最終話
れいこは今日も放課後、自室ですみれと戯れる。
その日の気分で色々戯れる。一緒にお茶をする日もあれば、激しく求めあう日もある。
なんて、素晴らしい日々だろうか。
これが人間らしい生活だ。
天使になれなかったし悪魔にもなれなかった。
どちらも経験してきたけど、結局最後に愛を得たのは人間の生活だった。
本当の愛を知った。
すみれがれいこの全て。
れいこはすみれに話しかける。
「すみれちゃん、私のことが好き?」
「はい!好きです!!」
「どういうところが好き?」
愚問をしては幸せに浸る。
・・・はずであった。
「れいこさんは、私の言うこと何でも聞いてくれるから好きです!」
「そうね。私、すみれちゃんの言うこと何でもしてあげるものね。」
そこで、れいこは少し違和感を覚えた。
何か変だ。
「れいこさんは、私の悦んでくれること何でもしてくれるのです!私がお願いしたられいこさんは、何でもしてくれるんです!!」
「え・・・?」
おかしい。
何かがおかしい。
「れいこさん、大好き。」
れいこは震えだす。
「すみれちゃん・・・貴女、さっき・・・私になんて言った?」
「・・・?大好きって言いました。」
「違う!!その前よ!!」
「れいこさんは私の悦ぶことを何でもしてくれる。お願いしたら何でもしてくれる・・・ですか?」
「・・・!?」
何を言っているの、すみれは何を言っている?
すみれは気が付いていない。
だが、おかしい。
れいこはずっと、すみれに「しなさい。」と言っては、すみれを何でも思う通りにさせていた。それがれいこにとって嬉しかったし悦びだった。
すみれはずっと、れいこに「させてください。」と言っては、れいこに懇願していた。それがすみれにとって嬉しいことであり悦びだった。
違う。
おかしい。
「私が・・・すみれに何でもしてあげている?私が・・・すみれのお願いを聞いている?私が・・・させてもらっている・・・?」
「れいこさん・・・?」
すみれはれいこに触れようとした。
だが、恐ろしくなって、すみれが恐ろしくなって、れいこは彼女を突き飛ばした。
「来ないで・・・!!」
悪魔・・・。
れいこは思い出す。
なおは何と言っていたか、ゆりは何と言っていたか。
食われている。
悪魔に食われている。
「悪魔・・・。」
「え!?れいこさん・・・私の事、嫌いになったのですか?私のこと捨ててしまうのですか?」
すみれはれいこを上目遣いで見てくる。
何よりもれいこが愛してやまない、すみれ。
れいこに愛を与えてくれた、すみれ。
すみれ!すみれ!!すみれ!!!
れいこは、すみれなしでは・・・もう生きられない。
「好き、大好き、愛してる。」
「よかった!!」
「私、すみれちゃんのために何でもする。すみれちゃんに捨てられないように何でもする。」
自分は何を言っているのだ。
言っては駄目。引き返さないと駄目。彼女を今すぐ引き離さなければ駄目。
じゃないと、れいこはれいこでなくなってしまう。
懇願する?
そんなこと今までしたことがない。
れいこがれいこでいられた、ゆるぎない自信。
天使であるという自尊心、悪魔であるという自尊心。
「あれ・・・私、どちらでもなくなってる。」
「れいこさん、お願いです!脱いでください。私のために脱いでください。私、れいこさんとしたい!一緒にしたい!!」
れいこは、愕然として何も言えない。
いや、言ってはいけない。
でも、言わないと捨てられる。
「え、えぇ・・・脱ぐわ。すみれちゃんのために脱ぐ。だから・・・私を捨てないで。」
れいこはそう言うと自ら服を脱ぎだした。
すみれは悪魔かもしれない。
あぁ、私はあの時の罰を受けるのだわ。
でもおかしいの、私、罰を受けるのに嬉しい・・・。
初めて知ったわ。
これが、愛なのね!!
迷いはない。
「惨めね・・・。れいこ。」
「笑いなさいよ。」
全てを悟った、ゆりとれいこは裏庭で話す。
「貴女、人間になってしまった。私が憧れたれいこは、誰よりも自信に満ちあふれて他の人を寄せ付けない孤高のれいこ。プライドが誰よりも高くて高潔なれいこ。天使の時も悪魔の時も、貴女はそれによって成り立っていた。貴女が貴女であった証。」
「笑いなさいよ。」
「貴女、人間になってしまった!!私が・・・みんなが憧れたれいこはどこにいるの!?れいこ、貴女は今までの自分を捨てたの!?天使のれいこはどこ!?この際、貴女が自分を失わなければ悪魔でもいい!!それだったら、私が天使に戻せるから!!」
「笑いなさいよ。」
「笑えるものですか!!私のれいこはどこ!?」
れいこは俯いたまま。
「れいこ!!れいこ!!」
ゆりに何度も呼ばれ、れいこはぽつりと呟く。
「罰・・・。罰なのよ。私が悪に染まった罰だわ。みんなに酷いことをした罰だわ。悪魔にも天使にもなれない。人間になったから罰が待ってる。」
「罰・・・ですって?それなら、今すぐあの子を捨てて!あの子は悪魔よ!!だから罰せられているの、あの子さえいなくなれば!!貴女は、何も悪くない!!貴女は、あんなに!あんなに!!」
「もう言わないで。無理なの、離れられない。それも罰。私、あの子から離れられない。離したくない。捨てられたくない。」
「れいこ・・・?」
「こんな仕打ちにあっても、私、あの子から離れられない。私、ずっと罰を背負っていく。死ぬまで、罰を背負っていく。悪魔がずっとついてくるの。私、神様に・・・みんなに赦されないことをした。罰だわ・・・。でも、不思議なことに罰を喜んで受け入れているの。」
もう彼女に何を言っても無駄だ。
でも、自分だけは彼女を愛したい。
何を言われても。どうしても、見捨てられない。
「れいこ・・・最後のお願い。私の前では弱いれいこでいてもいい。でも、せめて他の人の前では、いつものれいこを保って。」
「・・・自信はないけれど、できるだけは・・・やってみる。」
そして、ゆりはれいこが去る間際に彼女にロザリオを渡す。
「これ、持っていて。少しでも、神様に近づけるように。赦されるように。」
れいこはそのロザリオを持とうとしたが、しばらく躊躇った後にスッと手を離した。
「いらない。それを持っていると、すみれちゃんが嫌がるから。」
「れいこ・・・。」
「それはやっぱり、ゆりが持っていて。綺麗な思い出、私が私でいられた思い出として。ありがとう、ゆり。いつも心配してくれて。私、貴女の言うことを聞いておけばよかったのかしら。もっと早く、貴女に懺悔するべきだったのかしら。もしかしたら、二人で戻れたのかしら。私は本当に・・・。」
「れいこ、お願い。お願い。」
「れいこさん!!」
れいこを探していたすみれが彼女を見つけて駆け寄ってきた。
れいこは微笑むと、すみれを抱きしめる。
「れいこさん探したのですよ!!れいこさん、遊びましょう!!私と遊んで!!」
「えぇ、えぇ。遊びましょうね。私、すみれちゃんのためなら何でもする。だから・・・絶対私を捨てないで。」
ゆりは、れいこの惨めで哀れな姿をみて泣き崩れる。
悪魔は愛を知って罰を受ける。
一生、罰を受ける。
一生、悪魔がついてくる。
「さようなら、私。さようなら、辛い思い出。さようなら、輝かしい日々。」
「れいこさん・・・?」
「さようなら、悪。待っていて、罰。」
「悪」と「罰」 夏目綾 @bestia_0305
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