第47話 遺跡の正体
マチュワット遺跡。
それが見つかったのは今から10年ほど前、冒険者インデ=ジョーンによって発見された。
地表に出ているのはその遺跡の一部分で、その地下には広大な未知の地域が広がっていると予測される。
一般に解放されているのは地表部分だけで、遺跡の地下は厳重な規制線がひかれており関係者以外は立ち入り禁止である。
この遺跡を調べている考古学者ハワード=ガードによると
「今までの調査結果から、この遺跡は約3,000年前に造られた施設であると考えられる。
なんの目的で造られた施設かは不明で、人類では考えられない技術が幾つも使用されており現在の技術力では解明出来ないことが多い。
これを解明することは人類の飛躍的な発展に貢献することだろう」
と発言している。
古代人が残した謎に満ちた遺跡。
一般に解放されている部分だけでも充分に見応えがある。
マジークに訪れた際には一見の価値ありだろう。
「なるほど、中々興味がそそられるではないか」
いつのまにか購入していた『マジークの名所10選』という本を読んでいるバティン。
そんなバティンの前には死体のように動いていないレミエルとネビルスが地面に倒れている。
「古代人の文明ですか、凄そうですねぇ」
クレアはもう地面に横たわる2人を気にせず、向かう先にある遺跡を頭の中で考えている。
実に薄情になったものである。
「うーん、古代人って……そんなのいたかしらね」
「えー、ドゥルガさん何か知ってるんですか?」
「そりゃ、アタシは人間をずっと見守ってきた神の一柱ですから? 当然、人間については詳しいのよ」
人間を見守ってきた闘いの女神ドゥルガは、目の前に倒れ伏す2人の人間は目に入っていないようだ。
悲しい事である。
「明日には遺跡に到着するであろう。修行はまた休憩であるな」
その言葉を聞いて、倒れていた2人は抱きつき喜び合う。
首都マジークから2日、遺跡に向かって旅をしていたバティン達。
当然、レミエルの修行とネビルスの魔術訓練が開始された。
レミエルはより実戦的で凄惨な修行。
ネビルスは魔力を使い果たしてはよくわからない薬を飲まされ、また使い果たすという無限に続く苦行を行なっていた。
ネビルスはクレアとレミエルが心配した理由がやっと分かったが、ここで逃げたら何も変わらない。という強い信念で何とか食らい付いている。
だが、苦行は苦行だ。休んで良いと言われたら、そりゃ休みたいのだ。
「小僧、貴様はこの遺跡に行った事はあるか?」
「はぁ、ひぃ……い、遺跡、ですか? 聞いた事はありますけど、行った、事はない、です……」
「ふむ、この中に遺跡について知見があるものはいるか?」
当然ながら誰も手を挙げない。
皆、遺跡は初めてとのことだから仕方のないことだった。
「ううむ……案内役がおらぬな」
「遺跡にはそういう説明してくれる人とかいるんじゃないですか? 観光地らしいですし」
「ふむ、そういうものか」
「まぁ行ったらわかるんじゃない? さ、アタシはもう寝るわ」
バティン達は焚き火を囲いながら眠りについた。
―――
「待て、もう一度説明してくれ」
魔王城にて、禍々しい玉座に座っている悪魔は部下の報告を聞いていた。
報告をしていたグザファンは溜め息を吐きながらも最初から再度説明する。
「またですか……何度も言いますが―――」
人間界に来ていたのは、あのバティンであったこと。
人間の従者と聖騎士の部下とペットの女神と一緒にいたこと。
目的はただの観光であること。
そう報告した。
それを聞いていた魔王は、何度説明されても全く理解出来ない。
「すまん……全く理解出来ない。もう一度説明してくれ」
その気持ちはわかるがもう4回目である、流石に面倒だ。
「もう嫌ですよ。何回報告させるんですか」
「だが、全くもって信じられん。頭が理解を拒否するのだ」
「わかりますよ。私も聞いた時は開いた口が塞がらなかったですから」
観光だけなら、まぁギリギリなんとか理解出来る。
上の悪魔、特にバティンは自由奔放と魔界では聞いた事があったからだ。限度はあるが。
だが、聖騎士の部下とか信じられない。
聖騎士ってアレでしょ?
アストライアの加護を受けた人類の守護者、選ばれ者でしょ? 何で悪魔の部下になってんの?
となる。
もっとわからないのは女神がいたことだ。
ここまで来ると「ちょっと何言っているかわからないです」状態だ。本当に何を言ってるんだ、寝言は寝て言えと怒鳴りたい。
実際最初は怒鳴った。
だが、報告は変わらず、何度聞いても同じ事を説明される。
魔王は頭が痛くなって休みたくなっていた。
「……爺、どう思う?」
「あの方は本当に自由で欲求に素直な方ですから、あり得なくは無いかと。女神も恐らく監視で一緒にいるのでしょう。
何かあれば世界が滅びますからな。フォッフォッ」
爺と呼ばれた古い悪魔は笑いながらそう言う。
まぁ、聞けば特にこちらを邪魔する事はないようだ。
ティオンの街に潜ませていた者が逃げ帰ってきたという報告があったような気がするが、気のせいだろう、うん。
「はぁ、これが仕事でなければ魔界に帰って寝たい……」
「そう言いなさるな、勇者も順調に育っている様子。もうしばらくの辛抱ですぞ」
疲れ果てもう何もかも面倒になった魔王であるが、仕事は仕事。ちゃんとやらねばならない。
「それで、バティン様は今は何処に向かっているのだ?」
「魔力感知からは、マジークの遺跡ですね」
「ああ、アレか。神魔戦争の時にレヴィアタン様が作ったという」
「それですね」
「アレは何の目的だったかわかるか爺?」
質問を受けた老悪魔は当時を思い出しながら答える。
「あれは……確か神々に対抗する生物兵器の実験施設だったかと」
「そうか。まぁ古い施設だ、中は何も残ってないだろう?」
「いえ、わかりませぬ。当時研究は行き詰まっていたところだったと記憶しておりますが、急な停戦で皆バタバタしておりましたし、レヴィアタン様はその……言ってしまえば面倒くさがりなお方なので、全て引き上げたかは……」
あれ、何か嫌な予感がする。
魔王はそう思ったがここから何が出来るわけでもないので、考えない事にした。
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