第50話 古代兵器稼働

 バティンが魔術による封印がされていた扉を開けた。

 重低音を響かせ、自動的に扉が左右に別れる。これだけでも物凄い技術であった。


 身構える聖騎士の2人、だがいきなり何者かが襲いかかってくるなどという心配していた出来事はなく、扉の奥は静まり帰っている。



 部屋内は暗く、ランタンの灯りだけでは今いる位置からは何も見えない。

 皆警戒しつつ様子を見ていたが、バティンはしれっと部屋内へ進む。


「し、師匠!? 危ないですよ!?」

「そうですよバティンさん、罠とかあったらどうするんですか!?」

「無かったではないか」

「それは結果論だそバティン殿」

「むしろ罠にかかっちゃえば面白かったのに」


 数歩部屋内を歩くと、何やら蜂が飛ぶような音が聞こえ部屋内が一気に明るくなる。


「ななな何です!? 部屋が勝手に明るくなりました!」

「何という光……まるで太陽に照らされているかのようだ……」

「こ、これも魔術ですかね……ぼ、僕もいつかこんな事が……」


 クレア達が感動しているが、学者達はもっと狂喜乱舞していた。

 我先にと部屋内に入り、色々見ては、ああでもない、こうでもないと議論を交わしている。


「凄まじいな……悪魔は皆このような技術を持っているのか?」


 アズラーは逆に強い恐怖を覚えた。

 3,000年前の技術でこのような不可思議な事が出来るなど、今現在はどれほどの技術力なのか想像もつかない。

 魔王軍がこのような超常の技術を持って攻めてきたら……と考えると恐ろしくなる。


「ふむ、レヴィアタンという悪魔がいてな。其奴は研究が生き甲斐で様々な魔道具を生み出しておる。

 だが、その技術は広まっておるわけではなく、あくまで個人的な趣味であるな」


 それを聞いて少しは安心したアズラーだが、このバティンといいレヴィアタンという悪魔といい上位の悪魔は一筋縄ではいかない奴等のようだ。と気を引き締めた。


 聖騎士長が決意を新たにしている時、室内を物色していた学者達が何かを発見したようだ。


 それは、3m程の高さの透明な容器。それが緑色の液体で満たされている。

 それだけであればまだ良かったのだが


「あの、中に何か入ってますね……」

「見たところ、悪魔……か?」


 液体の中には成人男性よりも二回り程大きい生物がいた。

 額には真っ直ぐに伸びた角、頭の左右には捻れた角が生えている。

 肩や肘、膝にも硬そうな突起が生えており、身体には黒い線が不規則に走っている。

 また、瞼が閉じられているが眼球は1つであろう。

 バティンのような翼はないが腹部に大きな口のようなものがあり、そこから牙が出ている。


「物凄く強そうな悪魔ですね……しかも生きてませんかコレ?」


 クレアがそう思うのも無理はない。

 容器の中の生物の体中に走っている線が、心臓の鼓動のように一定の間隔で明滅しているのだ。


「ちょっと!? コレ、造魔兵じゃないの!」

「ぞ、造魔兵……? ドゥルガさん知ってるんですか?」

「神魔戦争の時に使われた兵器よ、コレは生物じゃないわ。下級の神じゃ勝てないくらい強いわよ!」

「思い出した。これは全自動殺戮兵器『殲滅君せんめつくん』の試作型であるな」


 君が付いていると少し可愛らしく思えるが、全自動殺戮兵器が全く可愛くないし、見た目も恐ろしい。


「バティン殿、名前は良いのだが……これは動くのか?」

「ふむ……見たところ動きそうではあるが、試してみるか?」

「いやいやいや!! 止めてくれ!」

「そ、そうですよ師匠! こんなの動き出したらみんな死んじゃいます!」

「バティンさん、絶対ダメですよ!? 動かしたら絶対ダメですよ!?」


 前振りのような台詞でバティンが動かそうとするのを止めるクレア達。

 こんな危険な兵器が3,000年も眠っていたとは、とんでもない事であった。

 聖騎士長アズラーは話を聞いて此処に居る事は危険と判断する。


「どうやら危険な物のようだな。一度全員引き上げて、然るべき人員で再調査すべきだろう」

「アズラー様……確かにその通りです」


 まだ論議を交わしている学者達を集め、さぁ引き上げという段階で容器に異変が起こる。

 容器内の液体がゴボゴボと激しく泡立ち始め、兵器の明滅も激しくなる。


「おい……悪魔。貴様、何かしたのか……?」

「我は何もしておらぬぞ」

「な、なんか動き出しそうです……」

「早く全員逃げなさいよ、生き埋めになるわよ!」


 ドゥルガに急かされ、慌てて部屋を出るバティン達。

 ちょうど階段に差し掛かった時に、背後でガラスが割れる音がした。


「不味い、兵器が復活したぞ!?」

「ふむ……これは丁度良いかもしれぬ」

「何がちょうど良いんですかぁ!? 早く逃げましょう!」

「ドゥルガ、貴様は此奴らを外へ出しておくが良い」


 どうやら、バティンは残るようだ。

 まぁバティンであれば何も問題無さそうだが……


「聖騎士、貴様は残れ」

「な、な、なんだと!? バティン殿!?」


 レミエルは残るように言うバティン。

 そして、先程の丁度良い発言から考えられる事。それを察してレミエルは顔を青くした。


「ま、まさかバティン殿……これも修行という事か……?」

「ふむ珍しく察しが良いではないか、殲滅君の相手は貴様がするのだ」


 人類屈指の実力者と神をも屠る兵器。

 その闘いの火蓋が今落ちた。

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