第5話 そいつぁ大変じゃ

「ふむ。いやはやなんとも美味じゃの。男は料理が苦手じゃと聞いたのじゃが?」

「今は男女の区別なく生きてくのがふつーなんだぜ」

僕の作った料理を美味しそうに頬張る。

「てか、なぜにいきなり料理作らせたのさ」

「いや、腹が減ってのう。うぬも食うか?」

突然飯を用意せいと厨房らしき部屋にぶちこまれ、慌てて料理を作った。料理自体慣れてはいるが、冷蔵庫の中身が野菜しかなくて一瞬面食らってしまった。

「食えないって分かっての発言だな。てかなんでここ冷蔵庫あったり水道あったりインフラちゃんとしてんの?確か山奥だよね」

「知らぬ。ふむ、この、なんと言ったか、大根おろし?というものは絶品じゃな」

多幸感に溢れる表情で一心に大根おろしを頬張る妖怪の王(笑)

「そりゃどーも」

「いやなに、その辺の詳しい事情については、そのうち戻ってくるじゃろう批魅に聞いてくれ」

「あれ、狐以外にもここに住んでるやつがいるのか」

「そうじゃ」

へー。

「人間だったりする?」

「いや、狢じゃの」

「ムジナ」

聞き慣れない言葉を反芻する。なんぞそれ。

「まあ姿を見れば何かが分かるじゃろうて」

なんて雑な。

「おっと、忘れておった。白、うぬに料理をさせたのは何も妾が腹を空かしただけではないぞ?ちゃんと貴様に渡すべきものの準備をしておったのじゃ」

「へー。てかてっきり人肉しか食べれないと思ってたけど、普通に野菜食べるんだな」

「本来は人間のみを食したいのじゃがのう。いかんせん今の妾は封印された残滓。あまり生気を取り込みすぎると、胃がもたれるのじゃ」

「封印?」

そういえば最初にあった時に御札みたいなものと縄で縛られてたけど、その後普通に抜け出してたよな。なんか関係があるのかな?

「まあ。その件を話すと、それはもうながーい話になるのでな、またおいおいじゃ」

「へーい」

ごちそうさまでした、とひとしきり僕の料理を(といっても野菜オンリーだけど)を食べ終え、合唱する。

「さてでは、白よ、これを受け取れ」

「・・・・・・・・・」

渡してきたものは、尻尾。恐らく彼女の九つの尻尾の一つであろう。尻尾の先から血が滴り落ちている。

「・・・・・グロい・・・・」

「まあそう言うな。これはうぬにとって必要不可欠なのじゃ」

「・・・・?」

「言ったであろう?妾とうぬは一刻離れれば死ぬ。これはその対策じゃよ」

「いやでもこの尻尾だけ持ってても意味ないのでは?」

「大丈夫じゃ」

受け取った尻尾がピクリと動く。

「それは生きている。まあ精々マフラー代わりに装着しておれ。着心地は保証するぞ?」

「うへぇ〜。なんか生暖かい・・・」

言われた通りに首に巻きつけてみるがなんだか生暖かい。着心地が悪くないのがなんだか癪だ。

「ふむ・・・・・・・」

「どうかしたか?」

突然狐が下を向いて何かを考え始める。何を考えているのだろうか。というか僕にほとんど考える時間くれないくせに自分だけ何か考えるのずるくね?

などとくだらない思考をする。

「・・・・・いな・・・」

「なんて?」

よく聞こえない。

「いや、なんだかエロいなって、うぬ」

「何いってんの?」

何いってんの?

「いやなんだかの、うぬが妾の体の一部分を身につけていると思うと少し興奮してきての」

「ホントに何いってんの?」

「妾もこの感情が異常であるとは理解しておる。婚姻の副作用かの?突然うぬが魅力的というか性的に見えてきたのじゃが」

結婚にそんな恐ろしい副作用あるのか。それは知らなかった。

いやそんな場合じゃなくて。

「なんだかよくわからないけどとりあえず落ち着くのだ、クールダウン」

「ふむ。冷静に考えてみたのじゃがちょっと耐えられそうにないの。すまぬが襲う」

息を荒くして、僕をその場で押し倒す。

腰に衝撃が走るが、今はそれどころではない。

「待て待て待てお願いだから待ってホント」

押しのけようと力を入れるが、当然びくともしない。

「なぜ拒む?もしや想い人がいたりするのか?」

「いやいたら結婚快諾しませんて」

「では、妾の見た目が気に食わぬのか?」

「さっきもいいましたけど見た目に関しては文句は零 −ZERO−です。正直狐みたいな容姿端麗な人と一緒に入れるだけで男の子冥利に尽きますし」

「では、なぜなのじゃ?」

いやなぜって。一番大事な事柄が抜けてるじゃないスカ。

「僕と狐、まだ出会って一日も経ってませんよ?結婚はしましたけど、別に僕まだ貴方のこと何も知らないし、貴方も僕の事を何も知らない。そういう行為は互いに深く知って、愛し合ってからするものだと思うのですが」

「そうなのか。確かにうぬの気持ちをないがしろにするのは今後の為にも得策とは言えぬの」

ふう。なんとか理解してもらえてよかった。

「じゃあの、どいていただけません?」

しかしなぜかまったく僕を押さえつける力は弱まらない。

「じゃがの、妾のこの気持ちもないがしろにしないで欲しいのじゃ。まぐあいとまでは行かずとも、妾のこの気持を鎮める代替案を提示せねば、残念ながらこの手を離すわけには行かぬな」

「えー」

「というか、白よ。正直もう後数秒もこの疼きを抑えられる気がせぬ。なるべくはよう頼むぞ」

「えーーーー」

難題がすぎる。

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