見たい知りたい学びたい〜暇を持て余した悪魔の冒険〜

第52話 魔人レミエル

　時は少し戻り遺跡内部。

　レミエルは左腕を無くしながら、迫り来る兵器に集中していた。

　そして、レミエルの中でカチリと何かが切り替わる。

　レミエルの身体から溢れる魔力、それは体外にも視覚化され黒い陽炎が体の周りを揺らめかせる。

「コォォォ……」

「うむ、傷は治してやろう。では再び決するが良い」

　バティンが手をかざすと、無くなったはずの左腕が再生、細かい擦り傷なども完全に治癒された。

　それを見ても兵器は何も感じない、ただ目の前の敵を屠るのみ。

「カァッ！！」

　レミエルが叫びながら翔ぶ。

　以前よりも明らかに疾いその速度は目に映らない程。

　下からの切り上げで兵器の腕が飛び、そしてその斬り返しで脚も斬り落とす。

　先程は何度も同じ所を斬りつけ、奥義を出してやっと切断したが今は無造作に大剣を振るうだけで紙をナイフで切るがごとく簡単にやってのける。

　だが、兵器の斬り付けられた断面から触手が伸び、離れ離れになった手足を再び元の位置へ接着する。

　その間に兵器は無事だった方の腕を横に振る、屈んで避けるレミエル。

　そこへ兵器の目が輝きを放ち、レミエルを見下ろした状態で閃光が放たれる。

　まず普通ならば回避は不可能、今までのレミエルであれば此処で終わっていただろう。しかし、閃光が放たれた時にはレミエルは黒い翼をはためかせ兵器の背後に浮かんでいた。

　その一瞬の動きは、まるであの暗殺者と同じかと思う速度。

　ガラ空きの背中へ蹴りを放つ。兵器は床を陥没させてめり込むが、

　一瞬にして跳び上がりレミエルへ伸びる腕での攻撃。

　だが、最早その程度の攻撃はレミエルにとってなんら脅威では無くなっていた。

　縦横無尽にやってくる鞭のような腕の攻撃を、大剣で簡単に捌きなつつもゆっくりと兵器との距離を詰めていく。

　そして、兵器の頭部へ大剣を振り下ろすレミエル。

　腕を交差させ、その一撃を兵器は防いだ。大剣に片腕は斬り落とされたが、もう片方の腕の半ばで振り下ろされた大剣は止まる。

　その一瞬の硬直を見逃さず兵器の腹部の不気味な口から暗黒の球がレミエルを襲う。

　閃光が剣による斬り付けだとすれば、その暗黒の弾は砲撃。

　その暗黒砲は兵器の腕に大剣が食い込み動きの止まったレミエルを直撃した。

　聖騎士の鎧が破壊される、しかしレミエルの身体へは多少の焦げ跡を残すのみだった。

　砲撃を意に介さず、レミエルは喰い込んだ剣を振り回す。

　兵器は元の部屋へと吹き飛ばされていった。

「ケャァッ！！」

　まるで獣のような叫び声を上げてレミエルは追撃する。

　それを見てバティンはもう問題ないと階段を登って外へと向かっていった。

「まだ洗練が足りぬし、そもそも意識が希薄で暴走気味なのが問題であるな。今後の課題である」

　そして、レミエルの大剣が兵器を貫いたまま天井を破壊して外へと飛び出す。

　それから少し遅れてバティンが遺跡から出てきた。

「バ、バティンさん……あの、アレって……」

「アレ？　ああ、あれは聖騎士であるな」

「あれがレミエル……？　聖騎士というよりまるで―――」

　アズラーは言葉を飲み込む。

　黒い翼を生やし、兵器を貫いた大剣を上に掲げて滴り落ちる緑色の体液を身体に浴びているレミエルは、まるで悪魔である。

「ちょちょちょちょっと！　アンタ、レミエルに何してくれてんの！？」

　ドゥルガが憤慨しながらバティンへ詰め寄る。

　詰め寄られたバティンは何を怒っているのかわからないといった態度で言う。

「何とは？　修行の成果を試しているだけだが？」

「アンタねぇ……レミエルは仮にもアストの加護を受けた人間なのよ？　それを悪魔に魔改造するってどう言うことよ！？」

　まるで悪魔というよりも、悪魔そのものだったらしい。

　クレアはそれを聞いて、成程レミエルさんは悪魔に成ったのかと納得した。

　レミエルは、人でありながらも悪魔の力を身につけた魔人となった。

「魔改造では無い、修行をつけただけである」

「はぁ……もう良いわ。それでどのくらい強くなったのよ？」

「我が片腕で組み手をした際は、我の腕に薄い傷をつける程まで成長したぞ」

「……は？」

　ドゥルガはバティンの言葉に絶句した。

　バティンに傷を付けた？　戦争時、傷一つ負わせることの出来なかったあの絶望に傷を？

　現在はバティンの力は魔道具による封印があるが、それでも人間が出来ちゃいけない領域である。

　ドゥルガが放心していると、空中に浮かんでいるレミエルに動きがあった。

　腕を軽く振るい、貫いたままの兵器を大剣から振り落とし、落下する兵器へ目にも止まらぬ連斬。

　兵器は空中で細切れになって落下していった。

「うわぁ、ミンチになっちゃいました……」

「何という凄まじい力か……もはや人間を超越しているな……」

　アズラーがそう感想を述べた時、ネビルスは気付く。

「あの……レミエルさん師匠の事を見てませんか……？」

「あ、本当ですね。私、何処かでこんな感じを体験したような……」

「ふむ、暴走しておるな」

　バティンが不吉な単語を口にする。

　そしてクレアは思い出す、そういえば最初に出会った時もこんな似たようなシチュエーションだったと。

「ア、アクマハ、センメツスルッ！！」

　レミエルが大剣に魔力を集め始める。

　大剣が闇色に輝きだし、以前バティンが作った呪いの剣を超える禍々しい気配を放つ。

「な、なんか危険な気がしますっ」

「に、逃げた方が良いんじゃ……？」

「もういっそレミエルに斬られて死になさいよアンタ」

　ドゥルガが呆れと共に冷たい事を言う。

　そして、暗黒に輝く大剣を脇に構え、黒い翼でバティンに迫る魔人。

　地上スレスレを滑空するレミエルは、まだ遠い距離からバティンに向けて魔人は黒い大剣を横薙ぎに払う。

　その大剣からは兵器の閃光を超える力をもった飛（・）ぶ（・）斬（・）撃（・）が繰り出された。

　バティンは飛んでくるそれに右手を向ける。

　バティンの右手の前には大きな魔法陣が空中に浮かび、飛んでくる黒い斬撃と衝突する。

　魔法陣は斬撃を吸収するかのように吸い込み、次の瞬間には増幅されて跳ね返され向かってきていたレミエルに直撃。

　そして、遺跡を半分以上巻き込み破壊しながら吹き飛ぶレミエル。

　事が終わった後は、酷い有様だった。

　もはや廃墟のように破壊し尽くされた遺跡、かなり遠くまで地面を抉った跡が続いている。

　カラカラと遺跡の外壁が落ちる音が静寂の空間に響いていた。

「ふむ、次の修行の課題は見つかったのである」

　悪魔は概ね結果に満足していた。