第7話 冬流の想い人

「なあ、隆樹。次の港にちょっと寄りたいねんけど…」

「別に構わないが」

「おおきに」



私達が乗った船は、冬流の運転により、とある港に辿り着く。


冬流は単独行動をし、私は隆樹と街をブラつく。




その途中。



「二人共、お似合いだねー。どう?お揃いにしないかい?」



お店の女性店員が私達に英語で話しかけてきた。


道路脇左右に、色々な店が建ち並んでいる。


市場みたいな所だろうか?



「隆樹、お店の人…何て?」


「二人共、お似合いだ。お揃いにしないか?だと。恋人同士だと思われているんだろう?」


「へえー、そうなんだ。…えっ…!?こ、恋人同士ぃ

っ!?」



そう言う、私の事を置いて、隆樹はスタスタと去り始める。




「あっ!ちょっと!隆樹っ!ま、待ってよ!」

「彼女、どう?」




お店の店員から英語で言われた。


正直、何て言ったかは分からないけど



「えっ!あっ!えっと…あ、I’m sorry!」



そう言っておけば何とかなるだろうと思い、すぐに隆樹の後を追った。



少しして――――




グイッと誰かが私の腕を摑んだ。





「ねえ、彼女、彼氏にどう?1つ」




女の人が日本語で声を掛けてきた。




「えっ?」




《日本語》




「あれ?日本語通じない?日本人じゃないの?」


「い、いいえ。日本人です。同性の日本人から久しぶりに声を掛けられたから」


「嘘!?マジ!?そういえば私も久しぶりに同性の日本人に会ったかも?それよりあの人、彼氏でしょう?」




買い物をしている隆樹を見ながら女の人は話した。




「えっ?ち、違います!私は、彼の連れで別に付き合っているとか、そういうのじゃなくて」


「そうなの?じゃあ友達としてどう?彼、カッコ良いし似合いそう」



私は買う事にした。


勿論、冬流にも買う。



「2つ?」

「はい、後一人、連れがいるんです」

「へえー、男の人?」

「はい」


「まあ、良い男に囲まれて。2人のどちらかに恋心とかないの?」


「ありませんよ!」

「そうなの?」


「はい。元々、出会いが良い出会いじゃなかったから。二人と出会って恋だの愛だのなくなってきてるし、向こうも恋愛対象外だろうから」


「そう。でも相手がいるだけでも良いわよ」


「えっ?」


「私、彼氏が、1年前に他界して恋なんて出来ないと言うより踏み込めないのよ」



「………………」



「2人でバカしあって騒いでいた、あの頃に時が止まったまま。思い出しかなくて…」


「思い出か…良い思い出があるなら良いですよ」



「えっ!?」



「私は…何も残してあげれなかった…私…母親が亡くなったんです…彼等と出会ってから数日後…」


「…まあ…」


「でも…私の許可なしに挙式会場とか、ドレスとか相手も知らされないまま結婚させられそうになったんです」


「えっ?そうだったの?」


「はい…。母親は私の話を聞こうとしなかった。スッゴイ腹が立って式場を飛び出しました。その時、偶然にも一隻の船が出港するのがあって私は迷う事なく乗り込みました」


「うん。それが彼等との出会いだったわけね」


「はい…その後、母親は港で倒れ込んでしまって…その数日後…息を引き取ったみたいです…持病の心臓病と末期ガンに侵されていて…」


「まあ…そうだったの…」


「だけど…娘である私に知らされてなかった私に追い討ちをかけるように…母親が…やりたかった真実を聞かされたんです」


「真実…?ただ単に結婚式の写真を撮りたかっただけで、相手はいなかったって…母親は私の晴れ姿を見たくて、その事を知っていれば…」


「そうだったのね」


「あっ!すみません…お姉さんの話だったのに」


「クスクス…大丈夫よ。じゃあ、あなたは、お母様の分も生きなきゃね」


「はい!お姉さんも彼氏さんの分も生きて下さい!今は辛いかもしれないですけど、きっと時期が来たら良い人現れると思いますよ。また、新しい王子様が」


「クスクス…そうかもね」




〜 隆樹 Side 〜



途中、優季に声を掛けようと思った。


だが

彼女がお店の店員と楽しく話をしているのを見ると


タイミングが悪い気がして躊躇し

声を掛けるのを辞めた。


俺は近くで待機していた。





「あっ!隆樹」



彼女が俺に気付き俺を呼んだ。




「もう良いのか?」

「えっ?あ、うん大丈夫だよ」

「じゃあ、行くぞ」

「うん」



私はお姉さんに頭を下げると軽く手を振り別れた。





「可愛い女の子。彼女は素晴らしい女性になりそうね」




その日の日も落ちた頃、私達は、ご飯を食べようと、とある店で待ち合わせをし合流した。




「すまん、すまん!」

「今日は、この街で停滞だな」

「そうやな」


「宿探しだね。冬流、女の子ナンパしてたんでしょう?」


「ちゃうわ!」


「またまた〜。でも、女の子なら、ここにもいるのに〜」



私はじぶんを指差す。


ベシッと頭を打たれた。



「いった!女の子に暴力したー」

「お前に色気の“い”の字もないわ!」

「……やっぱり……そうだよね……」



「………………」



「な、何で一気に、この世の終わりみたいな顔すんねん!」


「そんな顔してません!まあ…へこみ気味だけど…やっぱり色気…ないんだよね…」


「えっ?」


「…色気ないの間違いか…」



「………………」



「な、何で、そんなヘコむん?隆樹、コイツ何があったん?」


「さあな」


「いやいや、お前、ずっと一緒におったんやろ?」


「一緒にいたからという理由で俺に答えを求めるな!俺は何も知らない!」


「…やっぱり…恋愛しなきゃ駄目なのかな?だけど恋愛した所で、どうこうじゃない気がする…」



「………………」



「それとも、もっと女の子らしくした方が良いのかな?ね、ねえ」


「知らん!」


「知るか!」


「二人共冷たい!私、一応、女の子なんだけど?」





そこへ――――




「あら?あなた…昼間の」

「あっ!ショップのお姉さんっ!」


「あっ!名前まだだったわね。巳冬(みふゆ)。伊家内 巳冬(いけうち みふゆ)」


「伊家内さん」

「巳冬で良いわよ」

「巳冬さん。私、優季です」

「優季ちゃん」


「そして、彼が昼間一緒にいた隆樹と…」

「…巳冬?」

「えっ…?…冬流…?」




どうやら巳冬さんと冬流は知り合いのようだ。


話によれば、巳冬さんの彼氏が冬流と友達だったみたいで…


二人は意気投合し、巳冬さんのご好意で泊めさせてもらうことになった。




夜中、目を覚ました時、2つの人影が、バルコニーに見えた。


巳冬さんと冬流だ。




「あれから恋に踏み込めへんのか?」

「当たり前よ」

「そうか…じゃあ…アイツの代わりにならへんよな?」

「えっ?」


「俺…ずっと好きやったんや。いつも気持ち抑えとってん」


「…冬流君…そうだったの…だけど…友達でも、それは出来ない」


「そうやろな」




私は、そこから去った。



次の日、私達は、この街を後に出港した。


































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