第46話 二人目の弟子

 運動場の様子を見ていた学園長は悪魔の授業を遠くからじっくりと聞いていた。

 風の魔法の1つ、静聴魔法である。


「あらあら、私も知らなかったわ。魔法と魔術なんて、やっぱりあの悪魔さんに頼んで正解だったわ」


 学園長のイシュリエルもあの大魔王降臨事件を当然見ていた。

 その時の心境は『感動』であった。

 こんな魔法が存在するのか、こんな魔法を使える者がいるのかと。


 イシュリエルは幼い頃から魔法の才を発揮し、20歳の頃には国で一番の魔法使いと言われ、30歳の時にこの学園を立ち上げた。

 それから、30年。

 学園長としての仕事をしながらも魔法の研究を怠った事は無い。

 勿論、バティンが教えている法則を自ら作り出す事も出来る。しかし、あれ程の広範囲の魔法は見た事も原理も理解出来なかった。


 そんて、そんな大魔法を使用した悪魔が学園へ来訪したのだ、こんな機会を逃すわけには行かない。と講師を願ったのだが、予想を遥かに超える授業内容だった。


「私がもっと若かったら、あの悪魔さんについて行って教えを請いたかったわ」






 場面は運動場へ戻る。


 ネビルスは首都マジークの市民として産まれた。

 父も母も特に言う事は無い一般人であったが、ネビルスが6歳の時に魔力がある事がわかり、両親の勧めもあり魔法学園を目指す事になった。


 だが、学園入学時に属性が無いことがわかった。

 魔力を宿す人間は1000人に1人と言われている、両親はネビルスに多大な期待を持って貯金を全てネビルスの学費に充てた。

 だが、属性を持たないという珍しい事実が発覚。入学テストも問題無い点数であったため、ネビルスは入学する事が出来たのだが……。


 魔力があっても属性がなく、皆が使える魔法が使えない。

 頑張っていればその内……という淡い期待も半年もすれば無くなり、周りからは落ちこぼれと呼ばれている。


 それでも、魔力を使って何か出来ないかと努力した結果、物を動かす事が出来た為、それを磨く事に集中するようになった。

 重さは10kgくらいであれば、物凄い疲れるが何とか動かす事は出来る。

 しかし、そこまでだった。


 そんな努力の毎日も虚しくなってきた時悪魔と出会う。

 そして、今。悪魔の口から出た言葉に衝撃を受ける。


「僕が使っていたのは……魔術……」

「うむ、人間で魔術を使えるとは我も長く生きていたが初めて見たのである」

「じゃ、じゃあ! もしかして魔術を勉強すればもっと、もっとちゃんとした魔法使いになれるんですか!?」

「魔法使いではなく、魔術使いであるがな。使い方を覚えればそれなりに魔術が使えるようになろう」


 ネビルスは気付けば涙を流していた。

 無理をして、自分に期待して学園へ入れてくれた両親。いつまでも落ちこぼれの自分が悔しくて悲しくて辛かった。

 だが、今度は本当に希望の光が差し込んだのをネビルスは感じた。


「ぼ、僕に魔術を教えて下さいっ! お願いします!!」

「ふむ……しかし我は旅の途中であるからな。今日明日で貴様が魔術を使えるかは微妙なところであるな」

「なら、ネビルス。貴方はこの悪魔さんについて行けば良いじゃない」


 いつの間にか学園長がそこに居た。

 話を聞いていた学園長はバティンの旅に同行すれば良いと言う。


「が、学園長……! でも僕は学園の生徒ですし……」

「あら、でも貴方の気持ちはついて行きたいのでしょう? なら、自分に正直になりなさい。そして、帰ってきたら魔術を教えてちょうだい」

「良いんでしょうか? 僕はこの方について行きたいです!」

「なら決まりね」


 学園長はバティンを見る。

 その悪魔の表情は何か面白い玩具を見るような目をしていた。


「小僧、貴様が良いのであればついて来るが良い。我も貴様のような症例に興味がある。色々楽しめそうだ」


 ネビルスはゾワっと悪寒が走ったが、今更引き返すわけには行かないと気合いを入れる。


「はい! よろしくお願いします師匠!」

「師か……中々良い響きであるな」


 満更でもなさそうなバティンであった。


 その後、夕方まで魔法の法則を作るコツなどを説明、実演しバティンの授業は終わる。

 終わる事には打ち出した魔法を曲げる事が出来るような子もチラホラと現れた。


 前代未聞の悪魔の教師による授業は非常大きな効果を与え、大成功で幕を閉じた。


「さて、小僧。我らは明日出発する、今日は帰って父母に説明するが良い。明日の朝、街の入り口に集合であるが

「はい! わかりました師匠」






 そして、授業の終わったバティンはクレア達と合流し、宿に泊まって朝を迎える。


「バティンさん、次は何処に行きますか?」

「ふむ、すぐにパルテナに向かっても良いのだが、付近で名所があれば寄ってみるのも一興か」

「学園で本を読んだが、ここから2、3日の所に遺跡があるようだぞ」

「あー、読んでたわね。結構有名みたいよ?」

「遺跡か、良かろう。では、そこへ行くとしよう」


 目的地が決まり、早速移動しようとするクレア達だが、バティンが待ったをかける。


「どうしたんですか? 忘れ物ですか?」


 そうクレアが聞いた時、街から人影がこちらへ走ってくる。


「む、あれはネビルス少年ではないか」

「何でしょう? 随分慌てて走ってきますね」

「アタシ、何か嫌な予感がするわ」


 息を切らして走ってきたネビルスは、バティン達の前で深呼吸して息を整える。


「はぁ、はぁ……すみません。お待たせしました師匠」

「うむ、向かう先は遺跡である」

「あ、もしかしてマチュワットの遺跡ですか。承知しまし―――」

「待て待て待てぇい! 今聞き捨てならない単語が聞こえたぞ? どう言う事だバティン殿?」

「この小僧は昨日我の弟子になった」

「これからよろしくお願いします皆さん」


 なんてことだ。

 学園長からは授業が大成功だとしか聞いてなかった面々はいきなりの師弟関係構築済みの事態に驚きを隠せない。


「若くして死に急ぐことはあるまい、悪い事は言わんこの悪魔に師事するのは考え直した方が良い」

「そうですよ、ネビルス君はまだ若いんです! ミンチになっちゃいます!」

「あの、心配してくれてありがとうございます。でも僕は決めたんです! 一人前の魔法、いや魔術使いになるって」


 ネビルスの決心は固そうだ。

 こんなキラキラした目で見られたら、何も言えない……。

 クレアとレミエルはそっと引き下がった。


「笑っちゃうわ。アンタ2人目の弟子ね」

「2人目ですか?」

「そうよ、この聖騎士もバティンの弟子よ。姉弟子ね」

「そうなんですね! よろしくお願いします」

「ああ……お互い死なない事を祈ろう……」


 新たにバティンの弟子となったネビルスを加え、次は遺跡へバティン達は向かうのだった。

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