第42話 落ちこぼれの少年
夜営地にて焚き火に当たってウトウトとしていたクレアだが、不意に生暖かい風が頬を撫でる。
目を開けると、空間が歪んでおり中からバティン達が出てきた。
「あ、バティンさん。おかえりなさい」
「うむ」
バティンは持ち上げていたレミエルを無造作に放り投げる。
人形のようにされるがままのレミエルはベチャっと地面にキスをして動く気配がない。
「あ、あのぉ……レミエルさん? 大丈夫ですか?」
クレアが話し掛けるも反応が無い。
これはまさかとうとう殺ってしまったのでは無いか? と怯えるクレアにバティンが言う。
「生きておる。全く、たかだか100回魔力を流しただけでは無いか」
「えっ? アンタ、レミエルに魔力流したって……アンタの魔力を!?」
「当然であろう?」
「……良く生きてるわね」
良く聴き耳を立てれば、レミエルから嗚咽が聞こえる。
確かに生きていた。が、心には大きな傷を負ってそうだ。
レミエルに流したバティンの魔力。ドゥルガが驚いたのも無理はない。
その強大過ぎる魔力は人間には猛毒そのものだ。それを100回流し込まれたレミエルは生きているのが不思議である。
「我が自ら回復を施したのだ、死ぬ訳あるまい」
バティンは勘違いをしている。
普通の人間がもし、バティンの魔力を流されたら瞬時に即死、良くて廃人。
鍛え上げられた身体、精神、加護。そういった要素があって初めて起こる奇跡のようなものだった。
「これから夜営の度に修行をつけてやろう」
「大変そうですねレミエルさ―――うわっ!!」
地面に這いつくばっていたレミエルが、ゴキブリのようさ動きでクレアに抱きつき泣きながら震える。
それを見たクレアは本当に大変そうだな。と他人事のように思った。
―――
5日程かけて、漸く魔法王国マジークに辿り着いたバティン達。
やはり関所で一悶着はあったものの、あのバティンの放送が効いていたのか予想よりもすんなりと入国できた。
向かう先はマジークの首都、名前は国名と同じマジークである。
その首都マジークには世界有数の魔術を学ぶ学園があり、バティンがそこを見てみたいと言う事だった。
首都へ向かう道中もレミエルの修行は続く、どれ程凄惨な拷問が行われているかはクレアは分からない。
修行開始当初は日に日にやつれて行くレミエルを心配したものだが、もう慣れてしまい、帰ってきて子供のように泣くレミエルをあやすのが日課になっていた。
更に2日、そろそろ首都へ到着するという時。
「あ、見えて来ました。あれが首都ですかね」
バティン達は街道を歩きながら進むと、街の外壁のような物を発見する。
「着いたか。まぁ、ある程度修行もキリが良い。しばらくは休みであるな」
「本当かっ!? やった! 私は生き残ったのだ!!」
「ホント、良く生きてるわね……」
しばらく修行無しと聞いて、無邪気に喜ぶレミエル。
反対に、バティンは少し残念そうだ。
バティンは弟子などというものは無く、他人を強くするという経験が無かったので存外楽しんでいたようだった。
「む、なんの音だ?」
はしゃいでいたレミエルがかすかな音を捉えた。
クレアも耳を澄ましてみると、確かに離れたところで何か音がする。
「本当ですね……。何でしょう? 何か爆発しているような音ですね」
「ふむ」
一言言うと、バティンは音のする方に歩き出した。
クレア達も慌ててバティンの後を追いかける。
もう。首都はすぐそこなのに、何か気になる事があるとすぐ勝手に動くんだから……とバティンの自由な行動にクレアが呆れながらついて行くと、だんだんと音が大きく聞こえてきた。
街道から離れ、小高い丘を越えた先には川が流れており音のは川の上流から聞こえてくるようだ。
川に沿って上がって行くと、小さな滝が見える。そして、そこには1人の少年がいた。
茶色のローブを着て、杖を片手に持った「これぞ魔法使い」という
格好の少年。
その少年が両手で抱えるくらいの石に魔法をかけて浮遊させ、滝壺に落とす。それを繰り返していた。
どうやら、音の正体はこの行為が原因らしい。
額に汗をかきながら、石を浮かせては落とすを繰り返す少年。
一体何をやっているのだろうか。
「君はここで何をしている?」
隠れて静かに彼の行動を見ていたクレアだが、気付けばレミエルが既に話しかけていた。
普通、もう少し様子見てから行くでしょ?
とクレアは思ったが、レミエルなのですぐに諦めた。修行では彼女の性質まで変化させることは出来なかったらしい。
いきなりレミエルに話しかけられ、驚いた少年は尻餅をつき、高く浮かせるはずだった石は重い音を立てて地面に落ちた。
「な、だ、誰ですか!?」
「驚かせて済まない。私はパルテナの聖騎士レミエルという者だ。あそこにいる彼らは仲間、君に危害を加えるつもりはない」
「う、うわぁ!! あ、悪魔!? ……あれ? もしかしてあの大魔王降臨事件の……? この前空に現れたあの……?」
やっぱり大魔王とか思われていた。
一般人の間ではあの事件の後、各国の教会からのお触れもあって、『気を付けるが命を奪われる事はなさそう』という認識だった。
教会は良い仕事をしていた。
「まぁ悪魔だが危険は無い。それで君はここで何をしていたのだ?」
「あ、ぼ、僕はマジークのウィーチ学園に通うネビルスです……。僕は落ちこぼれなので、その、此処で魔法の練習してたんです……」
「ほぉ、小僧。貴様は学園とやらの生徒ということたな?」
「ひぃ……っ! そ、そ、そうです!」
クレアはバティンの横顔を見る。
その顔は何かを企む悪魔の顔をしていた。
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