第51話 人間の限界点
ズチャリと濡れた布を踏み締めるような音が近づき、容器から復活した兵器がバティンとレミエルの前に現れる。
閉じていた瞳は開かれているが、深い闇のように全て黒く染まっている。
「まさか本当に動くとは……バティン殿、これを放っておくとどうなる?」
「恐らくではあるが、目につく生物を全て殺そうとしてくるであろうな。確か、当時は味方である悪魔にも攻撃してきたと聞いたな」
「欠陥品ではないか……しかしそれであれば放置など出来ぬな」
レミエルは背中の大剣を前に構えて臨戦態勢をとる。
レミエルの殺気を感じてかどうかはわからないが、兵器もこちらを認識したようだ、身体中の筋肉が膨張し先程よりも一回り大きく見える。
「ちなみに、コレの能力などは知っているだろうか?」
「わからぬ」
「ふっ、まぁやるだけやってみよう」
先手必勝とばかりにレミエルは動き出す。
光の翼を顕現し、真っ直ぐに兵器の胸へ大剣を突き立てる。が、その剣先は小指の爪程度しか入らない。
(堅いっ……! 普通の斬撃は効果が薄いか……」
兵器の右腕が振るわれるが、一足先に察知したレミエルは既に距離をとっている。
空を切った右腕は激しい破壊音と共に遺跡の壁を破壊する。
(防御、攻撃ともに私の遥か上……だが退かぬ)
またしてもレミエルは光の翼の推進力で一閃、今度は脚。
だがそれも薄い痕を残すのみ。
獣じみた動きでレミエルに襲い掛かる兵器。
一撃でも貰えば即終了となるその猛威だが、空中を舞うレミエルを捉える事が出来ない。
隙を見ては大剣を振るうレミエル、しかしこちらも有効的な攻撃は与えられていない。
何度目かの交差、執拗に兵器の脚を斬りつけていたレミエルの努力が少し見え始める。
兵器の脚の部分からほんの少しだけ緑色に淡く輝く液体が馴染んできた。恐らくは兵器の体液が何かだろう。
同じ箇所を寸分の狂いなく攻撃し続け、ようやく、ほんの少しではあるが傷を付ける事が出来た。
(しかし、これだけやってこの程度ではジリ貧だな……仕掛けるか)
レミエルが纏うは聖なる闘気。一層の光を放つ翼は大きく、天使と見間違う程。
「喰らうが良い! 聖光滅殺剣!!」
一条の光の線が走った。
レミエルは大剣を振り抜いた構えて兵器を通り過ぎて止まる。
一拍遅れて、兵器の脚が切断された。
兵器の脚から多くの体液がこぼれ、床を緑に染める。
「ドゥルガ様は下級の神すら凌駕する兵器と仰っていたが、試作型だからか3,000年で故障があったか分からんが、この程度であれば―――」
勝てる。
そう続けようとしたレミエルだが、信じられないものを見る。
兵器が切断した脚を拾って、断面にくっつけると傷が治ったのだ。
兵器のため痛みを感じてる様子はない。
一瞬、動揺したレミエルを見逃さず、今度は兵器が仕掛ける。
彼我の距離は5m程はあったが、兵器が大きく後ろに振りかぶった腕が伸びた。
レミエルは予想していなかった攻撃に慌てて大剣で腕を弾き防御。
だが、兵器の攻撃は止まらない。
鞭のようにしなる両腕での連撃、大概稀な大剣捌きで防戦一方になるレミエル。
大剣の防御をすり抜け、兵器の攻撃がレミエルを肩を掠めた。
それだけで壁に吹き飛ばされる。
(くっ……掠っただけで左肩が折れた……なんという膂力!)
しかし兵器の攻撃はそれで終わらなかった。
深い闇色の目が輝きを放ったと思った瞬間、黒い閃光が迸る。
(これは不味い!!)
その閃光は遺跡の壁を瓦礫が崩れる音と共に破壊する。
その軌跡は先に脱出していたクレア達にも見ることが出来た。
遺跡から黒い閃光が斜め上空に線を描く。
「あ、あれって……」
「物凄い魔力ですよ!? あんなの人が喰らったら間違いなく死にます!」
「あれが神をも殺せる威力を持った攻撃なのよ」
「残ったレミエルとバティンとか言う悪魔は無事なのか……?」
アズラーが内部に残った部下を心配した。
妖精の姿をした女神が言っていた神をも殺せる兵器、そんなものに人間が対抗出来るものなのか……。
「ふむ、随分とやられておるな」
レミエルは黒い閃光の直撃だけは何とか避けて、頼りない速度でフラフラとバティンの前へ戻ってきた。
「問題ない……私はまだやれる」
そんな強がりを言うレミエルだが左腕の二の腕から先が無かった。
あの黒い閃光を完全に避けきれなかったのだ。
「強がりを申すな。これでわかったであろう? 闘気だけではこの辺りが限界である」
「くっ……悔しいがそのようだ」
レミエルは既に闘える状態ではない。
そして、兵器はまだ生きているレミエルとバティンを殺すべくこちらへ悠然と歩いてくる。
「さて、そろそろ
「……致し方ないか」
何かレミエルへ使うように指示をするバティン。
その間も兵器は着実に此方へと歩いてくる。
―――
「大丈夫なんでしょうかバティンさん達」
「まぁいざとなったらアイツがヤるんじゃない?」
「えっ……でも神様をも殺せる兵器なんでしょう? 師匠も強いですけど、心配です」
「はぁ、アンタまだあの悪魔をわかってないわね。悔しいけどアイツを殺せる存在はいないわよ。そんくらい馬鹿げた―――」
ドゥルガの台詞の途中で、遺跡の上部から壁を破壊して何かが飛び出してきた。
片方はあの容器に入っていた悪魔の兵器、それが黒い剣に貫かれている。
そして、その剣を持つのは黒い翼を生やした女性だった。
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