第26話

ゆりの部屋。

夜半にドアをノックする音が聞こえたので、ゆりは1人文句を言いながらドアを開けた。

「れいこ!?」

するとそこには憔悴し切ったれいこの姿があった。

唇も切れて。手も少し怪我しているようだ。

「どうしたの!?怪我してるの?」

「飼い犬に手を噛まれた。私、犬飼って苗字なのに笑っちゃう。」

そういうとれいこは、ゆりにもたれかかった。

「寝たい。一緒に寝ていい?」

「え?今からするの?」

「違う、本当に寝たいだけ。疲れちゃった。でも1人で寝るのは嫌。癪なの。」


珍しくれいこの足元がおぼつかないものだから、ゆりは慌てて彼女を抱えるように部屋に招き入れた。

れいこはゆりのベッドに行くとどさりと倒れる。


「ねぇ、本当どうしちゃったの?」

「苛立ちすぎて疲れた。こんなに苛立ったの久しぶりよ。こういう感情ってあまりしないからわからなかったけど、すごく体力使うのね。」

ゆりはため息をつくとれいこの頭を持ち上げると膝の上に乗せた。

そして、頭を撫でる。


「子供扱いはやめて。」

「子供よ。すぐ怒るし我儘だし。かと思ったらすぐテンション上がるし。あと、すぐ泣く。」

「最後は間違いね。私泣いたことないわ。」

「どうだか?」


飼い犬。

あのれいこが苛立つ。

きっとあの子ね。


「あの子、やっぱりやめておきなさいよ。貴女の手に負える相手じゃないわ。嫌な予感がするの。」

「私の手に負えない人間なんていない。」

「じゃあ、私の部屋に来ないでよ。私、あの子で悩む貴女を慰めるなんてしたくないし。私、あの子嫌いだし。」

れいこはゆりをひと睨みしたが、それ以上噛み付くことはしなかった。

そして、眠りにつく。


「どうして、こうなっちゃったのかしらね。」


ゆりがれいこを撫でながら言うと、暫く静まり返った後、れいこが呟いた。

どうやらまだ眠っていなかったらしい。


「そんなの私が一番聞きいたわよ。私だって本当はこんなこと・・・。」

「こんなこと?」


れいこの寝息が聞こえ出す。

今度は本当に寝てしまったらしい。

「私、どうしたら貴女を助けられるのかしらね。」

ゆりが窓の外を見ると月が光り輝いていた。

「どうして、こうなっちゃったのかしらね・・・。」


同刻。

すみれとなおの部屋。


「なお、ごめんね。なお、ごめんね。」

すみれとなおはシャワー室に一緒に入ってずっと身体を清め続けた。

すみれは涙をお湯に溶かしながら流す。なおは、彼女を抱きしめながらずっとシャワーを浴びている。


「すみれ、あんたは謝らなくていい。あんな悪魔に酷い目にあって・・・あんたは何も悪くない。悪くない。今回ばかりは責めるべきなのは私の方だわ。すみれを一人で行かせなければよかった。」

「なお、ごめんね。私、やっぱり馬鹿だよね。」

なおはシャワーを浴び続けて濡れている彼女の頬にキスをした。

「そうね・・・。すみれは本当に馬鹿。」

すみれはなおの胸に顔をうずめる。


なおは許してくれるだろうか。馬鹿な自分を。

そういえば、れいこさんは私が何をしても許してくれたっけ。

私は許されていたのに。なのに。


すみれがそんなことを考えていると、なおは彼女の唇に噛みついた。

「ん・・・。」

「すみれ、もう私の前でしか脱がないでよ。話さないでよ。あの人の言いなりにならないでよ。」

「しない、しないわ。もう、なおの前でしか私の身体見せない。なおの前でしか話さないわ。なおの前でしか踊らないわ。」

顔をぐしゃぐしゃにして泣くすみれの言葉になおは満足しない。

「私の前でしか・・・?だめよ、そんなことしたら駄目。貴女は誰の前でも話さないで、踊らないで。私の前でもやめて。貴女は何もできない馬鹿なのだから、ただ脱いで黙って私の言うことをただ聞けばいいの。何もしては駄目。」

「でも、なお・・・私ね、私ね・・・!話さなくてもいい、でも踊るのはやめたくないわ。」

なおはすみれの頬を思い切り叩く。

「すみれ、誰が助けたと思っているの?貴女、誰のおかげで今もいると思っているの?」

「ごめんね、なお。ごめんね。」

「絶対、何もしないで。私は、あんたが意志を持つなんて許さない。何をしていいかは私が全部決める。」


そう言うとなおはもう一度すみれにキスをした。


れいこさんは、なんて言っていたっけ。

自分で考えろって。

許されているって。

一緒に踊りましょうって。

そう言っていた気がする。


あんなに嫌なことされたのに。裏切られたのに。酷いことされたのに。

どうして今、私、れいこさんのこと考えているのだろう。


すみれはなおに強く抱きしめられながら、泣く。

何に対してかは自分でもわからなかった。

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