第36話 襲いくる暗殺者

戦闘描写が上手く行かぬ……



★★★★★ 



バティンがスラムにてシェディムの情報を引き出している頃。

 クレア達が泊まる宿に襲撃があった。


 突然部屋の窓が割れ、侵入者が入ってくる。

 黒い装束を見に纏った集団、恐らく暗殺者。


「うわわ!」


 クレアが慌てて枕を盾にするが、何の意味もない。

 襲い掛かる暗殺者に思わず目を瞑る。


「ぐはっ!」


 クレアに届く前に、レミエルが大剣の腹で暗殺者を外に弾き飛ばす。

 瞬く間に侵入者3名は入ってきた場所から弾き出された。


「ドゥルガ様!」

「大丈夫よ! アタシが結界を張ったわ。この部屋には何人も入れない」

「ありがとうございます! ドゥルガ様はクレアどのにお守り下さい。囲まれていますので、私が出ます!」


 レミエルは部屋の窓から飛び出す。


「ギルド長が言ってた暗殺者ですか、レミエルさん大丈夫でしょうか」

「まぁ、大丈夫でしょ。普通に強いし」


 そう、レミエルは強い。

 バティンの陰に隠れがちだが、パルテナの聖騎士の中でも随一の力の持ち主。

 普通の暗殺者程度では束になっても敵わない。


 そんなレミエルが外に舞い降り、暗殺者集団と対峙する。


「貴様らが幽鬼スペクターが、この聖騎士レミエルがいる限り手は出させん!」


 暗殺者は総勢20人ほど、先程叩き出した者のよろけながらであるが立ち上がっている。


(中々の練度の暗殺者だ。だが、この程度の修羅場は経験済みっ!)


「さぁ! かかってこい! 私は逃げも隠れもしないっ!」


 だが、暗殺者達はレミエルを囲ったまま動かない。

 距離を開けて様子を見ているかのよう。


「むむ? どうした臆したか!?」


 すると、囲いの一部が開く。

 そこに現れたのは同じく黒い衣装に身を包み、目には黒い包帯が巻かれている。

 手には長めのナイフを持ち、音もせず歩いてくる。

 レミエルを囲っていた暗殺者達は、その者の道を開け跪く。


「……どうやら部下では難しかったようだな」


 あまりにも静かな佇まい。

 ふと気を抜くと見失ってしまうかのような空虚な雰囲気。


「そうか、貴様がシェディムだな?」

「いかにも。お前はなんだ? 見たところ聖騎士のようだが」

「ふん、情報収集が足りてないな。私はパルテナの聖騎士レミエル=ガルガリン。バティン殿を狙う暗殺者め、成敗してくれるっ!」

「そうか、あの悪魔は気をつけるべき相手だが、その他は有象無象だと思って調べていなかったな」


 暗殺者シェディムは首に手を当て、準備運動のように首を鳴らす。


「まぁ何だって良い。聖騎士など殺すのは容易い」

「ほざけっ!」


 レミエルは一足飛びにシェディムに切り掛かる。

 右上段からの袈裟斬り。その迫る速度は闘技場王者ガウェインと遜色無い。


(取った!)


 レミエルは自分の振るった刃がシェディムの首に吸い込まれるのをしっかりと見ていた。

 正に首に食い込む直前、シェディムが目の前から消えた。


 と、同時に背中に衝撃。

 なるべく衝撃を殺すべくレミエルは自らも前に飛ぶ。

 反転し地面に跡をつけながら止まると、シェディムが片脚を上げた状態でいた。


(喰らったのは蹴りか、しかし……)


 蹴り自体のダメージはそこまででは無い。

 問題は確実に切ったと思った瞬間に後ろに居た事だ。

 一体どうやって……。


 考える暇を与えないとばかりにシェディムが攻勢に出る。

 姿勢を低くしレミエルに疾ってくるシェディム。

 速さはそれほどでも無い。だが、無音で地面を滑るように迫るその姿はさながら幽霊かのよう。


 大剣の間合いに入った直後、またしてもシェディムが消える。

 そして同時に首筋にピリっと電気が走ったような感覚。


 レミエルはその感覚頼りに左腕で首を守る。

 その左腕がナイフで切り裂かれた。一瞬でも遅れていたら首を切られていただろう。


 左腕が切られたがレミエルはそれを意に介さず、右手で大剣を後方に向けて振る。

 シェディムはその大剣の腹を蹴り、空中に逃れる。


 レミエルはそれを好機と見た。

 空中にいるシェディムに切っ先を向け、光の翼による刺突。

 夜の街に一条の光の線が走る。


「空中では躱せまいっ!」


 だが、またしてもシェディムは消え、地面に立っている。


(一体どういう事だ……まるで)


 レミエルは思い出す。

 こっそりとギルド長との話の内容をバティンに聞いていた事を。

 そこには『時間を止める』という単語があった事を。


「馬鹿な、本当なのか?」

「……空中では手が出せんな。ここは一旦退くか」

「待てっ!」


 レミエルは逃げようとするシェディムを追う。

 だが、それは誘い。シェディムは退く素振りを見せレミエルを釣り出したのだ。


 レミエルがシェディムに近付くと、再び消える。


(今度は上だ、死ぬが良い)


 消えたら背後に現れるパターンを見せておいて、空から迫るレミエルのさらに上からの攻撃。

 相当な手練れでも何が起こったかわからぬまま死ぬだろう。

 シェディムの誤算は相手を普通の聖騎士レベルで考えた事。


 歴代の聖騎士の中でも群を抜いて高い戦闘力を誇るレミエルは天才だった。


 レミエルは闘いの最中、基本的に感覚頼りに闘う。

 その天才的勘が頭で考えるよりも先に身体を動かす。

 振り上げた大剣はシェディムを捉えた。


 が、またしてもシェディムは消える。

 しかし無傷とはいかなかったようで左肩から血を流している。


「ちっ! 次は確実に捉えるっ!」

「ここまでの力とはな、これは時間が掛かりそうだ」


 そう言ってシェディムは懐から小さな玉を地面に叩き付ける。

 辺りに白煙があがる。


 レミエルが大剣で風を起こし、煙を消した時には既にその姿は無かった。


「くっ……逃げられたか! 不覚っ!」






 シェディムはこの街の拠点へ戻りながら考えていた。


(あの聖騎士も真っ向からやり合うのは骨が折れそうだな。次は毒の武器で確実に始末するとしよう)


 スラムの奥にある、朽ちた一軒家。

 その2階がナーリアでの拠点であった。


 帰還したシェディムはそこで信じられないものを見る。

 拠点に居た暗殺者達が山のように積まれ、その頂上には悪魔が座り本を読みながら寛いでいた。


「待ちくたびれたぞ、暗殺者よ」

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