第41話 修行その2
「ま、魔界……!? 一体何を言ってるんだ!?」
バティンに虚空に引き摺り込まれた先は何と魔界だと言う。
ちょっと何言ってるかわからないレミエルはバティンに説明を求める。
「正確には我が作り出した魔界である」
余計に分からない。
魔界を作り出す? 何それ、意味不明。
考えてもわからないレミエルは、やがて考えるのを止めた。
「よく分からないが、とりあえず此処が修行の場という事だな」
「うむ。では早速始めよう」
レミエルはゴクリと喉を鳴らす。
あのバティンが、本当に意味不明な力を持つ絶対の悪魔が施す修行とは……。
レミエルは緊張し、一言一句聞き逃さないように身構える。
「まず、貴様ら人間の力の源は何か理解しておるか?」
「力の源? それはどういう意味だ?」
「例えば、我々悪魔は魔力を持って力を発揮する」
悪魔は魔力、神々は神力。
それぞれ種族の力の元は違う。
もちろん、悪魔や神もそれぞれ魔力や神力を保有しているが、微々たるものであり大きく作用するのはやはり種族の特色だ。
それを踏まえて、人間は何が源泉なのか。
「人間……気、か?」
「その通り、闘気と呼ぶものであるな。そして聖騎士よ、貴様の闘気は人としては最高峰である。が、それでも貴様も気の容量は我に及ばぬ」
バティンから放たれる圧。
バティンが魔術を使う時の魔力の奔流とは全く違う、人としての圧倒的な力をレミエルは感じ取っていた。
「では、私の闘気を高めればもっと強くなるという事だな!?」
「理論的にはそうである。だが、我は闘気を高める方法は知らぬ。そもそも年月をかけて練り上げるものであろう?」
「確かに……ではどうするというのだ?」
「力の源を変えれば良い」
そう言ってバティンはレミエルの顔面を鷲掴みにする。
「すまない、バティン殿。もの凄い嫌な予感がするのだが」
「『気』のせいである」
ニヤつきながらバティンが言う。
ああ……コレがクレア殿に聞いていた悪魔ジョークという奴か……笑えない。
そして、レミエルの身体に何かが流し込まれた。
途端、レミエルは立っていられなくなり地面に倒れる、胸の部分が痛い、熱い、苦しい。やがて全身にその症状が現れ、レミエルは苦しみでのたうち回る。
「ふむ、拒否反応のようなものか」
「きょ……ひ、反……応……?」
「我の魔力を流したのでな。ふむ、こうなるのか……」
どうなるか知らないでやったのかい!!
と大きく突っ込みたい所だが、痛みで声も出せない。
バティンはふむふむと観察するように苦しむレミエルを見ている。
(ぐぅぅ……まさか、この……悪魔……私を、殺……すつもり……で……っ!?)
「まぁ、続ければ慣れるであろう」
そして、レミエルは意識を手放した。
「―――っは!?」
レミエルが目覚めた時はそこは元の夜営地。という訳でもなく荒野であった。
ちょっとした希望が失われたレミエル。元凶のバティンを探す。
すると、岩に腰掛けて本を読むバティンの姿があった。
「バティン殿! 私を殺すつもりか!?」
「何を言っている? 修行であろう?」
「しかし、先程の苦しみはなんだ!? 何をした!?」
「うるさい聖騎士である。説明するからソコに座っておれ」
面倒くさそうにバティンが説明する。
要約すると、闘気を高める方法がわからないなら、違う力使えば良い。魔力ならお手のものだから、これからは魔力を使おうね。
という事。
その魔力を上手く使う事前準備が先程の行動らしい。
あれが、事前準備……?
「先程の我の魔力の流し込みを50程繰り返せば、まぁ最低限の準備は出来るであろう」
50回繰り返す……?
50って、10セットを5回だよ? 今1セットしか終わってないんだよ?
それで死にそうになったんだけど!?
レミエルはこれから起こるであろう凄惨な修行(の準備)に自然と涙が流れた。
無意識に口からは「助けて」と小さく溢れていた。
「何、心配するでない。死なぬように我がちゃんと
死なないって言っても半死にはなるじゃん!
そんで、ギリギリって9割死んでるじゃん!
こんなの、2、3回やられたら肉体は死ななくても精神は死ぬでしょ!? こんなの修行じゃない、拷問だ!!
レミエルは恐怖で体が震えて声が出せず、心の中でそう叫んだ。
だが、その悲痛な叫びは誰にも届かなかった。
30回程繰り返した時、バティンが更なる恐怖をレミエルに告げる。
「ううむ……通りが悪いのである」
「と……通……り?」
レミエルはもはや立ち上がれずに地面に倒れたままであった。
「おぉ、そうか。我とした事が、忘れておったわ」
何かに気付いたバティン、嫌な予感がヒシヒシと感じるがもうレミエルは何も言う気力が無い。
この拷問も折り返しも過ぎ、もうすぐ地獄の事前準備に終わりが見えてきたのだ。何とか後20回耐える事だけをレミエルは考えていた。
「聖騎士、貴様はアストライアの加護を受けているのであったな。
成程、その加護が障害となっておるのか」
加護が障害だというが、流石に女神様からの祝福を消すなどということは出来ない。
「何、案ずるな。もう50程追加で魔力を流せば問題ないのである」
「誰か助けて!!」
レミエルは最後の気力を振り絞り助けを求めて叫んだ。
だが、その声は荒野に静かに消えていった。
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