第12話 [エンド]
―――ガラガラガラ。
食料を買い込み俺たちは街を出た。馬車の車輪音を耳にしながら、地図を開いた。エルナとユイが両脇に座り、目的地を確認した。
「旦那。あと二時間ほどで着きまっせ。」
「ありがとう。だいぶ早く着きそうだな。」
「一度もモンスターに襲われたりしませんでしたから、幸運でしたね。」
御者が声を掛けてくるが、特に会話をする内容もなく話が終わる。気の利いた話題でも出せれば良かったのだが、そんなものは無かった。
「ユイちゃん。大丈夫?」
「うっ、出ちゃいそう。」
俺達は今、最難関ダンジョンがあるエンドへ馬車で向かっていた。エンドには、大きな山脈があり年中霧で覆われいる。マッドマンと言う生物が存在しており、中心部にダンジョンの入り口がある。マッドマンは、成人男性くらいの身長でひょろ長い体。肌の色は、茶色で人を食べる。一体一体は強くはないが、大勢でいる為とても厄介だ。
着いてから道に迷わない為に、地図を頭に叩き込んでいた。道が複雑で迷子になりやすい。エルナとユイにも教えようとしたが、二人とも馬車酔いをしてしまったので俺一人で覚えていた。
「アルト〜。馬車降りて歩いて行こうよ〜。」
「却下。」
「馬車嫌い。」
「……ユイだけ歩いて行くか?」
「意地悪、」
ユイは、プイッとそっぽを向いて景色を眺める。
「アルト様。いつまで放置して置くつもりですか?」
「んー。」
俺達の馬車の後ろにもう一台の馬車が一定の距離を保ち後をつけている。
「何かされる前に潰しちゃおっか。」
「わかりました。」
「アルファ、出ておいで」
俺は後を着けている馬車の後輪を破棄する様に命じる。アルファは、地中に潜り馬車の後輪を噛み砕いた。すると馬車の中から八人の兵士が現れた。
「やっぱり追手でしたか。」
「たまたま行き先が俺たちと同じだっただけかもしれないよ?」
「アルト様。この先はエンドしかありませんよ。」
それから二時間、俺たちは馬車に揺られ目的地に着くのであった。
「旦那っ付きましたぜ」
「送ってくれてありがと。」
「若ぇのに、死にに行くなんてもったいないなぁ。」
「死ぬつもりは無い。」
御者はそう言って、馬車に乗って帰って行った。俺たちは死にに来ているんでは無い。最難関ダンジョンを攻略しに来ているのだ。
「薄気味悪い場所ですね。」
「霧のせいで前が良く見えないや。」
「ほら行くぞ。気を引き締めろよ。」
アルトは、頭に叩き込んだ地図を思い出し、前に進む。数分歩くと辺りから謎の声が聞こえて来た。
「ケケケケケケッ」
霧から姿を表したのは、細長い体茶色の肌。マッドマンだ。よだれを垂らし、獲物を見つけた目をしてこちらを伺う。
「ここは僕がやるよ。」
ユイはマッドマンに大剣を向ける。斬りかかるがしかしユイの大剣は空を切った。何度も斬りかかるがマッドマンに当たる事は無かった。
「エイッ!ヤァ!オリャァァア!」
「………なぁ、ユイ。」
「調子が悪いだけだ!次は当たる。」
「うん、そうだね。」
「………。」
どうやらユイは、ポンコツだったらしい。こんなので良く冒険者をやって来れたな。エルナは荒れた様子でユイを眺める。
「アルト様、ユイさんはモンスターに攻撃を当てた事がありません。」
「……はぁ?」
変な声が出た。マッドマンがユイに向かって突進を仕掛けたが、攻撃が当たっても気にせずに剣を振り続けていた。
「ユイさんのスキルは、《鉄塊》です。強力な防御力を誇り、時として壁として仲間を守ります。しかし、攻撃力は、皆無。相手を傷付ける所が、攻撃が当たる事はありません。」
「なぜ、一人で戦いに行った?」
仲間と一緒に動き、ユイが攻撃を受け止めモンスターの隙を狙って仲間が倒す。どう考えてもこれがベストだろう。一人だとただの的ではないか。
「戦うのがお好きな様で、よく一人で突っ走ります。」
「エルナ、助けてやれ。」
「わかりました。」
エルナは、マッドマンに近づき肩に触れる。ビリリと痺れ、マッドマンは倒れる。倒した事を確認したユイが何か言いだがな目でエルナを見た。
「………ありがと。」
悔しそうな顔を浮かべ、感謝を述べる。エルナはユイの頭を撫でながらクスッと笑っていた。流石は元同じパーティ。ユイの扱いはお手の物だ。本当にこいつがリーダーだったのか?エルナの方がリーダーっぽいな。
「時間をかけ過ぎたみたいだぜ。」
辺り一面にマッドマンが現れる。千は超える大群に俺は苦笑いを浮かべる。二メートルを超える巨大もおり、両手に2本の剣を持っていた。マッドマンプリンスだ。この軍隊の隊長と行った所だろう。
「「「「ケケケケケケケケケケケケケケケケ」」」
マッドマンがニヤニヤと俺たちを見る。開戦の合図を待っている様だ。エルナとユイが戦うの構えをとる。
「ケッケーーー!!」
マッドマンプリンスが大声がエンドに響き渡る。マッドマン達が一斉に俺たちに襲いかかって来た。
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