第44話 バティン先生の躾け方

【祝 5,000PV over 2022/3/11】

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★★★★★★


いつもであれば静かな教室も、今はざわつきが収まらずにいる。


 50人ほどの教室。半円状に並べられた机に生徒達が座り、円の中央に立つ教師の言葉に耳を向ける。


 普通であればそんな授業風景になるのだろう。

 だが今は、席を立つ者、隣の席と話している者、何人かでヒソヒソと何かを考察している者。そういった生徒達で溢れていた。


 その原因は本来教師がいるべき場所に立つ者。


「我は臨時講師のバティンである。貴様らに我が魔法の基礎を教えてやろう」


 そう悪魔が言ったのだ、教室内がざわつき、混乱するのも無理はない。

 元々このクラスの担任である女性が続けて説明をする。


「えー、皆さん落ち着いて下さい。

 学園長より必ず皆さんの為になるだろうとの事で、たまたまいらっしゃった大魔お、悪魔のバティン様に特別に教えて貰える事になりました」


 やはり、先日の大魔王事件の本人であった。とさらに教室内は騒ぎが大きくなる。

 中には泣き出してしまう子も居た。


 そんな中、ネビルスは肩身が狭く、出来るだけ小さく下を向いていた。


(うぅ……ごめんなさい。僕が軽い気持ちで連れてきてしまったんです……ごめんなさい)


 実際にはネビルスが案内せずともバティンはここに来ていたのだが、ネビルスの心は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 そんな中、1人の生徒が立ち上がりバティンに向かい声を荒げる。


「ふ、ふざけるなっ! 悪魔の言う事なんか聞けるかっ! 俺の魔法で倒してやるっ!!」


 ここにクレア達がいたら、なんとまぁ命知らずな子供だと逆に感心していただろう。


 この1人の子供を皮切りに教室全体が非難の声を上げ始めた。

 不味いと思った女性教師が収めようとするが火のついた子供達は止まらない。

 そんな中、バティンは冷静に女性教師に問いかける。


「師の言う事に従わない子供らがいた場合、通常どうするのだ?」

「え? 普通でしたら叱ったり、説得したりして言う事を聞くようにしますけど」

「なるほど」


 そうバティンが言った瞬間。教室にいた子供達が一斉に消えた。

 女性教師は驚きバティンに詰め寄る。


「な、何をなさったんですか!? 子供達はどこに!?」

「落ち着くが良い、空へ転移させただけである」


 反発していた子供達は、超上空に一瞬で転移させられていたのだ。

 何が起きたか分からなかった子供達だが、浮遊感と内臓の浮く独特の感覚から、上空から落下している事がだんだんとわかってきた。


 徐々に校舎が見えてくる、そうなると恐怖でパニックに陥り手足をばたつかせ、叫び声をあげる。

 だが、落下は止まらない。広い運動場がもうすぐそこまで来ている。

 死。

 それを感じ、地面に叩きつけられる直前、子供達は教室に戻っていた。


 死屍累々、涙と鼻水、その他ありとあらゆる水分が身体から出ている生徒達。半数以上は失神している。


「繰り返す、我はバティン。貴様らに魔法の基礎を教えてやろう」

「はいっ!! バティン先生!! よろしくお願いしますっ!!」


 起きている生徒からは綺麗に揃った返事が返ってきた。




 バティンが教室で子供達を転移させていた時、クレア達は学園の食堂でまったりとしていた。


「―――むっ!?」


 レミエルが何かを感じとる。


「どうしたんですか? レミエルさん」

「このデザートは隠し味に、モレンの実を使っているな。中々新しい味だ」

「へぇー、美味しいの? ちょっと頂戴よレミエル」


 彼女らは至って平和であった。





 とりあえず、子供達を運動着に着替えさせ魔法場という所に来たバティン教室の面々。

 早速、子供達の魔法の力を見てみる事にした。


 コの字の白い壁に覆われた屋外。壁には防御結界が張ってあり多少の魔法では傷1つつかない。

 30mほど先には金属で出来た的がいくつか立っていた。


「では、あの的目掛けて一番強い魔法を撃ってみるが良い」


 そうバティンか言うと、少しの間を置いて1人、威勢の良い少年が前に進み出てきた。

 先程1番最初にバティンに反意を示した子供だ。


「やってやる! 見ていろ!」


 そう言って少年は目を瞑り、杖に力を集中させる。


「魔の炎、魔の槍、其れは我が命により敵を撃つ……ファイアーランス!!」


 男の子が呪文を唱えると、背後に大人程の大きさの炎で出来た槍が現れ、一直線に的に飛んで行き着弾。

 それは的を暫く燃やし続けた。


「どうだ! 俺様の魔法は! 中級魔法が使えるのはこのクラスで俺様だけだ!」

「ふむ、次は……おい、小僧。何をコソコソ隠れておる。貴様がやってみるが良い」


 バティンが指名したのはネビルス。

 災いが降りかからないように、隠れていたのだが見つかってしまった。


「ぼ、僕ですか!? ……やらなきゃダメですか?」

「ダメである」


 気乗りしないネビルスは溜め息を吐きながら前へ進み出る。


「ふんっ! 落ちこぼれが!」


 先程の威勢の良い少年が暴言を吐く。


 ―――無能のネビルス

 ―――属性無しの落ちこぼれ


 それに加えて、小さな陰口も聞こえてくる。

 ネビルスは涙目になりながらも杖を持ち、力を込める。


 すると、ネビルスの周囲の小石が浮き上がり、的に向かって行く。

 お世辞にも速度は無く、スーっと横移動し乾いた音を立てて的に当たる。


「あ、あの……僕にはこれが精一杯なんです……」


 クスクスと笑い声が聞こえる中、バティンは言う。


「ふむ、貴様も先程火を飛ばした小僧も何も変わらんな。全く話にならぬ」

「なっ! 何だと!? 俺がそこの落ちこぼれと変わらないだと!?」

「然り」


 そして、バティンは続けて告げる。


「貴様らに魔法の何たるかをこれから教えてやろう」

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