第27話

それから、すみれはなおの言いなりになっていた。

すみれは、なおのことは好きだ。なぜなら何度も助けてくれる。だから大好きだ。

しかし、なぜか最近それが疑問に思ってくる。

なおがすみれをキスする度、激しく抱く度。

その度に彼女は執拗にすみれに言うのだ。


「すみれ、何も考えないで。私が言うこと以外は何もしないで。貴女は馬鹿なの。自分の考えたことをするなんて決して許さない。」


そして、洗脳されたように思うのだ。


私は馬鹿だから許されないのだわ。

と。


最初はそのまま従っていた。だが、冷静になればなるほどそれは疑問に満ちてくる。

その言葉に嫌悪感すら覚えてくる。

そして、その度に思い出すのはれいこの言葉と笑顔。


自分に微笑んでくれるれいこ。

優しくしてくれるれいこ。

何でも許してくれたれいこ。

何より、誰よりも綺麗なれいこ。


「私、最後にれいこさんになんて言ったけ。」

思い出したくないはずなのに、すみれは一生懸命にその時の記憶を呼び戻す。


「そっか・・・私、綺麗なれいこさんなんていないって言ったんだっけ。悪魔って言ったんだっけ。」


すみれは鏡で自分の顔と手を見る。

自分にそんなことが言える権利があるのだろうか。

すみれは思い出す。れいことの日々を。


一緒にケーキを食べたわ。

一緒に書類を運んでくれたわ。

お部屋に入ってれいこさんの香りに包まれたの。

制服も貸してくださったのよ。

髪を乾かしてくれたの。

馬鹿な私によ!?

私、全てそれをれいこさんに許されていたのね。

それなのに私はれいこさんを許さなかったのね。


「私、どうしてれいこさんに酷いこと言ったのだろう。私の方が酷いことをしたのだわ。」


れいこさん、あの時ずっと私になんて言ってたっけ。


そうか、一緒に踊りましょうって。

言ってたのね。


「すみれ、何を考えているの?」

なおがじっと睨んで恐ろしい声で言ったのですみれは、ハッとして現実に戻る。

「え・・・?な、何も・・・。」

「考えないで。許さない。踊るなんてもう二度と考えないで。」


れいこさん、あの時ずっと私になんて言ってたっけ。


どれだけ酷いことをされたか。どれだけ彼女に裏切られたか。

しかしなぜかすみれの頭の中には、れいこの笑顔と言葉だけが鮮明に残っていた。

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