第53話 修行の禁止

「う……ここは?」

「起きたかレミエル」


 レミエルが目を覚ましたのは知らないベットの上だった。

 頭が痛く、身体中も思うように動かない。

 その重い身体を起こして、部屋に居たアズラーに話し掛ける。


「アズラー様、此処は何処です? そして、私はどうなったのですか? あの兵器は?」

「まぁ、待て。そろそろあの悪魔達も帰ってくるだろう」


 うっすらとだが記憶に残っている。

 魔力を高め解放し、気分が高揚して―――


「あ、レミエルさん起きたんですね。良かった」


 部屋のドアが開き、クレアが帰ってきた。

 そして自慢の鞄から色々買ってきた物を取り出している。


「クレア殿……」

「全然起きないから心配したんですよ。バティンさんは大丈夫だって言ってたんですけど」

「少し頭痛がして身体が重いが問題無い。とりあえず此処はどこなのだ?」

「此処はマジークの宿屋ですよ。レミエルさん、5年も寝てたんですよ」

「5年!?」

「冗談です。1週間程です」


 何で今そんな冗談を言うのかと思ったが、1週間でもかなり寝込んで居たという事か。どうりで身体が痛いワケだ。


「そんなにか……それであの兵器はどうなった?」

「レミエルさん覚えて無いんですか?」

「薄らとだが、何となく……だが確信が持てない。私があの兵器を破壊したのだな?」

「はい。あの時のレミエルさん凄かったですよ」

「そして……暴走したのだな? 止めたのはバティン殿というところか」

「まぁ、その辺りはドゥルガさんが話があるようなので帰ってくるのを待ちましょう。今日もバティンさん学園で先生やってますので、それにネビルス君とドゥルガさんもついて行ってます」


 そうか、あの恐ろしい兵器を私が倒せたのか。とレミエルは感動を覚えたが、記憶が曖昧であった。しかも暴走していたと言うのだから力の制御が甘過ぎるとも感じていた。

 制御の効かない力など何の意味も無い。


「さて、レミエルも起きた事だ。私はパルテナに戻るとしよう。あの悪魔によろしく言っておいてくれ」

「あれ? アズラーさん行っちゃうんですか?」

「ああ、元々学者達の護衛だったがそれも終わりだ。あの遺跡はもっと人が必要だ。

 レミエル、貴様はこのまま悪魔達と同行しパルテナに向かうと良い、王には私から状況は伝えておく」


 アズラーはそう言って部屋を出て行った。

 確かにあの遺跡内部にまたあんな兵器があった場合、少人数ではどうしようも無い。

 ただ、大人数だからといって人間にどうこう出来るものでは無いのだが、あの兵器か復活した理由というのが後から調べた学者によると


『兵器を維持するだけの休眠状態だった部屋は製作者の何らかの波動を感知して稼働状態に自動的に切り替わる仕組みのようだ。恐らく、その波動に似た何かを感知して3,000年振りに稼働状態になったが、古くなっており壊れてしまったのだろう』


 と、推測した。


 それを聞いたクレア達は「ああ、納得だ」と思った。

 製作者と似た波動。

 それを持つ者があの場にいたのだから。


 人間が調査してもそう簡単に復活するものでは無い。

 だが、他にも危険があるかも知れないため少人数での調査は不味いとアズラーは判断したようだ。





 レミエルが目覚めたのは昼過ぎだったが、バティン達が戻ってきたのは夕方になってからだった。


「む、目覚めたか聖騎士」

「良かったですね」

「色々話があるんだけど、まぁご飯食べてからにしましょ」


 夕飯を皆で食べる。

 レミエルは1週間振りの食事のため、肉は胃が受け付けずスープ類だけである。


 そして、食事の後ドゥルガは切り出した。


「レミエル、アンタのあの力は人類を超越しているわ。それはちょっと不味いのよね。パルテナに着いたらアタシについてきて貰いたい所があるわ」

「ドゥルガ様がそう仰るのであれば私は問題ありませんが、一体何処に?」

「まぁそれは後で教えるわ。悪い事じゃないと思うから大丈夫よ」

「ふん、女神は随分と神経質である」


 バティンは何かを知っているようだが、此処では何も言わなかった。

 続けてドゥルガは言う。


「で、それまではあの力を使うのはダメよ。そもそも制御効かないなんて論外ね」


 レミエル自身も痛感していた事を改めて注意された。


「だが使わなければ制御の修練にはならんではないか。修行の成果は上々、これからというところであるのに」

「アンタ、ほんとやってくれたわね……はぁ、ホント信じられないわ。修行は禁止よ禁止」


 バティンは強くなったレミエルに施した修行の成果に満足だったが禁止となると惜しいと考えていた。

 だが、ドゥルガが強く反対し決定打となったのはクレアの反対であった。


 毎回ボロボロになって涙を流す2人を見て、慣れたとは言え少なからず心は痛んでいたのだ。

 クレアにもまだ人の心は残っていた。


 そして、今回の件。

 もしバティンが居なかったらと考えると恐ろしい。

 そのため一時的に修行の禁止は良い事だと思っていた。


「しかし小僧には問題なかろう。聖騎士ほどの修行では無いぞ」


 ネビルスはビクッと体を跳ねさせ固まった。


 魔術を習いたい気持ちは変わらない。

 この数日でも随分と出来る事は増えたし、これからも極めていきたい。

 だが、修行は「もういっそ殺せ!」と言いたくなるほど辛いのだ。


 ネビルスはまだ14歳の少年。

 レミエルよりも軽いとは言え、バティンの修行は少年の彼がついていけるものでは無いのだ。


「ダメよ。修行の内容聞いたけど、アンタイカれてるわ。その内この子壊れるわよ。だいたい、コツを教えつつゆっくりやれば良いじゃないのよ」

「せっかく我の弟子であるからには強くしたいでは無いか。それにそれではつまらぬ」


 後半に悪魔の本音が混ざっていたようだが皆スルーした。

 そして、クレアがジト目でバティンを見る。


「そう睨むでない娘……わかっておる」


 まだ残念そうだがバティンは渋々引いた。


 そしてレミエルが起きた事のため次の目的地はどうするかと言う話になる。

 このマジークの隣国はパルテナだ。

 短いようで長い旅もようやく終着点である。


「では、次は勇者に会いに行くとしよう」


 クレアは久しぶりに勇者の単語を聞いた。

 そういえば目的はそれだったな、と思い出した。


 異世界から来た勇者と魔界からきた悪魔が相見える日は近い。

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