第二話 [おとん]

「お母さん。ご飯まだ〜?」


「あとちょっとよ。それまで勉強しときなさい。」


「はーい!」


僕は、書庫に向かう。我が家には、図書館と引けを取らない大きな書庫がある。ドアを開き、中に入る。


「今日こそ、魔導書を読んでやる!」


魔導書は棚の1番上にあり、僕の身長では届かないようになっていた。


「うぅ。」


 ジャンプをして手を伸ばすがやっぱり届かない。

そうだ。本を積み上げて……ダメだ。本は貴重品で高価な物だとお母さんから聞いた事がある。踏み台にするなんて、絶対に怒られる。


「ん〜どうしようかな?」


 アルトは仕方なく下の方にある本を取り出した。

「モンスター図鑑。」僕もお父さんみたいに、冒険をするんだ。いつか必要になる知識だろう。僕は本をパラパラめくる。


「うぁ〜バハムートカッケェ。ヴィンテーネは可愛いなぁ。」


 最古の龍・バハムート。水を操るヴィンテーネ。伝説のモンスターと呼ばれ、物語りでもよく出てくるモンスターだ。


 バハムートは、野原を焼き回り。ヴィンテーネと勇者が協力して、バハムートを倒すお話。僕はこの話がお気に入りだった。お父さんに詳しく話を聞こうとすると、いつもはぐらかされていた。少しくらい教えてくれたっていいのに。


「あれ?人なのにモンスター?」


 本には、人にしか見えない一人の老人が映っていた。どこにでもいる優しそうなお婆ちゃん。そのモンスターの詳細を読んだ。


「【オウゲツヒメノカミ】神でありながら、モンスターになった存在。元は、食料の神であり人間と仲良く暮らしていたが、ある時化け物の姿になり人々を食糧難にさせたと言われている。」



 僕は次のページを開く。そこには、巨大なムカデの絵が描かれていた。うげぇ。手足が無数に生えていて、細長いヘビみたいな体をしていた。


「きもいわるっ!」


 本をバタンと閉じる。食事の前にあんなの見るんじゃなかった。はぁとため息を吐いた。


「アルトーご飯よ!」


 お母さんに呼ばれて、食卓へ向かう。テーブルの上には、パン。クリームシチュー。サラダが置かれていた。僕は椅子に座りフォークを取った。


「お父さん、明日からしばらくお出かけする事になった。」


「どこ行くの?お父さん。」


「ちょっとな。帰るのは遅くなると思う。」


「うぅー。早く帰って来て。」


 うなる僕を見てお母さんとお父さんが嬉しそうに笑う。お父さんがいなきゃ剣の稽古出来ないじゃないか!今すぐ行くのやめろ。


「パパはね、国王様の依頼で【最難関ダンジョン】に向かうのよ。」


「ーーーえっ。」


 なんでそんな危険な場所に、お父さんが行かなきゃならないんだ!お父さんは家で自宅勤務!それしか許さん。


「ダメっ。」


「俺も行きたくないんだけどさ、国王からの命令だから断れなくてよ。調査だけだし、そんな危険な事はないと思うよ。」


 お父さんが僕の頭を撫でる。うぅぅ。行かせんぞぉ。どうしても行くと言うのなら、僕たちを連れて行けぇー。


「国王死ね。」


「コラ!アルトそんなこと言っちゃ行けません!」


 お母さんが怖い目で僕を睨む。ビクッとなる僕はお父さんにしがみついた。


「おーよしよし。それにしても、新しい国王になってから、めんどくせぇ依頼が増えたな。あんまりいい噂聞かねぇーし。」


不満そうにお父さんが悩む。


「お父さん、レッツゴー!」


 お父さんに国王を倒して来てとお願いする。おいおいと、苦笑いするお父さんが口を開く。


「国王を倒すと国が荒れる。国が荒れると街が荒れる。街が荒れると俺たちも荒れる。大事なもんを守るためには、我慢も必要なんだよ。」


「僕難しいこと分からない。ぶっ倒せば良いんじゃないの?」


「そーゆー訳じゃねぇーよ!どうしてこう、脳筋に育ったのか.....」


 お母さんが、お父さんを冷ややかな目で見ている。



「昔のパパにそっくりじゃない。幼い頃私に言い寄って来た男を、話を聞かずに殴りに行ってたじゃない。」


「それを言うならママだろ。俺が手を出さなきゃ相手氷付けになってただろ。」


お母さんがフフフッと笑う。僕たちはご飯を食べ終え、寝室へ向かう。すると「そんな殺生なーー」とお父さんの叫びが聞こえて来た。どうやらお母さんと一緒に寝かせて貰えないようだ。可哀想に。


 僕はお母さんと一緒にベッドに入る。今日はお父さんが居ないから、大の字で寝てやる。なんて事を考えていたらお母さんが僕を抱きしめた。あれ、お母さん少し震えてる?僕はお母さんの袖をぎゅっと掴んだ。



 やっぱり、不安なのだろうか。いつ帰ってくるかわからないお父さんを送り出すのは。


 お腹いっぱいの僕はお母さんに抱きしめられながら眠るのだった。


>>>>>>>>>>>>>>>>


 目を開けると、家にはお父さんがおらず。お母さんが朝ごはんを作っていた。


「お母さん。おはよう。お父さんは?」


「もう行ったよ。」


「僕を置いていくなんて。」


「ついて行くって言われない為に、早めに出て行ったわよ。」



 なんとお父さんは、僕の完璧な作戦を見抜いていたのだった。おとん。やるな!

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