第10話 終止符――ピリオド――

〜 冬流 Side 〜



偶然に見付けた隆樹と女の人が向き合っている場面に遭遇した。


左側には優季がいる事も、俺の場所から確認出来た。


俺は嫌な予感がした。


二人の間に割って入る優季の姿があった。




「優季ーーーっ!」



雨の音で俺の声はかき消された。






〜 優季 Side 〜



私は力を振り絞り立ち上がると二人の間に割って入った。


チクリとお腹辺りに微かな痛みが広がった。



正直、ナイフを刺される瞬間は、こんなものなのだろうか?


そんな感覚だった。


本当なら、もっと痛みがあるはず。


きっと雨で体が冷え切っていたから麻痺して痛みが半減したのだろう?


そう思うしかなかった。





「…優…季…?」



「…愛する人…傷付けて…何に…なるの…?心から…愛していたんでしょう?だったら…こんな形で…手に入れても…幸せになれないよ…」



「…私…」



後退りすると女の人はゆっくりと放心状態のまま逃げるようにフラフラと去った。




ドサッ

私は、そのまま倒れ込んだ。




「優季っ!優季っ!」

「隆樹っ!」

「…冬…流…すまない…俺がいながら…」


「いや…俺かて同じや。一人にしたのがアカンかったんや…今…一応、救急車呼んだんやけど…この悪天候やし…」




そして、私は病院に運ばれた。


私の容態は、出血と肺炎を起こし始めていて生死を彷徨っていた。




「手は尽くしました。大丈夫です」




二人は安心したかのように安堵の溜め息を吐いた。


その後、彼女は自ら警察に出頭し、私も目を覚ました。




「…隆…樹…。…冬…流…。…私…生きて…」

「ああ。ちゃんと生きてるで」

「…そっか…」

「早く…元気になるんやで…」

「…うん…」




とは言ったものの私は迷っていた。



このまま行くべきか?


それとも……


日本に戻るべきか……




2つの選択肢から


選ばれるのは


たった1つ……




だけど……



すぐ回復するわけでもない




そうなると


二人は私が回復するまで


ここに滞在する事になってしまう




本当に


それで良いのだろうか?



私は矢木さんの言葉が脳裏に過った。



『…どうしても旅を続けるが不可能だと思った時、それは、あなたが彼等との運命の終止符(ピリオド)だと思って貰えれば良いのです』




回復したら出来ないわけじゃない。


旅は続けられる。



だけど、明日すぐに回復するわけではない。


私は決心した。




「…隆樹……、……冬流…」


「どうした?」

「何処か痛むんか?」



私は首を左右に振った。




「私の事は良いから旅に出て」


「優季?何言うてんねん。体調万全。完全復帰したら、また一緒に行くんやで?」


「そうだぞ!」



私は首を左右に振る。



「…これ以上…2人には迷惑掛けれないから…」


「…優季…」


「ここで、二人を長く足止めさせるわけにはいかないから」



「…………」



「きっと、ここで終止符(ピリオド)を打つタイミングのような気がする。体調が回復したら…私は…日本に戻る」




「………………」



「優季…本気で言っているのか?」


「嘘やろ?」


「本気だよ。嘘じゃない」



「…そうか…」


「…本当に…ええのか?」



「…うん…ごめん…ありがとう…」



二人は病室を後に出て行く。





次の日――――



「優季」

「隆樹。あれ?隆樹、一人?」


「ああ。お前に話があったから、一回出て来た。お前に謝らないといけないと思ってな」


「えっ?謝る?」

「巻き込んで悪かった」

「えっ?巻き込む?」

「下手すれば、俺はお前を…」


「もしかして…怪我の事…?…隆樹…大丈夫だよ。私が勝手に取った行動だからバチが当たったんだよ。初めて会った時にみたいに私は後先考えすに行動しちゃうから良く考えたら結構そういう事が多…」




スッと両頬を優しく包み込むように触れる隆樹。



ドキン



「…お前は…本当、後先考えてなかったな…」

「…2人には…迷惑掛けてばっかりで…」

「本当、目が、離せなかった。…優季…」

「何?」

「…いや…また後で、お前の荷物持って冬流と来る」

「うん…」





ドキン…


キスをされ、頭をポンとした。




《キ、キスされた…》



隆樹は、病室を後に帰って行った。





そして――――



「優季、お見舞いに来たで」

「…冬流、隆樹…」



ドキッ

隆樹の顔を見ては、私の胸が大きく跳ねる。



「傷口、大丈夫か?」と、冬流。


「う〜ん…昨日よりは痛みがある気がする…安静にしてるけど…」


「そうやろな」


「優季、お前の荷物だ」

「…うん…ありがとう…」


「矢木さんに、お前を頼んでおいた」

「そっか」


「お前の面倒は、しばらく矢木さんが、色々とお世話してくれるらしい。そのうち、ここに来ると思う」


「…分かった…二人共、ごめんね。それから…ありがとう」


「ああ」


「じゃあな」


「二人共、元気でね!」



私は笑顔を見せる。



「二人に出会えて良かった。今日まで色々ありがとう」


「ああ」


「ほな、また会えたらな」


「…うん…」




二人は病室を後に私の前から去った。



「…これで…良かったんだよね…」




私は涙が溢れてきた。




















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