第三話[魔導書]

お父さんが出かけてから、半年の月日が経った。


トントン。


「はーい!」


お母さんが玄関に向かった。ドアを開けると見たことの無い鎧を来た男が立っていた。


「私は、王国騎士団長・マイルド・ルーシャンと申します。国王からの伝言を預かっております。


 ルーシャンは、手に胸を当てて大きな声で話す。その声を聞きつけた僕は玄関に向かう。ルーシャンは、悲しそうに僕たちを見た。


「勇者・ロイ。最難関ダンジョンにて、行方不明になりました。一週間連絡が途絶えた事より、勇者・ロイは死亡扱いとなります。」


それを聞いたお母さんが、崩れるように地面に腰をついた。両手で顔を隠し、肩がプルプル震えている。


「そんな……。ありえないわ。ロイが死ぬはずない。」


「国王様から、白金貨10枚を頂いております。お受け取りください。」


  ルーシャンが、泣いているお母さんの隣に小包を置いた。僕はお父さんが死んだ事を理解できず、否、理解しようとせず。ポカンとしていた。


 お母さんは小包をルーシャンに向かって投げつけた。


「お金なんていらないわ。ロイを返して……。」


 ルーシャンが小包から、溢れた白金貨を拾い小包に戻して、お母さんの隣に置く。そして一言。


「すいません。」


 と言ってルーシャンは頭を下げて、帰って行った。


はぁ。


 僕たちの家に静まり返り、お母さんは自室に走って向かった。


 お母さんを悲しませる父さんなんて大っ嫌いだ。この日はお母さんが部屋から出る事はなく、一人で過ごすのだった。


 夜が明け、夕日が登る。僕はリビングに向かうと、いつものように笑うお母さんがいた。


「昨日は、ご飯出さなくてごめんね?」


「大丈夫。」


よく見ると、お母さんの目は腫れていた。二人で軽く食事を終える。


「お母さんしばらく出かけようと思うの。」


「ーーーえっ?!」


「お母さんお父さんを探しに行こうと思うの。」


「僕は連れてってくれないの?」


「危険だから、アルトにはお留守番して欲しいな。」


「僕も一緒に行く!」


「ダメよ!アルトはお父さんに勝てた事ないじゃない。せめてお父さんくらい強くないと……足手まといになるわ」


 僕はまだ一度もお父さんに勝てた事がない。お母さんは、お父さんより強いと聞いた事があるが戦った事を見た事がない。あの話本当だったんだ。



「僕が強かったら連れて行ってくれる?」


「わかったわ」


 そう言ってお母さんは立ち上がって、僕たちは庭に向かう。木刀をお母さんに向けて構えた。


「かかって来なさい。」


僕はお母さんに猛スピードで近づき切り裂いた。お母さんが半分に割れる。次の瞬間お母さんは元通りになっていた。


「なっなんで……。」


「アルトにはまだ言って居なかったね。お母さん最強なのよ」


お母さんから放たれる水の塊によって僕は、気絶するのであった。なんだよこれ…



「ちくしょぅ。」

 目を覚ますと僕はベッドの上だった。体を起こして、顔を叩く。力が欲しい。お母さんと一緒に入れるだけの力が……。


「魔導者……」


 僕は急いで書庫にむかうのであった。本を足場にして、棚の上にある魔導者を取った。触れると本が光出す。


『適合者発見。適合者発見。プログラムを開始します。』


頭で声が響く。僕は周りをキョロキョロするが誰もいなかった。もしかして、本が喋ってる?


『イエス。あなたの思考を読んで、脳内に言葉を送り込んでいます。』


会話ができる魔導者なんて聞いたことない。売ればいくらになるのだろうか?


「僕。力が欲しいだ。誰にも負けないそんな力が。」


『否。サポートは出来ますが、力を分け与える事はできません。』


 なんて使えない魔導書だ。燃やしてしまおうかな。焼却処分だ。僕は人差し指に火を灯した。スキル〈魔王〉とは、この世の全ての魔法を習得できる。魔物の王ではなく。魔導の王なのだ。


『私を燃やしたら、大量のマナが放湿されこの世界が爆発しますよ。それでもよければどうぞ。」


 ちょっ何言ったこいつ。世界が爆発する?こんな本一つでできる訳ないじゃないか。


『試してみます?』


やめておこう。もしこの話が本当だったら友達もお母さんも死んじゃうもん。


「今すぐ強くなる方法を教えて。」


『”召喚術”なんてどうでしょう。強い使い魔を手に入れば、今すぐにでも強くなれますよ。』



 召喚術?なんだそれ。聞いた事がないぞ。テイムとは違うのか?


『テイムはこの世界の者を仲間にします。召喚術とは、別世界の者を仲間にします。バハムートも召喚術によって呼び出されたとされています。』


 ほぇ〜バハムートが仲間になったら怖いもの無しじゃん。お母さんの役に立てるかな?でもそんな強い術、みんなしないのはなんでだろう。


『召喚術とは、魂魄。この世界ではスキルですね。それを全て犠牲にして呼び出します。スキルが強ければ強いほど、強いモンスターが呼ばれるとされています。


“召喚術“を使うには、高度の術式と、膨大な魔力が必要です。まず術式を作れたとしても、賢者ぐらいの魔力が無いと使用できないからだと、思います。』


 なるほど、賢者は、10年に一度現れるかどうかの珍しいスキルだ。賢者に産まれただけで、王国魔導団の分隊が約束される。そのスキルを失ってまで、今すぐ強くなる理由は無いよな。


「高度な術式とやらを教えてくれ。」


「そうですね。まずは私を食べてください。」



「ーーーーはぁ?」

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