第45話 バティン先生の青空授業

前話で屋内表記を屋外表記に変更しました。



★★★★★★



魔法。


 魔力を使用し、自然界の法則に沿って効力を発揮するもの。

 火なら燃え、水なら濡れる。

 そういった現象を【魔法】と言う。


 魔法には、火、水、風、土、光、闇の6の属性があり、各資質が存在する。

 己の資質にあった魔法が1番使い易く、逆に他の属性は扱い難い。


 また、人間は体内に宿す魔力が少ない。人間の基本的な力の源は気なのだ。

 そこを少ないながらも魔力を使って現象を起こす。

 魔力を力の源とする悪魔に比べてスタートラインが著しく悪い。


 だが、人間の中には悪魔を凌ぐ魔法の使い手がいる。それは何故か。


 と、いうような内容をバティンが解説した。

 最後の質問に1人の女生徒がおずおずと手を挙げて答える。


「特別魔力が高い人とかですか?」

「人間の中にも多少の差はあるが、どんな下級悪魔でも人間に劣る事はない」


 それを皮切りに子供達は色々な答えを出してくる。


「決まっている、才能だ!」

「それも小さい要因で、決定的なものではない」

「じゃあ、物凄い効率が良いとか?」

「ふむ、大事な事ではあるが先の質問の答えではない」

「あ! 努力?」

「それは当然必要だが、正解では無い」


 担任の女性教師は驚いていた。

 ちゃんと、授業になっている……。最初はどうなる事かと思っていたが、これはちゃんとした授業だ。

 しかもいつもよりも食い付きが良いように思える。

 教師の自分でさえ、答えが気になり、一緒に考えてしまった。これが、大魔王の力……。


 と女性教師が勘違いをしている最中もバティンの青空授業は続く。

 子供達も考え得る答えを出し尽くしたようだ。


「ふむ、答えは出ぬか。では正解を―――」


 その時、沈黙していたネビルスが手を挙げていた。


「小僧、言ってみるが良い」

「あの、もしかしてですけど、そもそもの前提が違うんじゃ無いかなぁって……」

「ほぉ、どういう事である?」

「えっと……悪魔が使う魔法と人間が使う魔法は原理が違う、みたいな……?」


 子供達は何を言ってるんだコイツ? という目を向けていたが、バティンはその答えにニヤリと笑う。


「うむ、概ねその通りである」


 子供達は驚き、その答えに納得いかずにガヤガヤと煩くし始めるが、バティンがすぐに収めた。


「慌てるでない。今から詳しい説明をしてやろう」


 そう言うと子供達はピタっと騒ぎを止めてバティンの話に聞き入る。

 子供達を完全に掌握した悪魔のカリスマ性に女性教師は脱帽だ。


「簡単に言ってしまえば、貴様ら人間が使うのは魔法、悪魔が使うのは魔術という違いである。

『法』と『術』、言葉だけではなく、そのあり方が違うのだ」


 バティンが続けて言うのは魔法と魔術の違い。


 魔法は言葉とおり魔力を使い様々な現象を引き起こすもの。

 魔術は魔力を使った技術、技であるという事。

 その違いがある。


 魔術には属性など無い、目的を現実のものとするために魔力を変質させて現象を起こす。

 対して魔法とは、魔力を使い法則ルールを作り出し、それに従って現象が起こる。


 最終地点は一緒だが、そこに至るまでの過程が全く違う。


 そして、その法則ルールを作るという行為に先天的に、得て不得手が存在する。それが属性の資質。





 女性教師はバティンのその説明に驚愕していた。

 そんな説は聞いた事がなかった。悪魔と人間では魔力の使い道が違うなど、世紀の大発見では無いか。

 学園長が必ず子供達の為になると言っていた意味が漸く理解出来た、

 そんな驚きを他所にバティンの説明は続く。


「で、あるから貴様達の魔法は先人が築いた既存の法則をそのまま使っているだけに過ぎぬ。なんの工夫もない。

 よってまだまだ話にならぬと言ったのだ」


 そう言って、バティンは先程子供が放った炎の槍を作り、的に向かって射出。

 勢いよく飛んでいった炎の槍は着弾すると、的を燃やすのではなく凍らせた。

 意味がわからない、何故炎の魔法で凍らせる事が出来るのか。子供達も教師も茫然としてしまう。


「今のは炎に標的を凍らせるという『法則』を作ったわけだが、まぁ意味は無い。分かり易い説明というだけの事である。

 もっと簡単な形で言うと、曲げる・速度を変える・追尾するなどが考えられるな。言うのは簡単ではあるが法則を作ってしまえば大抵の事はできる、魔力の量が及ぶ限りはな」


 このような法則を作り出す、アレンジを加える事が上手い魔法使いは魔力が少ないにも関わらず悪魔を凌ぐ事もあるのだとバティンは言う。


 何というとてつもない授業か。

 こんなもの熟練の魔法使いの奥義のようなものではないか。

 これに刺激を受けた子供達は必ず一流の魔法使いになるだろう。


 バティンの説明が一通り終わり、子供達は感動し言葉をしばらく失っていたが、ある事に気付いた子供がバティンに質問する。


「あ、あのぉ……ネビルスみたいに属性を持たない落ちこぼれはどうなんですか?」


 先程の説明にあった魔法の法則を作るのは、属性により得手不得手があるとバティンは言った。

 なら、属性も持たずまともな魔法が使えない落ちこぼれのネビルスは法則を作る事はできないのか。という質問だった。


 これにバティンは何の事は無いかのように軽く答える。


「貴様らが落ちこぼれと呼んでいる小僧だが、属性を持たぬ故に落ちこぼれと呼んでおるのか?」

「そうだ! 物を動かすだけで、何も出来ないから落ちこぼれネビルスなんだ!」


 ネビルスは下を向き涙目になる。

 属性の無い、魔法使いの落ちこぼれ。ずっと言われてきた事。

 バティンの授業が素晴らしく、もしかしたら僕も。と思っていた矢先に現実を突き付けられた。

 子供達がこぞって見下し、可哀想な目で見てくるのをネビルスは涙目になりながら耐えていた。


「ふむ、貴様らがそう思うのも無理はない」


 ネビルスはバティンにも言われ一層気分が沈み、余計に惨めな気持ちになる。

 だが、次の一言に先程までの暗い気分は吹き飛んだ。


「その小僧が使っていたのは魔術であるからな」


 ネビルスはその言葉に顔を上げた。

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