第48話 邂逅は必然か?

「ほぉ、これが遺跡であるか」


 マチュワット遺跡と呼ばれる観光地に到着したバティン達。

 目の前には鉱石とも金属とも取れるような鈍く光る外壁をした巨大な四角い箱が鎮座している。


 一部分破壊されたような穴が空いており、そこが入り口なのだろう。

 その入り口に向かう途中には数々の露店が並んでおり人通りも多く、そこそこな賑わいを見せている。


「割と人気なんですね」

「マジークでは割と有名な観光地で、他国からも来る人がいるみたいですよ。僕は初めて来ましたけど」

「んん……?」

「ドゥルガ様? どうなされた?」


 遺跡を見た時、ドゥルガは既視感を覚えた。

 あの外壁は何処かで見たような気がするのだ。


「なぁんか、見たことある気がするのよね」

「えぇっ? ドゥルガさんあの遺跡知ってるんですか?」

「知ってるっていうか……」


 ドゥルガは首を傾けうーんと唸りながらバティンの肩で腕を組み必死に思い出そうとしている。

 顔の近くで唸り声を上げるドゥルガが煩わしくなったバティンはドゥルガを追い払う。


「耳元で煩い」

「こらバティン殿、ドゥルガ様に何をする」


 レミエルがバティンを嗜め、もっと敬えと言うが、それを言っている相手は悪魔だという事を忘れている。

 肩から追い払われたドゥルガはフラフラと空中を漂いながらまだ唸っている。


「あっ! 思い出した!」

「何をですか?」

「あの壁、戦争の時に見たわ! あースッキリした」

「ドゥルガ様、そ、それは、あの神と悪魔の戦争でしょうか……?」

「そう、その戦争よ。こう思い出せそうで思い出せないヤツを思い出すと凄い気持ちいいわね」


 その気持ちは非常によくわかるが、今はそうじゃない。

 あの遺跡が3,000年前に起こった神と悪魔の戦争時代の物であるなら、作ったのは神か悪魔である。

 それだけでも世紀の大発見ではないか。


「せ、戦争って、なんの話ですか」

「あー、ネビルス君は知らなかったんですね」

「まぁ簡単に言うと3,000年前に神々と悪魔の戦争があったのだ。

 バティン殿もドゥルガ様もその戦争に参加していたのだ」

「さ、3,000年!? えぇ、師匠もドゥルガ様も凄すぎです……」


 しかし、ドゥルガが見た事あるならバティン殿も知っているはずだが、嫌に静かだな……と、レミエルは後ろにいるバティンを振り返る。が、そこには姿が無い。

 ちょっと周りを見れば、あの悪魔は露店に売られている小物を手に取っていた。


「これはいくらであるか?」

「は、は、はい! ぎ、銀貨1枚です!!」

「む、手持ちの金貨が多いのでな、こちらでも良いのだろう?」

「うぇっ!? き、金貨!? では、銀貨9枚……」

「釣りか? 要らぬ。ではな店主」


 相変わらず自由気ままな行動で豪快な買い物をしていた。

 買ったのは遺跡を模倣した、小さな置物。それを大事そうに空間へと仕舞うバティン。


「む、なんだ聖騎士。我に何か用か?」

「いや……貴殿は相変わらず自由だな……」

「? 当然だが?」


 バティンが好き勝手動のは今に始まった事ではないとして、レミエルはドゥルガが言っていた事をバティンに話す。


「戦争の時に? ……覚えておらぬな。まぁあの羽虫がそう言うのであればそうなのだろう」

「そうか……何かわかるかと思ったんだが」

「まぁ、入ってみれば何かしらわかるやもしれぬ」


 遺跡の入り口まで来たバティン達は、改めて近くで見る遺跡に感動すら覚える。


「大きいですねぇ……この壁、何で出来てるんでしょう?」

「その辺りもまだ解明されてなかったはずですよ。結構謎の多い遺跡って聞いたことあります」

「ううむ、不思議な外壁だな。金属のようでそうでないようだ」


 一箇所壊された場所から人々は遺跡の中に出入りしている。

 入り口には入場者を管理する受付の男がおり、そこでお金を払うようだ。


「次の方……うわっ!? あ、悪魔ぁ!?」

「4人と1匹である」

「ちょっと! 5人よ5人!」

「あ、あの……もしかして先日世界中に魔法を使った……?」

「バティンさんのことですねぇ、多分」

「うわぁ、大魔王は初めて見ましたよ。そんな大魔王様もここに観光にくるなんて誇らしいですね!」


 割と受付の男は楽観的であった。


「じゃ、5人で金貨2枚ですね」

「うむ、つかぬ事を聞くが案内役のような者はおるか?」

「あ、案内役ですか? ちょうど団体さんの案内で出ちゃってますね……すんません」

「ふむ、そうか。仕方あるまい」

「一応、中に説明が書いてある板がいっぱいあるので」

「それなら大丈夫ですかねバティンさん」


 案内役がいないならば仕方ないと、バティン達は遺跡に入る。




 それは、ただの偶然か運命だったのかわからない。

 少しでもタイミングがズレていれば起こらなかった邂逅。


 学者風の数名と、その護衛であったのであろう聖騎士の男が入り口から出てきてすれ違う時、聖騎士が酷く驚いて言う。


「レ、レミエル!? お前、生きていたのかっ!?」

「ア、アズラー様!? 何故此処に!?」


 後の『マチュワット遺跡の災厄』は、多分ここから始まったのだろう。




★★★★★


すみません、ここまで毎日更新でしたが、忙しくなり隔日更新になりそうです。

よろしければ今後もお付き合い下さい。

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