のお花を私も貰った事ないですよ。相当なお花好きなんですね。彼女にプレゼントですか?」
「だと良いのですが貰い手がいなくて」
「えっ?じゃあ…お部屋に飾られるんですか?」
「いいえ。プレゼントします……あなたに……」
「えっ…?」
「あなたに差し上げます。その代わり…あなたの全てを俺に下さい」
「えっ!?す、全てですかぁっ!?」
「はい。嘉河 優季さん。俺ともう一度、旅しませんか?」
「…えっ…?旅?しかも私の名前……どうして…?」
私は優しく抱きしめられた。
ドキン…
「お前に、もう一度逢いたいと言ってる人がいる。優季…一緒に行かないか?」
抱きしめられた体を離され両手いっぱいの花束が手元からゆっくり外される。
ドキン…
「隆…樹…?」
「後でここに連絡してもらうと良い。その時にお金を支払おう」
「…うん…」
花束を渡しながらオデコにキスをされ頭をポンとした。
ドキン
「連絡待ってる」
その日の夜、隆樹に連絡すると車で来て、お花代を集金した。
「本当に…隆樹だよね…?」
「ああ」
「冬流は?」
「彼女の所だ」
「彼女?もしかして…巳冬さん?」
「ああ」
「そうか…冬流フラれたとか言っていたのに?巳冬さん受け入れたのかな?」
「さあな」
「隆樹は?彼女出来た?」
「彼女がいたらここにはいない」
「クスクス…似たような台詞前にも言ってたよね?じゃあ…今度は立候補しようかな?…私…」
ドキン
キスされた。
「お前は立候補しなくても既に決まっていた」
「えっ?」
「初めて会ったあの日からな」
「…隆樹…」
「お前がいなくなってお前の存在に気付いた。お前の事が好きなんだってな…いや…ずっと好きだったが正しいかもな。近過ぎて見えなくなっていた。お前と一緒に過ごした時間、俺は凄く充実していた気がする。ゆっくりでいい。俺との事を考えて欲しい」
「で、でも…私…今度は、隆樹の前から逃げ出すかもよ?初めて会ったあの時みたいに」
「その時は後を追う。愛している女を逃す気はない」
ドキン
「…隆樹…」
私達は、ゆっくり付き合う事にした。
「優季ちゃーーん♪」
「巳冬さーーん♪」
私達は抱き合う。
隆樹と一緒に巳冬さんの元へ訪れた時の事だ。
「優季、抱きつく相手間違うてへんか?」
冬流が不機嫌気味に冗談っぽく言った。
「えっ?全然間違ってないよ。好きでもない相手に抱きつくなんて出来るわけないじゃん!」
「ええーーっ!一緒に船旅した仲間やんか!」
ご不満気な冬流。
本当は抱きついても良いけど、絶対、一言意地悪な事、を言うはず。
「そうだけど」
「隆樹ーー」
「男に興味無い!」
「何やねん!二人して冷たいなっ!」
ちょっとイジけた冬流が可愛く見えた。
「と〜おる!」
「何やねんっ!」
私は不意に抱きついた。
「うわっ!」
不意に抱きついた為、顔を赤くする冬流の姿が可愛く見える。
「案外、照れ屋さんなんだね?」
「う、うるさいわ!ボケっ!全然ちゃうわ!」
「またまた〜」
グイッと引き離される私達。
「あっ!」
巳冬さんと話をしていたはずの隆樹が、いつの間にか側に来ていた。
「早く離れろ!」
そして、すぐに巳冬さんの方に向かう。
巳冬さんと隆樹が会話をしている姿を見ながら
「隆樹、あー見えて案外、独占欲強いねん」
冬流が耳元で私に囁くように言った。
「えっ!?そうなの?」
そして距離をおき隣同士で話す私達。
「そうや。でも、まあ…その分愛されてる実感あるからええんちゃう?」
「…まあ…そうか…だからさっき…でもポーカーフェイスだから分かんないね」
「確かにな。せやけど、不安はないと思うで。絶対に毎日が幸せやと思うんや。あんな男いてへんぞ!優季、付き合うてんのやろ?」
「えっ…?あ、うん…ゆっくりだけど…」
「そうか…」
「うん。そんな事より、自分はどうなの?」
「えっ?」
「巳冬さんと。フラれたとか言ってたから。もしかして一緒に住んでるの?」
「ああ。用心棒や」
「そうなんだ。別に付き合っているわけじゃないんだね」
「ああ、付き合うてへん」
「…そうか…いつか恋愛の神様…が味方につくと良いね」
「ああ、そうやな…」
その日の夜。
私以外のみんなは、お酒が入り騒いでいた。
そして、みんなの眠りに入り私は眠れず外へ散歩に出掛けた。
「優季…?」
隆樹が私に気付き後を追う。
「優季」
名前を呼ばれ振り返ると隆樹がいた。
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