第54話 獣人の少女と黒龍
レミエルの体調が戻るまではマジークに逗留する事にしたバティン達。
学園で教鞭を取りつつ、気が向いたら冒険者ギルドへ行き簡単な依頼を受ける。という日々を過ごすバティン。
実に普通である。
それをやっているのが悪魔というのが異常なだけだ。
1つの街にこれほど長く居た事は初めての事であった。
最初こそ恐れを抱いていた住民達も、はたから見ると落ち着いており紳士的なバティンに慣れていき、今ではあまり気にされなくなっている。
そんなバティンは今日はクレアと買い物である。
「だいぶ皆さんバティンさん見ても驚かなくなりましたね」
「うむ、それはそれで良い事では無いがな」
確かに悪魔が居ても気にしないというのは些か問題があるように思われる。
「まぁ良いじゃ無いですか。私は嬉しいです―――って何でしょうアレ?」
宿へ戻る途中、クレアが見つけたのは人だかり。
ちょうど街の入り口に近い場所に人が集まっている。
野次馬心が騒ぎ人だからに寄って行くクレアとバティン。
「お願いしますニャ! 助けて欲しいニャ!」
「嬢ちゃん落ち着けって、助けてやりたいのはヤマヤマだけどなぁ」
「つっても、黒龍だろ? 俺らじゃ無理だし、この街にはSランクいねぇしな……」
「しかもSランク単独じゃ無理だろ、国で扱う案件だろコレは」
人だかりの中心に居たのは、クレアと同い年くらいの小柄な少女。
クリっとした大きな目をした可愛らしい顔立ち、口元からは八重歯が尖って目立っている。
それよりも特徴的なのは、短く整えられた青い髪から二つの猫の耳が、そしてお尻からは尻尾が生えている所だろう。
頭の耳は今、彼女の感情を表すかのようにペタンと項垂れている。
「そんな……誰か居ないのかニャ!? 急いで助けて欲しいニャ!!」
どうやら獣人の少女はこの街へ何か助けを求めて来たようだ。
「バティンさん……」
涙目で訴える獣人の少女を見て、クレアはバティンの袖を引っ張る。
「ふむ、事情によっては助けてやれるかも知れぬな」
「そう言ってくれると思ってました! 早速話を聞きましょう!」
人を掻き分けて獣人へと近付くバティン達。
先程彼女から訴えかけられていた男達がバティンに気付いた。
冒険者の彼らはバティンの事を知っている。
「あ、悪夢だ」
「そうか、そういや悪夢がいたな! 良かったな嬢ちゃん、この悪魔なら何とかしてやれるかもしんねぇ」
「待て、我らも事情如何では助けになれぬやもしれぬ」
「あの……もしかしたら力になれるかもしれないので事情を教えてくれませんか?」
クレアが猫耳の少女に優しく話しかける。
「ホントかニャ!? 助けてくれニャ!!」
「わわっ! 落ち着いて下さい!!」
この藁は絶対に離さない! とばかりの力でクレアの腕に縋り付く猫耳少女。
「ふむ、猫よ落ち着くが良い。事情を説明せよ」
「ギニャ!? あ、悪魔ニャ!? こ、殺されるぅ! ウチはもうダメニャ……さようならみんにゃ……ごめんニャ……」
バティンを見た時に彼女の尻尾の毛が逆立ち膨らみ、項垂れていた耳は天を突くように真っ直ぐに伸びた。
本当に猫か驚いたような反応を見せ、クレアの腕を掴んでいた彼女は気絶してしまった。
「あーあ……」
「まぁ初めてはそうなるわな、俺達も似たようなもんだったしよ」
冒険者の男達は懐かしいものを見るような目で気絶した彼女を見た。
「ど、どうしましょうバティンさん……」
「ふむ、とりあえずは我らの宿へ連れて行くとするか」
そう言ってバティンは少女の首を掴み持ち上げる。
まるで狩人に仕留められた野兎が持ち帰られるような様子で立ち去るバティン達を見て、周りの人達は少女を哀れむように視線を送っていた。
―――
「はっ!? あれ? まだ生きてるニャ……?」
「起きたか猫」
「ギャァー!! ゆ、夢じゃなかったニャ! ウチはこれから3枚に卸されて死ぬんだニャ!!」
「あの、落ち着いた下さい」
猫耳の少女は気絶から目覚めて、悪魔がいることに絶望した。
布団を頭から被りガタガタと震えている。
そんな彼女にクレアが事情を説明する。
「な、なるほどニャ……その悪魔はお前の使い魔なんだニャ?」
「あの、全然違うんですけど……」
「違うニャ? お前が呼び出したんだニャ? ならそうなんじゃにゃいのかニャ?」
「猫。我が主でこの娘は我の従者だ。間違えるで無い」
「ギャニャ!? お前は怖いニャ! 喋らないで欲しいニャ!!」
先程までよりはマシだが、バティンが喋ると怯える少女。
事情を飲み込めるまでもう少し時間がかかりそうだ。
騒いでいると隣の部屋で寝ていたレミエルとドゥルガがこちらへやって来た。
「どうしたのだ? 随分と騒がしいが……」
「あ、レミエルさん。身体は大丈夫何ですか?」
「ああ、もう万全だ問題ない」
「どうしたの? 獣人なんて珍しいじゃない」
エルフと同じく、獣人はあまり人の街には居ない。
大抵は山などに集落を作り、そこで生活しているのだ。
「それが、何か助けて欲しい事があるみたいで」
「ふぅん、何かしらね。話してみなさいよ」
「よ、妖精ニャ!? 凄い、初めて見たニャ!」
そしてようやく事情を聞くことが出来た。
どうやら、彼女のいた山の集落の近くに黒龍が巣を作ったようだ。
そのため付近の獲物は皆逃げるか黒龍に殺されてしまったそうで食べる物が無くなってしまったとのこと。
また1番大きな問題は、辺りに食べ物が無くなった黒龍が彼女の集落を襲いに来るのだという。
皆一斉に逃げたので幸い集落での死者は出なかったが、家は焼かれ畑は荒らされもはや壊滅状態。
現在は洞窟に避難しているが、いつまで持つかわからない。
だから、黒龍を退治してくれる人を探しに街へ来たのだと言う。
「黒龍か、厄介だな」
「あ、レミエルさんは知ってるんですか?」
「ああ、以前は聖騎士総出で高位冒険者と一緒に倒した事はある。
奴は頭が良いから罠にもかからず、強い上に危ないと思ったらすぐに逃げるからな、仕留めるのには苦労した」
「大変そうですね」
「だがまぁ黒龍程度、何の問題も無かろう」
そう言ってレミエルはバティンを見る。
クレアも同意して頷きながら「そうですね」と相槌をうつ。
「じゃあ退治してくれるのかニャ!?」
「多分大丈夫だと思いますよ。ねぇバティンさん?」
「うむ、良かろう」
「あ、ありがとうニャ!! お前良い悪魔だニャ!!」
「我は人間の世界の龍は見た事が無いのでな興味はある。それに―――」
「ただいま戻りました―――って皆さんどうしたんですか? あれ? お客さんですか?」
学園からネビルスが戻って来たようだ。
彼は自分の家には戻らず、師であるバティンと一緒に行動している。
「小僧の修行の成果を試す良い機会である」
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