第9話 [デート?]

エルナと手を繋ぎながらケーキ屋に向かう。周りからの視点が気になるが、それ以上に手汗が気になっていた。まるでデートのようだな。と言うかデートだよな。


「なぁ、エルナ……。」


「はい。アルト様?」


「いやッ!なんでもない。」


俺の手汗大丈夫ですか?なんて恥ずかしくて聞けない。「びしょびしょですよ」なんて言われたら、立ち直れないよ。エルナは何も言ってこないし問題は無いのだろう。俺は手汗などかきません。たぶん?


 兎も角、目的のケーキ屋に行くとしよう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「わぁぁあ!美味しそうです。」


 イチゴタルトを前にエルナはニコニコしていた。

この街一番のケーキ屋だ。俺はこの日のために、ミーシャからおすすめのケーキ屋を聞いていた。ケーキの他にも、パスタやサラダ。さまざまな料理が置いてあり、男性客にも店に入りやすくしている。各々頼んだケーキの感想を言い合った。


「このイチゴタルトの方が美味しいです。


「いいや、このバウンドケーキの方が美味しい。」


 どっちのケーキが美味しいか、俺たちは不毛な争いをしていた。


「ほら、食べてみろよ。あーん」


 俺はパウンドケーキをフォークに刺し、エルナに向ける。エルナの耳が真っ赤になった。


「どうした?食べないのか?」


「アルト様は、意地悪です。」


 モジモジしながらエルナが、バウンドケーキを口に入れる。


「うまいか?」


「はい、美味しいです。」


 ほらっ。バウンドケーキは、美味しい。周囲の目線がこっちを向く。いつの間にか周囲の注目の的になっていた。


「今日は、よく見られるな。」


「アルト様の所為です…!」


 エルナがプイッと外を向いた。

エルナがイチゴタルトをフォークに刺し、俺に向ける。


「お返しです。」


 エルナの手が震えていて食べづらかったが、俺はイチゴタルトを口に入れた。


 「美味しい……。」 


 バウンドケーキに負けず劣らずイチゴタルトも美味しかった。


「若いっていいわねぇー。」

「大事にしろよ〜。」

「クゥー、羨ましい。」


 周りのお客さん達が集まり出した。あれ、ギルバードも居る。目が合うとニヤニヤと笑みを浮かべていた。



「エルナ。話があるんだ!」


 耐え切れず、ガタッと音を立てて椅子を立ち、俺は話題を切り替える。


「告白だとー!?」

「エルナにも春が?!」


 更にヒートアップするお客さん。エルナの知り合いもいるな。駄目だ、静かに会話ができない……


「はい。アルト様。」

「帰ろっか。」

「あ、はい…」


 本題を諦め、店から出ようとする。


「キャーーーお持ち帰りよッ?!」

「やる時はやるんだな」

「クソッ爆発しろ。」


 あぁもうどうなでもなれ。俺はエルナの手を引いた。すると一人の男性とぶつかった。身なりが豪華な小太りの男が床に転がる。


「あの〜。大丈夫ですか?」


 どこかのお偉いさんなのだろうか。5人の護衛の兵士達が俺に剣を向けた。


「無礼者!この方を何方と心得る!この方こそこの国の次期国王、ナラクラの王子であるカメハ様であるぞ!」


 兵士の一人が叫ぶ。周囲のお客さん達が嫌な顔をしていた。ああ、この国のクソ国王の息子か。俺は兵士に殺意を向けた。


「辞めろ、クスナ!僕の不注意だ。」


 小太りの男が立ち上がり、兵士達を止めた。

あれ、、こいついい奴かも知れん。腐ってるのは、国王だけか……。


「しかし、この者を許してしまえば国民に示しがつきません。」


「そうだなぁ……。」


カメハ王子は、エルナをジッと見つめる。


「では、罰としてこの女性を貰って行こう。とても綺麗で美しい。僕の12番目の嫁にしてやろう。」


 あぁ。やっぱりコイツクソ王子だ。人を物のように扱いやがって。王子の教育どうなってやがる。半殺しでも許してあげねぇ。


「お断りします。」


 エルナが気色悪そうにカメハ王子を見る。そりゃいきなり嫁になれなんて言われたら、不快だよな。



「ーーーーッナ!?」


 断られた王子は、プルプルと肩を震わせていた。


「一生金には、困らんぞ。それでも断るのか?」


「はい。私はアルト様のものです。」


「そうか……。」


 カメハ王子は、腕を組んで少しの間沈黙した。嫌な予感がする。


「アルトという者、この女性を手放す気はあるか?」


「いいえ。ありません。」


 兵士達が剣を俺に向ける。無理やり奪おうってやつか。どこまでこの国は腐ってやがる。


「これでも手放す気には、ならないか?」


「なりませんね。クズ王子。」


「そうか、なら死ね。」


 兵士達が剣を振り上げた。

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