第38話 またこのパターン

「し、失敗しただとぉ!?」


 アペプ侯爵は執事からの報告を聞いて机を叩きながら立ち上がった。


「馬鹿な! 奴等は最強のはずだ!! あり得んっ!」

「しかし、憲兵の捜査や市井の話から事実かと……」


 スラムの奥で何人もの人が死んだ。

 その中には有名な暗殺者シェディムの姿もあり、誰がやったかは操作中との事。


「くそっ! あの悪魔がやったに決まっている! その情報を流して……」

「ですが、何故それを知っているのか聞かれますし、そもそも死んだのはお尋ね者の暗殺者ですし……」

「ぬぅぅ! うるさいっ! クソクソクソっ!! もうエルフなどどうでも良い、あの悪魔だけはどうにかして始末してやる!」


 アペプは本来の目的であるエルフの奴隷を忘れてバティンに執着する。

 執念深いアペプは虚仮にされた事を許せない。


「確か、奴等の目的地はパルテナだったか……。ブフフ、あの国にも伝手はある。出発するぞ!」


 バティンはアペプまで殺す事はしなかった。

 この国の貴族であるアペプを殺害した場合、少なからず民への影響がでる事を考えての事と、欲しかったエルフを買われたからと言って流石にもう諦めるだろうと言う読みだった。


 だが、バティンは人間をまだ完全に理解できていなかったようだ。

 殺さなかった判断が吉と出るか凶と出るかはまだわからない。



 ―――


 宿屋での襲撃はあったものの、死傷者は出ずにレミエルの傷もドゥルガが直したのでクレア達は無事であった。

 暗殺者も排除したし、この街でやる事はもう無い。

 街を出て、バティン達は次の目的地である魔法王国へ向かう。


「暗殺者さん達が襲ってきた時は怖かったですよ、バティンさん何処に行ってたんですか?」

「所用でな、聖騎士がいたので大丈夫だったのだろう?」

「まぁそうですけどレミエルさん怪我しちゃいましたし」

「不覚を取った。だが、次があれば負けない!」


 次はもう無いのだが、バティンはそれを言うつもりは無い。

 結局は取るに足らない存在であった。


「で、次は魔法王国とかいう国に行くんでしょ? 人間の使う魔法なんて知ってどうするのよ?」


 そう言うドゥルガにバティンはゴミを見るような視線を送る。


「貴様は情趣を味わうという事が分からんのか。所詮は虫よな」

「はぁー? 悪魔に言われたく無いんですけど! あとこの姿は妖精だし! 虫じゃないし!」


 ドゥルガが怒り心頭にバティンの顔の周りを飛び回り、それをバティンは煩わしそうにしていると、2人は何かに気付いたように空を見る。


「ど、どうしたんですか? 2人とも」

「何か来るようだな」

「えぇ!? また街から出ると何か来るパターンですか? 毎回同じじゃないですか!」

「我に言われても仕方なかろう。我が呼んでいるわけでは無い」


 バティンが呼んだわけでは無いが、来る者は皆バティンが目的である。


 クレアはまた何か来るのか……と辟易していた。


「はぁ……今度は何が来るんですか?」

「悪魔だ(ね)」


 クレアの疑問にバティンとドゥルガが同時に答える。


「悪魔だとっ!? 遂にコロセスまで侵略してきたと言うのかっ!?」

「どうせ、この悪魔に用があって来るんじゃないの?」

「むぅ! これは一大事だ! 私が迎え撃つ!!」

「いや、待ってれば良いわよ。バティンに何とかさせたら良いじゃない」

「聖騎士レミエル、出撃するっ!!」

「ちょっと! 待ちなさいって!」


 ドゥルガがそう言うが、レミエルは感じ取った魔の気配に向けて飛び立って行った。

 女神の話を無視するなど断罪の対象である。


「ねぇ、あの娘大丈夫なの?」

「いつもの事ですよ」

「あの聖騎士は猪と同じであるからな」


 ドゥルガは思う。

 アストライアは加護を与える人選をミス立てるのでは無いだろうかと。


 バティン達は仕方ないのでレミエルが飛んで行った方を追い掛ける。

 すると剣戟の音が聞こえてくる。


 見えてきたのはボロボロに傷付いた聖騎士と、同じくボロボロになっている一体の悪魔。


「ぐぅ……なんなのですか人間! 何故邪魔をするのですっ!?」

「くっ! 悪魔め、人間に害を及ぼそうともこのレミエルがいる限り好きにはさせんっ!」

「話を聞かない猪のような人間ですねっ!」


 初対面の悪魔にも言われてしまっている。

 2人の対決は暫く続いた。

 力は互角、あとは気力の勝負といった所か。


「あの……バティンさん、止めないんですか?」

「ふむ。良い勝負でこれからではないか」


 いや、別にこの勝負で何が得られる訳でもないし、そもそも勝負する必要があるか微妙でしょうよ!

 とクレアはバティンに止めるように促し、ようやく面倒くさそうにバティンは2人に近付いて行く。


「闘いを止めよ」

「あ、貴方様はっ!?」

「バティン殿、すまない。貴殿の同族ではあるが見逃す訳にはいかないっ!」


 レミエルは止まらない。

 一度走り出したレミエルにブレーキは付いていないのだ。

 ならばどうやって止めるのか。


 バティンはレミエルの背後に移動し、拳骨を落とす。

 レミエルは地面に墜落して行った。


「やれやれである」

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