第三章

第一話 [アルト]

「行かないで、おかあさん。」


「ごめんね。アルトは連れて行けないの。」


アルトは必死にお母さんの腕を掴む。離れたく無い。幼いアルトには当たり前の感情だった。


「一人になるなんて無理だよ。寂しいよ、母さん。」

「ごめんね、しばらくお婆ちゃんの所に預かってもらえるように頼んどいたから。」


 泣くアルトを抱き寄せ頭を撫でる。行かないで…。


「愛しているわ。アルト。」


 母はアルトのおでこにキスをして、どこか遠くに向かった。


「うぇえぇぇえん。」

 

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「ーーーーハッ!?」


俺は、寝袋から起き上がる。すごい汗だ。懐かしい夢を見た。あの時はまだ俺は何も知らなかったんだ。なんでお母さんが出ていったのか。


 俺たちは今48階層でテントを建て、野宿をしていた。隣にユイが気持ちよさそうに寝てる。鼻でも摘んでやろうかな?俺はテントを出て、見張りをしているエルナの所に向かう。



「お目覚めですか?」


「あぁ。」


 俺はアイテムボックスからパンを取り出してエルナに渡す。手と手が重なる。あったかい。そのまま手を合わせているとエルナがクスリと笑う。


「今日は甘えん坊なんですね。アルト様。」


「うるさい。」


 少し恥ずかしくなってそっぽを向いた。するとエルナが俺の手を握る。んっ。心が安らぐ感じがした。


「たまには、よろしいのでは無いでしょうか。いつもカッコよく振る舞うアルト様が、甘えん坊になっても。」


「うん。ありがとう。」


 俺はエルナの手を握り返した。気温は低いはずなのに体の奥が熱くなる。手から伝わる心拍数が速くなるのを感じだ。


「アルト様。最難関ダンジョンに入ってから、少し気を張り詰め過ぎてませんか?」


「すまなかった。」


「怒ってる訳じゃありません。ただ余りにもらしく無い行動が多くて心配してました。いつもならどんな強敵相手でもアルト様は、逃げる事はしませんでした。いつもより慎重と言うか……。良い事なのにおかしいですよね。」


 エルナがふふふっと笑う。たしかに俺らしくなかった気がする。”アイツ”が居るかもしれないって慎重になり過ぎていたのかもな。アイツを殺す為、俺は生きてきたんだ。


「エルナ、長くなるけど。聞いてほしい事があるんだ。」


「わかりました。」


「俺が産まれて5年が経った時の話だ……


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「母さん!父さん!みてこれ!!」


 綺麗な四葉のクローバーを両親に見せる。幸せそうに笑う黒髪の女性。ヴェルティア。僕の自慢の母さんだ。そして隣に目をハートにして母さんを見る金髪のイケメン・ロイ。僕の自慢?普通の父さんだ。


「あらぁ。綺麗なお花ね。」


「母さんにあげる!!」


「ありがとう。お父さんアルトから綺麗なお花貰っちゃった。」


「花じゃなくて、クローバーだろ?それに綺麗な花よりもママの方が綺麗だ。」


「もぅ。子供の前でそんなこと言わないの。め!」


 うぅーと唸る父さんが僕を見る。ニヤリと笑うと


「ママに怒られた〜」


わざとらしく鳴き真似をする父さんが、僕に近づきほっぺをすりすりしてくる。必死に抵抗するが、子供の力は弱く。されるがままであった。


「アルト!剣の訓練始めるぞ!!」


 お父さんが、木の剣を僕に投げつける。剣を前に突き出して構えた。次の瞬間、父さんが僕に斬りかかる。俺は攻撃を受け流して、お父さんの足を狙って薙ぎ払った。



「もらった!!」


「甘いわ!」


お父さんがジャンプをして、僕の攻撃を避ける。


「あっ…。」


頭に木の剣が叩き込まれた。


「いたい。」


「討ち取ったって思っても油断したらダメだぞ。」


「勇者に勝てる訳ないだろ!」


 僕の父さんは、スキル〈勇者〉なのだ。魔法も剣も使えるエキスパートスキル。なんか世界を救ったとかなんとか言ってたが子供の僕には全くわからなかった。


「お前の方がやべぇースキルだろ。ダブルスキルがないて呆れるぜ。」


「うううぅぅーー。お母さーーん。お父さんがいじめるぅ。」


 お母さんの所に駆け寄って抱きついた。お母さんは、僕を持ち上げて、お父さんを睨んだ。


「ロイ!!やりすぎです。」


「だってよぉ。〈剣王〉と〈魔王〉のダブルスキルを持ってるのに、勇者に勝てる訳ないって言ってるんだぜ。アルトの方がすげぇだろ。」


「それでもです。アルトは、まだ体が小さいのですから勝てなくても仕方ありません。罰として、今日は一緒に寝ません。」


 お父さんの顔が青ざめる。必死に「それは許してくれ〜」と頼むお父さんに、お母さんと僕が笑う。

そんな普通の家庭を楽しんでいたんだ。


 アイツが来るまでは.....,



【新章始まり】

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