第4話 ここから入れる保険があるんですか!?

「よし、では白よ、ちこうよれ」

「江戸時代の将軍様以外でそのセリフ言う人初めて見たぜ」

婚姻の儀(舌を噛みちぎる拷問)が終わり次第、彼女、狐の部屋に案内された。

「なんじゃ?嫌か?」

「嫌ではないよーっと」

言われた通り通りにちこうよると、小さな彼女が僕を背後から抱きかかえる形で座る。

「この姿では抱きかかえられぬな」

そう言うと同時に、白の体が紫色の光に包まれる。

「これでよし」

「いやどういうことだよ」

先程までの巫女服姿の美少女から、古風な着物を纏った美人さんに変身した。齢が十歳ぐらい変わっているという事に驚くべきだが、それよりも彼女の背中の九つの巨大な尻尾に目が行く。

「ふむ、お姉さんは好みではないのか?」

「好みだけどさーーちゃうんよ。ツッコミどころ多いねん」

エセ関西弁が出てしまうくらいには、色々とおかしなところがある。

「まずそのモフモフな背中の尻尾。なんだってそんな素晴らしいものが突然生えてくるのだ。けしからんな」

九つの尻尾に触れようとするが、体がガッチリホールドされて動けない。

力強すぎないか。鍛えてはいないけれど一応男で高校生なんだけどなー。

「狐って名前で察しがつくじゃろて。妾は妖怪の王、いや便利屋といった方が良いかの?まあ、あれじゃ、九尾ってやつじゃ。一度は聞いたことあるじゃろ?」

「そりゃありますけど」

なるほど、妖怪の王か。

「妖怪の王といったらぬらりひょんが出てくるけど、実際は九尾が王なのか?」

「結構前にあの老いぼれがもう限界じゃと妾に泣きついてきての、しょうがなく引き受けてやったのじゃ。王といっても、やることは妖怪どもの世話なのじゃがな、これがなかなかにしんどいのじゃ」

そういう彼女の顔は、疲労感でいっぱいだった。ほんとに大変なんすね。

僕を抱きまくらのように抱く彼女の力が一層増す。

「ん?というか最初にあったとき封印みたいなのされてたよね。あれはどういうことなの?」

「あー。まー話すと長くなるから、またそのうち話すさ。それよりも白よ、貴様に言うておく事がいくつかある。心して聞けー」

「なんでございますか」

「1つ目。貴様は妾と婚姻を結んだことによって人間ではなくなった」

え。

「じゃあ何になったの」

「相変わらず反応薄いの。というかもはや無いの。もうちっと驚いたり悲しんだりせい」

「いやーまあ元々人間でいることに拘りはないし、別にいいかなって」

そもそも嫌いだしね、ニンゲン。

「変わっとるのう。うぬは人間ではなく、ある意味では妖怪、ある意味では死者。そういった貴様ら人間で言うところの非科学的な存在というものになったのじゃ」

「何か変わった事で起きるメリットデメリットってあるの?」

「んー。妾も実際に見たことがあるわけではないからのう、はっきりとは言えぬが、不味くなるらしい」

不味くなる、って何が?まさか僕の体の味が悪くなるとかなのかな?

「いや、貴様が口にするものすべてじゃ」

「最大のデメリットじゃん」

初手デメリットじゃん。三大欲求の一つ早速潰されたよおい。

「え、ということは僕何も食べられなくなるの?まさか食欲もなくなったり・・・?」

「いや、食欲は変わらぬし、何かを食べなければ死ぬ」

なるほど。それは良かった。

嫌良くなくね?食べるもの全部不味くなるけど食欲あって喰わなきゃ死ぬって最悪じゃん。

「ちゃんとまともに食えるものはある。安心せい」

「えーなんか人肉とかだったりする感じ?」

「そんな物騒なものではない」

あんたその物騒なものさっき食べてたけどね。

「じゃあ何?」

「妾由来の物じゃ」

ほう。

「具体的には?」

「汗とか涙とか、あと唾液とか髪の毛、尻尾の毛、その他諸々じゃ」

「ハウスダストかなにかかよ僕は」

出されたメニューが、微生物以外のすべての生命体が好まないものばかりなので、流石に動揺する。

「一応妾が一度口に含んだものを移せば、つまり口移しをすれば固形の物も食えなくはないぞ」

「いよいよ僕の人権が危ぶまれてくるね」

畜生の子供への餌付けのそれじゃないか。

「ま、一回食えば一週間は腹は減らぬ。そう慌てるほどのものではないよ」

確かに、キス(鮮血)した後に、先程まで感じていた空腹感は消えた。

消えたが、しかし与えられた食事の機会の少なさに絶望する。

「はあ。まあ分かりましたよ・・・・」

「お、ようやく貴様のしょぼくれた顔が見れた。愉快愉快」

カッカッカと笑う。趣味が悪い。

「しかしじゃな。まだあと二つこういう類の事があるのじゃが、それはこんなことより比べ物にならんぐらいやばいぞ」

「これより上がある事に絶望以外覚えられないんだけど」

僕の体どうなっちゃったんだよ。というか、そういう条件があるなら予め言ってほしかった。まあ婚姻を断りはしないが、予め覚悟を決める時間ぐらいはやはり欲しい。

「二つ。うぬと妾が一刻以上の時間離れれば、互いに焼け死ぬ。共に地獄行きじゃ」

「ふむ。で、三つ目は?」

「本当にリアクション薄いな、白よ。恐ろしいものに恐ろしいと思えねば長生きできぬぞ」


確かに。実際思えなくて喰われてこうなったんだから説得力が違う。


「三つ目はのう、これは複雑なのじゃが、うぬには教えられんのじゃ」

「と、言うと?」

教えられないとは、どういう意味合いなのか。条件か、過程か、結果か。

「妾が破れば死ぬ禁であり、同時にうぬも死ぬ。しかしその条件は妾のみにしか教えられぬ、そういった条件じゃ」

「なるほど。ちなみにその条件て簡単に破れちゃう感じ?」

「いや、複雑な作業を経ねば達成できぬ。偶然では起こり得ない。だから正直気にしなくても良い」

「理解した。にしてもなんで結婚するだけなのにそんな条件あるの?」

「アヤカシ者にも色々あるのじゃ」

「なるほどねー」

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