第37話
「すみれちゃん、ずっと一緒にいようね。」
「はい!れいこさん!」
二人何も纏わずベッドで寝ている。何をするでもない。
れいこはすみれの頭をずっと撫でている。
その行為に一切偽りはない。
れいこは歌い出した。
誰よりも透き通る美しい声で。
「主よ 御許みもとに 近づかん
昇のぼる道は 十字架に
ありともなど 悲しむべき
主よ 御許に 近づかん」
「れいこさん!私も歌えます!」
二人は一緒に歌う。
“さすらう間に 日は暮れ
石の上の 仮寝かりねの
夢にもなお 天あめを望み
主よ 御許に 近づかん”
れいこは歌う。
神や天使を讃美する。
こんな幸せ、誰も知らないだろう。
れいこは窓の外を見つめる。
星々が輝く、見守っている。
こんな美しい夜、誰も知らないだろう。
れいこはすみれを見つめる。
何と愛くるしいことか。
こんな愛、誰も知らないだろう。
「私とすみれちゃんだけが知っている。二人だけ。」
「れいこさん、私、沢山れいこさんとの思い出があります。踊ってと言ってくださったこと。ケーキを食べたこと。助けてくれたこと。れいこさんの香りに包まれたこと。れいこさんを嫌いになったこと。れいこさんがそれでもそれでも許してくれたこと。愛を教えてくれたこと。きっと、私とれいこさんだけが知っている。」
「沢山あった。私、沢山の嫌な目にあってきた。貴女もきっと沢山の嫌な目にあってきた。どうしてかしら?どうして二人はそんな目にあってきたのかしらね。それは人間だからだったのね。でも、人間だから乗り越えられるのね。」
「れいこさんの言うことはいつも難しくて分かりません。でもれいこさんはいつも正しいから。きっとそうなのです。」
れいこはすみれにキスをする。
それは、甘い。溶けるように甘い。
すみれは甘いものが好きだった。
甘いケーキ、甘い紅茶、甘いれいこ。
どれも好きだ。
どれか選べと言われたら、絶対に甘いれいこがいい。ずっと甘いれいこといたい。
誰にもあげない。
ケーキみたいに分けることなんてしない。
誰にもあげない。
絶対に独り占めにする。
誰にもあげるものか。
れいこは・・・絶対にあげない。
れいこを奪う奴は、業火の炎に焼かれればいい。地獄に引きずり込んでやる。
「れいこさんは私のもの。」
あれから、れいこはおかしくなってしまった。
いや、れいこ自身は幸せに満ちているのだ。
それでいいのだ。
れいこはすみれに、いつも通り言っていた。
キスしたいのね、じゃあしてよ。触ってほしいのね、じゃあしてよ。いい子。
だが、少しおかしい。
その異変に気づいたのは、ゆりである。
あれから、れいことは距離を置いていた。彼女をこれ以上追い詰めたくないからと。
でも、おかしい。
あんなに壊すと言っていたすみれを壊さない。
それどころか、見たことのない表情ですみれに優しく接する。
れいこはもちろん昔、ゆりにも優しかった。だから、憧れていた。
気高く、清らかな誰も寄せ付けないれいこ。孤高のれいこ。
でも、今は少しおかしい。
それもこれも、あの悪魔のせいなのか?
「私、れいこを助けなければならない。取り返しがつかなくなる前に。何と言われても構わない。れいこの苦しむ姿は見たくない。」
ゆりはすみれを呼び出した。
教会に。
「ガブリエル様?どうなさったのですか?」
「悪魔・・・。れいこの前から消えなさい!悪魔!!」
ゆりは、れいこがくれたロザリオをすみれにかざした。
「それは・・・れいこさんが持っていた。」
「れいこのロザリオよ。れいこが私にくれたの。お揃いなのよ。私たちの関係は貴女よりも強い。沢山の清らかな思い出があるのよ!見なさいよ!私たちの十字架を見なさいよ、悪魔!!」
そう言ってすみれに向ける。
「やめて!そんなもの向けないで、れいこさんとの思い出は私だけが持っているの。やめて、近寄らないで!そんなもの見たくない!!」
すみれは、近くにあった聖書をゆりに投げつけた。
するとロザリオはゆりの手から滑り落ちる。
「聖書もいらない、ロザリオがない貴女なんて怖くない。れいこさんは、渡さない。絶対にお前になんかに渡さない!!れいこさんを奪う奴は地獄に落としてやる。」
「悪魔・・・!!」
「ゆり、何をしているの?」
「れいこ!?」
「れいこさん!!」
そこにはれいこが立っていた。
れいこは別に怒るでもなく、すみれの手を取る。
ゆりの手などもう取らない。
「ゆり、私は貴女のことが好き。だから、もうこれ以上私たちの間に入らないで。貴女を嫌いになりたくない。」
「れいこ、戻ってきて!今なら間に合う!」
「間に合わなくて結構。行きましょう、すみれちゃん。」
れいこはすみれを見て微笑む。
すみれもまた微笑んでいた。
「すみれちゃん、今日は何をしようか?何をしてほしい?何でも言ってね。」
「れいこさん!私、れいこさんにしてほしいこと、沢山あるんです!!」
「私、何でもするわ。貴女が喜ぶなら。」
二人の会話を聞いて、ゆりはあることに気づく。
「れいこ・・・いけない。貴女、気づいてないの!?」
「気づく?何を?」
「れいこさん、行きましょう。」
れいこはすみれに手を引っ張られたので、そのまま教会を後にした。
ゆりの話なんて聞かないで。
「れいこ・・・貴女、人間になってしまっては駄目!罰を受けてしまう!あの子に食われる!!」
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