第3話

 ユーナはパーティーが四人になったことを確認して、受付で何か手続きをしてきた。

「それじゃアルト君、それに皆! 早速だけど出発するよ?」

 アルトは緊張しながら言った。

「あの、王都に向けて出発するんですか?」

 ユーナは笑って答えた。

「違うよ。隣のステロの町でヘル・ビーの大群が出たから倒しに行くんだよ」

 

「え?」

 ドロスが説明した。

「僕たちのパーティーは、まだ出来たてだから経験を積まないと。まだ王都にいける力はないよ」

 アルトは落胆しながらも頷いた。

「はい、わかりました」


「でも、ヘル・ビーなら余裕で倒せるでしょう?」

 イザベルが言う。

「そう言って油断してるとあぶないぞ?」

 ユーナがたしなめた。

「それじゃ、早く行こう!」

 ドロスが言うと、皆は頷いて冒険者の館から隣町へと移動を始めた。


「あの、皆さん出来たてのパーティーとおっしゃってましたけど、チームを組んでどれくらいなんですか?」

 アルトはユーナに尋ねた。

「そうだな、やっと二ヶ月ってところかな?」

 ユーナの後にイザベルが言った。

「ああ。スライム討伐から始めたんだよな。」


「そうですか」

 アルトは王都にたどり着くのはずいぶん先になりそうだと肩を落とした。

 

 ステロの町につくと、ユーナは町の冒険者ギルドに顔を出した。

「詳細を聞いてきた。町外れの空き屋にヘル・ビーが巣を作ったらしい」

 イザベルはそれを聞くと剣を構えた。

「じゃあ、早速倒しに行こう!」

「まて、落ち着こう、イザベル。私が氷結魔法でヘル・ビーの巣を凍らせる。そうしたら、巣をたたき落として燃やせば良いだろう」

 ユーナが言うと、ドロスが頷いた。

「作戦は決まったな。空き屋に移動しよう」

 ユーナを先頭にして、空き屋に向かう。


「ヘル・ビーの巣が見えた!」

 アルトが叫ぶと、ユーナは呪文を唱えた。

「アイスエアー!!」

 ヘル・ビーの巣が凍り付いた。

「行くぜ!」

「ああ!」

 ドロスが弓で凍った巣を打ち落とすと、イザベルが剣を振り巣を叩き切った。


「まだ巣にヘル・ビーが残ってる。アルト! 剣を構えて!!」

「は、はい……」

 アルトは剣を構えたが、ヘル・ビーを倒すことは出来なかった。

 攻撃を避けたヘル・ビーがアルトに群がってきた。


「ファイアボルト!!」

 ユーナの火炎魔法でヘル・ビーは燃え尽きた。

「ありがとうございます、ユーナさん……」

「チッ、使えないね」

 舌打ちしたユーナは冷たい目をして、アルトのことを見据えていた。


「ちょっと、弱すぎるんじゃない? アルト君」

「え!?」

 イザベルとドロスも頷いている。

「冒険は遊びじゃ無いんだ。もう、家に帰りな。アルト君」

 ユーナは忌々しいと言った表情でアルトに言った。

「そ、そんなこと言われても、僕は王都にいかなくちゃならないんです」


 アルトは何とかパーティーに残るために、説明を始めようとしたがユーナは首を横に振った。

「キミと一緒だと、命がいくつあっても足りないんだよ」

「……ごめん、俺もそう思う」

「私も」


 結局、アルトはパーティーから外されてしまった。

 ひとりぼっちになったアルトは、ステロの町を出て王都の方角に一人で歩き出した。

 その時、草むらがゴソゴソと動いた。

「誰だ!?」

 アルトはボロボロの剣を構えると、草むらに向かって歩き出した。


「って、スライム!?」

「ぷるん」

 草むらから現れたスライムは、傷だらけだった。

「なんだ、スライムか。でもお前、傷だらけだな」

「ぷるん」

 スライムは震えている。

「おびえなくても大丈夫だよ。僕も一人だし。傷、直してあげるからおいで」

「ぷるるん」


「ヒール!」

 アルトが右手をスライムに当てて回復呪文を唱えると、スライムは発光した。

 そして、スライムの傷が消えていく。

「ぷるん!」

 スライムはアルトに飛びついた。

「うわ、びっくりした!」


 アルトはスライムをよく見た。

「あれ? 空中に文字が浮かんでる!?」

 そこには<スライム覚醒スキルを付与します>と光る文字で書かれていた。

「スライム覚醒スキル?」

「ぷるん?」

 スライムに右手をのせると、アルトの右手が輝いた。


「覚醒スキルって何だろう? とりあえず、名前を付けてみようかな?」

「ぷるん!」

 アルトはスライムに右手を乗せたまま、宣言してみた。

「命名する。君の名前は、すらすけだ」

 すると、スライムが輝いた。

「ぷるん! すらすけ!」

 

「え!? しゃべれるようになった!? スライムが!?」

 アルトが驚いてすらすけから離れる。

「すらすけ! ぷるん!」

 どうやらすらすけが話せるのは名前だけのようだ。


「お前もひとりぼっちだったよね。一緒に冒険する?」

「ぷるん」

 すらすけの脇に、また光る文字が現れた。

 <すらすけとの間に、友情が芽生えました。友情ポイントが加算されます>


 こうして、アルトと、すらすけの冒険が始まった。


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