第28話

「私、初めて自分の意志を持ってするわ!!大丈夫、私は馬鹿ではないの。私、れいこさんの元へ行くわ!もう、引けない。何をされても受け入れるわ。馬鹿でいるより、なおに許されないより・・・私、れいこさんに許されたいの・・・。」


あれからすみれは何度も何度も考えた。


許してくれない大好きななお。

許してくれていた大好きなれいこ。


すみれは意を決して、部屋を出る。

これはただ部屋を抜け出すだけではない。なおから抜け出すのだ。馬鹿な自分から抜け出すのだ。


さよなら、何もできない馬鹿な自分。


そしてすみれは一心不乱に走り、れいこの部屋へとやって来た。

何もなかった頃のように、すみれはドアをノックする。


あの時この後、私は酷い目にあったのだわ。れいこさんが怖くて仕方なかった。

でも、今は捨てられるのが怖い。許してくれなくなるのが怖い。


すみれを許し続けてくれた唯一の人物は、れいこだった。

すみれは涙をためながらドアをノックし続けた。


「うるさいわね。誰よ。」

れいこが不機嫌そうな声で、そしてこれまた不機嫌そうな表情で出てきた。

「れいこさん・・・。」

そこにはすみれが泣きそうな顔で立っていた。

すみれを見た瞬間、その表情は一層曇る。

あれほど、自分を蔑んだすみれがなぜここに来るのか。

また見下されるのだろうか。


「すみれちゃん、私、何とかして貴女を手に入れたいの。それは変わってないけれど。今はそんな気分に全くなれないの。今は顔も見たくない。出て行って。」

れいこはドアを閉めようとする。

しかし、ドアを力ずくで閉めるのをすみれは阻止した。

並々ならぬ決意があるらしい。このようなすみれを見るのは初めてかもしれない。

だが、れいことてあの屈辱を忘れたわけではない。絶対にすみれを部屋に入れさせたくはなかった。

「帰って頂戴。」

「嫌です、れいこさんに許してもらうまで帰りません。」

「今はさよならよ、すみれちゃん。」


今度こそドアを閉めて追い出してしまおう。

彼女がした仕打ちを今は忘れることができない。この完璧で今まで失敗などしたことのないれいこを敗北へと追いやったのだ。今は彼女の一挙一動にれいこは苛立ちを感じていた。


「れいこさん!!待って!!」

「・・・!?」


れいこは目を見開いた。

一瞬、何が起きたのかわからなかった。が次第に冷静になってきて目の前の視界がはっきりしてくる。

れいこの唇にすみれの唇が触れている。食らいつくように彼女は必死にれいこにキスをしていた。

「・・・んっ・・・。れいこさん、もっとします。もっとさせてください。許されるまで、ずっとします。私、私・・・!!」


一体彼女の身に何が起きていたのか。姿を消した数日、何が起こったのか。

いくら、先を読むのが得意なれいこもこればかりは思考が追い付かない。

片目を細めてすみれ見ていると、彼女は信じがたい行動に出た。

いきなり制服に手をかけて脱ぎ始めようとしたのだ。自分で以前脱がしておいたが、れいこは困り果ててしまい、ひとまずすみれを部屋の中へ押しやった。


「貴女、何をするつもりなの?私、そう簡単には許したくないのだけれど。」

すると、すみれは先ほどまで泣き顔だったが今度は意志を持った表情でれいこを見る。

そして、また服を脱ぎ始めた。

「だから、何をしているのよ?貴女、あんなに嫌がっていたじゃない。」

「なおは絶対だと思っていました。なおはずっと私を助けてくれるから。だから私は何度もなおに全て許してきたのです。キスも身体も・・・もっと酷いことも。でも、なおは結局、私を許してくれませんでした。私は、最初から何をしても許されなかったのです。だから、私は思いました。私は馬鹿でどうしようもなくって、だからなおに怒られるし許してくれないんだって。」

「すみれちゃん・・・?」

「でも、私、許されたい。本当は許されたいのです。れいこさんはいつもおっしゃっていました。“貴女は私に許されているのだから”って。あの時、私はれいこさんを決して許しませんでした。でも、こんな私をずっと許してくれていたのはれいこさんでした。私は、結局なおと同じことを大好きなれいこさんにしていたのです。ごめんなさい。ごめんなさい。」

「・・・・・・。」

すみれの言うことは分かるようで分からない。自分だけが納得していることを言うから客観的に見ることができない。

ただ、彼女はれいこに許しを乞うているらしい。それだけは分かった。

そう考えていると、すみれはまた服を脱ぎ始める。

この行為もまたれいこには分からない。


「ねぇ、だから貴女は何がしたいの?」

全ての服を脱ぎ捨てるとすみれはこう言った。

「私、れいこさんに全てを見せたいのです。私の全部。これで信頼してくれますか?」

なおもれいこが黙っていると、今度はすみれがれいこに跪きだす。そして彼女の足に、そっとキスをした。

「・・・!?」

そしてすみれはれいこを見つめる。

それは、れいこがずっとそそられていたあの目だ。


「お願いです。許してください。」


れいこは目を見開くと両手で手を抑える。そして、歓喜に打ち震えてきた。

「すみれちゃん、立って。」

すみれを引っ張って立たせると、彼女の顎を撫でるように触る。


「すみれちゃん、私のところに戻ってきたの?」

すみれは何度も頷く。


「すみれちゃん、私のことが好きなの?」

すみれは涙をためながら何度も頷く。


「すみれちゃん、私が貴女に何をしてもいいの?」

「してください。それでも私はれいこさんと一緒にいたい。あの日々のように。忘れようとしても忘れられなかった、あの日々のように。」


「来なさい!!」

すみれの顔を強引に引き寄せると、れいこは彼女に口づけた。

深く。

深く。

何度も、舌を入れて、絡ませて。

そして、すみれを抱きしめる。


「・・・勝った・・・。」

「れいこさん・・・?」

れいこはすみれを力強く抱きしめながら震えだす。

そして、天井を見上げて笑いだした。


「勝った!勝った!!勝った!!!私の勝ち!私の勝ちだわ!!」

すみれはれいこの想いは一かけらも理解していなかったが、抱きしめられたのが嬉しくて自分からもぎゅっと抱きしめ返した。


「いい気味ね!荒牧なお!!私が哀れですって?お前が哀れよ!!はははっ!!私は全てを手に入れることができる!!勝者なのよ!!!」


そして、れいこはすみれにもう一度口づける。

もっと深く。

もっともっと深く。

このまま息が途絶えて永遠に眠りから覚めないような口づけ。


れいこはその日、勝者となった。

それがひと時のものとは知らずに。

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