第55話 誰の責任か?
「え? 修行の成果? 一体何のことですか師匠」
帰ってきて早々、わけがわからずバティンが修行の成果を試す機会だと言っている。
恐らくこの獣人の少女に関係しているのだろうが、詳細がわからない。
「また、人が増えたニャ。他にもお前達の仲間はいるのかニャ?」
「今ここにいる者達で全員である」
「そ、そうかニャ。……まだちょっとお前怖いニャ。
遅くなったけど自己紹介するニャ、ウチはシャルトリュー一族のシャムっていうニャ」
そうして、シャムという獣人の少女の頼みを聞き黒龍退治に向かう事になった。
黒龍退治に向かうため、宿を出て街の外に出る途中でネビルスに説明をする。
「いやいやいや、無理ですって! 龍ですよ龍!」
「何も貴様1人でやれとは申さぬ。聖騎士もつけてやろう。だが、あくまで主体は小僧、貴様だ」
「ふむ、今の私であればあの力を使わずとも何とかしてみせよう」
「いや、それでも僕なんかが……」
「倒せとは言わん。出来る事をやってみせてみよ」
「クレア、あの悪魔バティンだったかニャ。あいつは闘わないのかニャ?」
「あはは、バティンさんに闘わせたらもっと酷い事になっちゃいますよ?」
「そ、そうかニャ……やっぱり危ない悪魔だニャ」
「して、猫よ。ここからどの程度の距離だ?」
「ね、猫……まぁいいニャ。あっちに遺跡があるニャ、その向こうの山ニャ」
シャムが言う山はどうやら此処から結構遠いようだ。
とくれば取る手段は1つ。
「急いでいるようだし、飛ぶぞ」
「あ、はい」
「飛ぶ? 何を言ってるニャ? 走って3日くらいニャ、急いで行くニャ!」
シャムは理解していないようだが説明する気はバティンには無い。
バティンはオロオロとしているシャムの首根っこを先程を同じように摘み上げ、クレアを片手で抱える。
「小僧、飛べるようにはなったであろう?」
「は、はい師匠。何とか」
「ではゆっくりで良い、ついてくるが良い。猫よ、案内せよ」
バティン達は飛び立つ。
最初こそ「降ろせ」だの「死ぬ」だの騒いでいたシャムも、高度と速度が上がってくると大人しくなった。
そこそこの速度でマジークを出てから4時間程、目的地の山付近に辿り着く。
ここからは一度地上に降りて洞窟まで行く事にしたバティン達はシャムに案内を促す。
「さてここからは徒歩で行くぞ。黒龍とやらに見つかっても面倒であろう」
「シャムさん、大丈夫ですか?」
「うぅ……酷い目にあったニャ……足が震えて上手く歩けないニャ……」
シャムの回復をしばらく待ち、やっと洞窟まで進む事になったバティン達。
周りは木々が生い茂り、若干薄暗い。
クレアはそんな景色に以前山に入ってキノコを狩った事を思い出す。
あの時は狼だの熊だの色々出てきて大変だった。
そんな思い出があり少し警戒しながら進むが、獣はおろか鳥や小動物の気配すら感じない。
「なんか静かですね。生き物の気配がしないって言うか……」
「黒龍の影響だろうな。私もここまで静かな森は初めてだ」
「僕は山に入るの初めてです……熊とか怖いですね」
「アンタ、熊より怖い奴の弟子じゃない。何言ってんのよ」
しばらく歩くがやはり生物の気配は無い。
確かに狩で生計を立てる獣人にとっては死活問題だろう。
「もうすぐ避難してる洞窟に着くニャ」
獣道を進むと、切り立った崖の所に洞窟が見えてきた。恐らくあれがシャムの言っていた洞窟だろう。
「長老! 帰ってきたニャ!!」
洞窟の前でシャムがそう言うと、穴から年老いた獣人が出てくる。
「おお、シャムよ戻ったか。もしや、そちらの方々は?」
「黒龍を退治してくれるって人ニャ!」
「おお! おお! そうか、有難い……しかしシャムよ、儂の目がおかしくなったのだろうか、悪魔が見えるのじゃが……」
「えっと……クレア頼んだニャ」
「……ですよね」
代表としてクレアが掻い摘んで説明をする。
だいたい説明する役目はクレアが担っている。
ネビルスは仲間になって日が浅く話下手なところがあるし、レミエルは「当然わかるだろう?」と決め付けて話をするし、ドゥルガはそもそも驚かれる立場で向いていない。
何度も説明するうちにだんだんと要点をまとめて伝える技術が上手くなったクレア。
バティンとの旅で成長した部分である。
「な、なるほど……儂にはよく分かりませぬが、人の世も変わったのですなぁ……」
「いえ、まぁちょっとこの人?は特殊なんです」
「ウチは聞いてもよく分からないからどうでも良いニャ。とりあえずあの黒龍を退治してくれるって言うから信用したニャ」
ちょっとシャムの今後が心配にはなるが、それはそれ。
とにかく黒龍の情報を長老から聞き出す事にしたバティン達。
「あの黒龍は10日程前に突然現れましてな、どうも怒りに満ちているようでした。
貴方がたも知っていると思いますが人が調べております遺跡がありましょう? あの辺りから大きな破壊の力が山まで来ましてな、丁度その直後に黒龍が現れたのですじゃ」
あれ? ちょっと嫌な予感がする……
まさかとは思うが、関係があるのか? とクレアは冷や汗が出てきた。
「我らも調査をしましてな、どうやらあの衝撃は黒龍の巣を破壊したようです。
遺跡調査で何かあったのだと思いますが、嘆かわしい事です」
「あの、本当にすみません……」
クレア達は頭を下げた。
黒龍を目覚めさせたのは自分達であったのだ。
獣人達に死者が出ていないのは不幸中の幸いであろう。
「いえいえ、人族の成した事ですが貴方がたを責めているわけでは無いのです」
「尚更すみません……」
シャムに同情して黒龍退治に来た一行だったが、長老の話を聞いて同情は責任に変わったのだった。
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