第37話 悪魔の真名
暗殺者シェディムは折り重なった人の上に座り、本を読んでいる悪魔に驚くが、すぐさま戦闘態勢をとる。
「お前、ここで何をしているっ!?」
(違う、そんな分かりきった事を言ってどうする……明らかに俺を殺しに来ているのは明白だろう)
シェディムは少なからず焦っていた。
今まで拠点が襲撃を受けた事は何度かある。だが、今悪魔の下で転がっているのは
それが襲撃者に対して何も出来ず転がされているなどシェディムは考えてもみなかった。
「我は此処が貴様の拠点と聞いたのでな、来てみたら貴様はおらぬし暗殺者共の歓迎も受けた。
待っていれば戻ってくると思ってな、待たせてもらっておった」
(ちっ……まぁ良い。切り札は手元にある)
「さて、問うが貴様がシェディムでよいな?」
「その通りだ悪魔。よくここまで辿り着いたな」
「造作も無い。貴様は我のこれからの旅に邪魔になりそうでな、どうやら人間にとっても貴様は良くない存在のようだし、処理しにきたぞ」
ちょっとそこまで買い物に行ってくる。というような気楽さで悪魔は言う。
バティンにとっては取るに足らない存在、歩いている所に小石があったから蹴飛ばすかの如く簡単な事。
「どうやら怪我をしているようだな。やはり我の従者を襲ったか、そして大方部下の聖騎士に返り討ちにあったようだな」
「ふん、あの聖騎士程度であればいつでも殺せる」
「そうか。我は闘技場で一番の強者と闘って、人の強者のレベルを見た。
その上で、部下の聖騎士は人間の中では最上位に位置する強さと判断したのだが……そうか、貴様はそれよりも強いと申すか」
バティンは顎に手を当てて考え込む仕草を取っている。
シェディムは先ず先手で攻撃を仕掛ける。
懐からナイフを数本投擲。
常人の目にはナイフを取り出す動きすら見えない神技。
その上、ナイフは黒く塗り潰されており、月明かりしかないこの場では目視は不可能。
だが、投擲されたナイフはバティンに届く前に力無く地面に落ちた。
シェディムは投擲が通用するかどうかを見る前に既に走り出していた。
ナイフが地面に乾いた音を立てる時には、シェディムは既にバティンの懐に潜り込んでいた。
右手で持つ長めのナイフでバティンの首を狙う。
バティンは動かない。迫るナイフの輝きをじっと見つめている。
ナイフがバティンの首に到達した時、振るった右腕が弾かれた。
シェディムは驚愕し、一度飛び退く。
ナイフを見ると刃が欠けていた。
「何だ……? 今のは……?」
「中々良い動きをする。流石は名の知れた暗殺者であるな」
完全に首元を捉えた一撃は得体の知れない何かに弾かれた。
(結界……のような物か? これがこの悪魔の能力……)
「さて、時間も惜しい。早々に片をつけるとしよう」
悪魔はゆっくりと優雅に立ち上がり、歩いてシェディムに近付こうとする。
「ちっ、早くもコレを使うことになるとはな」
シェディムはそう言って腰の後ろに差していたショートソードを抜き放つ。
それは銀の輝きを放つ神聖さを感じさせる剣。
対悪魔への切り札として手に入れた聖剣のレプリカであった。
レプリカだが、高位聖職者が何日もかけて祝福を施したもので、魔に連なる者には絶大な威力を誇る。
シェディムはバティンと対峙することを想定して準備をしていた。
「これが無ければ危ない所だったかもな。だが、残念だがお前は此処で消滅する」
「ほう、やってみるが良い」
(馬鹿め、侮ったのが運の尽きよ)
再度シェディムは疾風の如くバティンに肉薄する。
上段から振るわれた聖剣、バティンは動かない。
(結界の薄そうな所から削ってやる!)
バティンの目の前からシェディムが消え、同時に背後の足元に低い体勢で現れたシェディムはバティンの足目掛け切り付ける。
剣が足に触れるか否かの瞬間、シェディムは信じられないものを見る。
バティンが消えたのだ。
しっかりと切り付ける直前まで見ていたのに……。
「ふむ、貴様の能力がわかった」
聞こえたのは数m離れた位置に立っている悪魔が発した声。
「俺が見失っただと!? 馬鹿な……っ!」
「貴様の能力だが、極限まで知覚を高速化、同時に肉体強化も限界を超えて行う事で、他者には時間が止まったかのように錯覚させるものであろう?
だが、それが可能なのは数瞬といったところか」
(な……っ!? 一度見ただけで……しかも今の動き、こいつは結界が能力じゃ無いのかっ!?)
「そんな事だろうとは思っておったがな。時を止めるなど人の身では出来まい」
「……まるでお前は出来るかのような言い方に聞こえるな」
「当然であろう?」
おもむろに足元の石を拾い上げた悪魔はシェディムに向かって軽く放り投げた。
そして、投げたと思った次の瞬間には石がシェディムの頭に当たって床に転がった。
シェディムは嫌な汗が止まらない。
本当に時間を止めた……? 馬鹿な! そんな事、まるで神ではないか……!
だが、今起こった現象を説明出来ない。
「お前……まさか、神なのか?」
「神などと一緒にするな。我はバティン、魔界における公爵である」
そう言った悪魔は腕を振る。
シェディムの下半身を見えない何かが持ち去り、臓物を撒き散らしながら最強の暗殺者は地に臥した。
「ゴフッ……ククク、手を出すべきでは無かったな……」
「ではな。来世では気をつけると良い」
シェディムは血反吐を吐き意識が薄れていく。
1つだけ、自分を殺した悪魔に1つだけ聞いておきたい事があった。
「あ……悪魔。お前……には、真……名が……あるだ……ろう?」
「我の真名か。ふむ、冥土の土産という奴だな。良かろう」
「我はアルカヤード。アルカヤード=バティンである」
アルカヤード……クク、アルカヤード《なんでもできる》だと……?
ふざけた真名だ……。
暗殺者シェディムの命は消え、悪魔は静かに立ち去った。
★★★★★
最後の部分は昔影響を受けたラノベから、ずっと覚えている部分をパk、オマージュしました。
わかる人いるぅ?
面白かったラノベでした。
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